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The Lost Universe 古代の巨大ネコ⑤巨大ネコ型UMA

時代の古今、洋の東西を問わず、ネコは不思議で神秘的な生き物とされてきました。夜半に活動し、闇の中で華麗に跳躍する姿は、まさに冥界からの使途です。ミステリアスな存在ゆえに、人類史においてネコそっくりの怪物が度々姿を現しています。
いわゆるUMA(未確認生物)の中でネコ型の生き物は、秘境の奥地のみならず、我が国・日本でも目撃されています。恐ろしく猛々しい彼らは、よもや古代ネコの生き残りなのでしょうか。


古代ネコは今も生きている?

人に愛される現代のネコたち

有史以前の人類は多くの肉食動物の脅威にさらされており、大型のネコ科動物と戦ってきました。時代は移り、人が文明を持つようになると、野生のネコを家畜化しようとする動きが広まってきました。その中で人間社会に最も親密に溶け込んだ種類がイエネコです。
イエネコの起源になったのはリビアヤマネコというネコ亜科の一種であり、ネズミ駆除のために飼われ始めたと言われています。日本の離島には有史以前よりツシマヤマネコやイリオモテヤマネコが生息していますが、ペットとしてのネコが国内に渡ってきたのは弥生時代だと考えられています。

気高さを放つアメリカンショートヘアー(ねこの博物館にて撮影)。古来より人はネコを家畜化し、美しい品種を数多く生み出しました。

とにかくネコは人気者です。見た目の可愛さ、さりげなく見せてくれるかっこよさに人々は虜になり、現在ではイヌを凌ぐほどのペット需要があります。そのうえ、ネコとの憩いの場「ネコカフェ」も全国各地で運営されており、家で動物を飼えない人でもネコたちと触れ合えるようになりました。
習性はかなり異なるものの、イヌと同じくネコも人間が大好きで、飼い主のことを信頼してくれています。これからもずっと、イエネコは人類と共に生き続けることでしょう。

お昼寝中のアビシニアン(ねこの博物館にて撮影)。可愛いネコとの生活に憧れる人は多く、現在ではペットとしての需要はイヌよりも高くなっています

意外と多い! 謎のネコ科動物

ファンタジーの中では、ネコはイヌよりも不思議な存在とされています。おとぎ話やホラー作品では、ネコは人間を異世界に招き入れたり、怪物になって現れたりします。彼らの謎めいた動きや夜行性の生態に魅せられ、人はネコを冥界の使いのように感じたのかもしれません。

ネコを模した人外の存在(ねこの博物館にて撮影)。イヌよりもミステリアスな雰囲気をまとうネコたちは、ファンタジー・ホラー系の創作物に引っ張りだこです。

そのような背景が根底にあるのかはわかりませんが、奇妙なネコ科動物が世界各地で目撃されています。1つ例をあげるなら、アフリカの「ブチライオン」です。ライオンの子供にはヒョウのような斑点がありますが、なんと全身にブチをあしらった成体のライオンが目撃されたと言うのです。ただ、あくまでもUMAであり、ブチライオンの存在はいまだに立証されていません。高地の森の中に生息していると言われており、正体はヒョウなんじゃないのかと筆者は思うのですが……。

レオポンの剥製(国立科学博物館 特別展「大哺乳類展3」にて撮影)。ライオンとヒョウの交配によって生まれる雑種であり、ブチライオンのイメージに似ているかもしれません。

ちなみに、ネコ型UMAの中には人間を襲った猛獣もいます
アフリカのタンガニーカ湖の付近では「ヌンダ」と呼ばわれる巨大ネコ型のUMAが目撃されていて、人間だろうが家畜だろうが手当たり次第に襲う猛獣だと言われています。UMAなんているわけがないと思われがちですが、ヌンダは実際に人間を噛み殺した記録があり、ライオンともヒョウとも異なる体毛が物的証拠として回収されています。地元民の目撃証言では、ヌンダはウマ並に大きく、明らかにライオンやヒョウとは別の動物であると語られています。

