マガジンのカバー画像

空想日記

389
あなたの知る私ではない『誰か』から届くメッセージ。日記のようで、どうやら公開して欲しいみたいだったのでここで。ちっぽけな世界のちっぽけな私のここから、私の元に届く誰かからの日記。… もっと読む
運営しているクリエイター

2021年5月の記事一覧

さよならの前の日

さよならの前の日

明日から国立魔法学校に通う。

寮で使う荷物は昨日フクロウ便で全て送った。
今から準備するのは新学期の最初の授業で使うものたち。

幻銅の鍋に、真鍮の秤。それから魔道参考書をいくつか。
魔除けのハーブと、使い魔の餌は必需品だ。

あと、

かあさまがが刺繍を入れてくださった特別のローブ。
とうさまが獲ってきたユニコーンの角と魔石で作った魔術媒介用の杖。
おばあさまから譲り受けた守護の力を持つ魔法石

もっとみる
雨に唄えば

雨に唄えば

泡沫高原には虹色の雨が降る。
色とりどりの雨、あめ、アメ。
太陽が天辺に来た頃、雨雲が姿を消したまま降らせる雨。

虹色の雨は、夢まぼろしのような景色を見せる。
一生治らないと言われた怪我が治ったり、世紀の大発見をしたり
なんて噂が広まるくらいには幻想的な美しさがある。

泡沫に広がる光源で、虹色の雨をこの身に受けて
私はひとり歌を唄う。

雨のうた。世界のうた。昨日のうた。明日のうた。

私の、

もっとみる
透明の種ひとつ。

透明の種ひとつ。

覚えのない宛先から封筒が届いた。
中を開けてみると一枚の紙切れと何かの、種の様なものがひとつ。
そういえば最近、知らない宛先から植物の種が送られてくることがあるらしい。巷ではキケンな植物だとかなんとか、そういうウワサが流れていた。

でも多分コレはそういうやつじゃないと思う。

だって、

あまりにもネオンネオンしく輝いているのだから。

透明の色をしたそれはプリズム光を瞬かせ、眩しいくらいに輝い

もっとみる
君は太陽

君は太陽

黒、い絵の具を水に垂らしたぽたん、ぽたん、ぽたん。
じわじわと広がる波紋は蛇のように畝って捻れて曲がりくねる。
垂らした雫の軽い方はそうやって水面を染めて、重い方はどんより下へ沈んでいく。

柔らかな、シルクの布が靡くように、ゆらゆらとひらひらと漂って、舞い降りる。

水を張った器の底にぶつかって何度かリバウンドしたら重たい、黒、はそこから、底の方から、そのく、ろ、を広げていくのだ。

先生は言っ

もっとみる
かるくておもい

かるくておもい

辛抱強く並べたドミノを倒して崩れていく瞬間。
大切に大切に積み上げてきたもの、両のてのひらで落とすまいと掴んでいたもの、そういうの全部、まとめてぽいって、手を離したくなる。

例えばこれから急行が通過する駅のホームとか、木も遠くなるくらい地面と離れた歩道橋のうえとか。

今。そう、今ここで。

生きるを放置したらどうなるんだろうか。と、そう思うことが度々ある。
しんで、しまいたいとかそういうんじゃ

もっとみる
半透明のスター

半透明のスター

キラキラ輝く一番星。
きみはいまどこにいるの?

ぼくは残月
昼間に取り残された半透明のお月様の片割れ
輝くことも許されずにただぼうっと青い空に浮かんでいる
ぼくだけひとり、浮かんでいる。

けれど時々、ぼくとすれ違う星。
ぼくはその星に恋をした。

西の空で輝いているキラキラ眩しい一番星に。

ああ、ぼくは恋をしたのだろうと確信したのは、多分今で。
面と向かってお話するのはもちろん今日が初めてで

もっとみる
宇宙バイク便

宇宙バイク便

ブルンルンルン、エンジンの音が聞こえる。

宇宙からバイク便で手紙が届いた。
惑星銀河旅行に行っている親戚一家からだった。

こないだ、商店街の抽選で見事一等大当たりを引いたらしい。叔父さんたちはそれはもう喜んで準備していた。