最強の風格漂うライオンの剥製(きしわだ自然資料館にて撮影)。ヌンダは通常のライオンよりもはるかに大きく、古代の巨大ライオンを彷彿とさせます。

ヌンダの大きさと強さは、最強のネコ科動物である古代ライオンを連想とさせます(下記リンク参照)。ただし、ホラアナライオンやアメリカライオンとは生息域が異なっているため、古代ライオンの生き残り説は可能性が薄そうです。

ヌンダの他にも、古代ネコの面影を感じさせるUMAは数多く目撃されています。ファンタジーの中のみならず、現実世界においても、ネコたちは我々に謎と神秘をもたらしているのです。

巨大ネコ型UMA(未確認生物)

ヴァッソコ 〜戦慄の猛獣! アフリカ産のサーベルタイガー!?〜

剣の牙を装備する勇壮な猛獣ということで、サーベルタイガーは古代哺乳類の中でもマンモスに匹敵しうる人気を誇ります。生きている姿を拝んでみたい人は多いのではないでしょうか。実は、サーベルタイガーの仲間ではないかと噂されるUMAが暗黒大陸のジャングルで目撃されています。
20世紀より、中央アフリカの山岳地帯において、未知の大型ネコ科動物の目撃が続出しています。当該生物はライオンを上回る巨躯であり、長大な牙を備える未知の猛獣だと噂されました。その名を「ヴァッソコ」といい、情報を総括するとサーベルタイガー(マカイロドゥス類)そっくりの姿をしていると考えられます。
ヴァッソコはかなり凶暴な性質を有しているらしく、現地の人々にはとても恐れられています。仮に正体がサーベルタイガーだとしたら、武器を持っていない状態の人間は格好の獲物であり、地元住民には脅威でしょう。サーベルタイガーのハンティングスタイルは待ち伏せ型なので、山岳地の森に棲んでいるというのも納得できます(下記リンク参照)。

スミロドンやマカイロドゥスほどの大型種ではありませんが、アフリカ大陸でもサーベルタイガーの仲間の化石が発見されています。ヴァッソコの正体がサーベルタイガーの生き残りかどうかは別として、長い犬歯を装備する大型肉食動物の存在は、現地では昔から認知されていたようです。アフリカでの狩猟経験のあるハンターがセイウチの写真を見たところ、「この生き物なら森の奥にいる。1頭捕まえてこようか?」と言ったそうです。
セイウチとサーベルタイガーは大きな牙以外にあまり共通点はないので、案外早とちりなハンターさんだったのかもしれません。それとも、実際のサーベルタイガーは体毛がとてもうすいのでしょうか。

セイウチの頭骨(ねこの博物館にて撮影)。長い牙は天敵との戦いや同種間の闘争において、打突用の武器として使用されます。
サーベルタイガーの代表種スミロドンの頭部(国立科学博物館にて撮影)。セイウチの牙とは違って、サーベルタイガーの犬歯は切断力の高い「ナイフ」なのです。

サーベルタイガーが今もアフリカに生き続けているというのは荒唐無稽な話に思えますが、同じ中央アフリカの森に生きるゴリラたちも、近代までは未確認生物と思われていました。もちろん、現段階ではヴァッソコの存在に科学的根拠はありません。ただ、果てしないアフリカの大地に未知のネコ科動物が生息している可能性は、決してゼロではないでしょう。

和歌山ライオン ~関西の森を恐怖に陥れた神出鬼没の肉食獣~

ネコ系UMAの目撃は、アフリカやアマゾンのジャングルに限った話ではありません。我が国・日本においても、大型ネコ科動物に似た未確認生物が現れています。
1971年、和歌山市の浪早崎付近をパトロールしていた警察官が、雑木林の岩の上で大きな獣を目撃しました。なんと、それはメスのライオンそっくりのネコ科動物であり、真っ昼間の海に近い里地に堂々と佇んでいました。すぐに本署をあげての捜索が行われましたが、ライオンは発見されていません。警官の早とちりかと思われるかもしれませんが、翌年に和歌山県を訪れた京都の中学生が、新和歌浦にてライオンのような動物を目撃しています。当時の和歌山県の海際の森には、大型ネコ科動物を思わせる「何か」が棲んでいたのでしょうか。

ライオンの剥製(松本市四賀化石館にて撮影)。これほどの猛獣が身近に存在していると噂されれば、地元住民はかなりの恐怖を感じたことでしょう。

日本にライオンが棲んでいるなんて到底考えられません。ただ、古代においては、日本国内には大型ネコ科動物が生息していました。更新世(約258万年~約1万年前までの期間)の後期に大規模な氷期が到来し、陸地に氷河が形成されました。その影響で海に戻る水の量が減り、海水面が低下。日本とユーラシアの大地は陸続きとなったので、大陸から多くの動物が日本に渡ってきました。その中には、マンモスやナウマンゾウ、そしてトラも含まれています。

日本で発見された古代トラの複製頭骨(ふじのくに地球環境史ミュージアムにて撮影)。更新世の後期には、トラやナウマンゾウなどの動物が大陸から日本へ渡ってきました。
栃木県から出土したトラの化石骨のレプリカ(佐野市葛生化石館にて撮影)。ただ、いくら古代に大型ネコ科動物が生息していたとはいえ、トラが現代にまで生き残っていたとは考えにくいのですが……。

とはいえ、古代トラの生き残りが和歌山ライオンの正体かと言われると、かなり怪しいです。そのような大型肉食動物が生息していた事実は、日本史の記録資料のどこにもありません。現代においても生息が確認されていないということは、やはり今の日本には大型ネコ科動物が棲んでいないと言えます。
では和歌山ライオンは一体何者なんだと問われると、「飼育下から逃げ出した個体」と言わざるをえません。関東の事例になりますが、同じ1970年代において、千葉県の君津市にて個人飼育のトラの脱走事件が発生しました。地域社会が恐怖に見舞われる中、猟友会と警察が協力してトラを駆除しました。
人的被害が出る前に事態を解決できたのは良いことなのですが、しっかりと飼育管理されていれば、トラたちは死なずに済んだはずです。生き物を飼育することの責任について、改めて考えさせられる事件だと思います。

ベンガルトラの剥製(ねこの博物館にて撮影)。君津市で脱走したトラたちは、全て射殺されました。不幸な動物や人間を増やさないために、飼育管理は厳重に実施されなくてはなりません。

ネコ型UMAの目撃は世界中に例があります。それはすなわち、ネコ科動物が人々から畏怖される驚異的な捕食動物であることの証明です。
高度に洗練された捕食者・ネコ。その勇ましさと巧みな狩りの技は、地球に生まれた肉食動物の中で最高峰と言えるかもしれません。自然界で気高く優雅に生き続けるネコたちは、ハンターとして極限まで洗練された脅威の生き物なのです。

【前回の記事】

【参考文献】
今泉忠明(1994)『謎の動物の百科』データハウス
Reumer, J. W. F., et al.(2003)Late Pleistocene survival of the saber-toothed cat Homotherium in northwestern Europe. Journal of Vertebrate Paleontology 23: 260.
今泉忠明(2004)『動物百科 野生ネコの百科』データハウス
Driscoll, C. A., et al.(2009)From wild animals to domestic pets, an evolutionary view of domestication. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106 (S1): 9971-9978.
中辻健太郎(2015)『戦後70年 千葉県の出来事 君津神野寺・トラ脱走 住民、1カ月間「恐怖の夏」』産経新聞 https://www.sankei.com/article/20150804-EAB6LLYSHNORDDET3I7XNZQ3TA/
マエオカテツヤ(2019)「妖怪大図鑑〜其の百七拾参 和歌浦のライオン(テレポートアニマル)」ニュース和歌山 https://www.nwn.jp/feature/191102_lion/
太田匡彦(2022)「猫はいつ日本にやってきた? その「出会い」を探りに記者が旅した」朝日新聞 
日経ナショナルジオグラフィック(2023)『ネコ全史 君たちはなぜそんなに愛されるのか』
怖い話投稿サイト 怖話「ヴァッソコ」 https://kowabana.jp/boards/70074

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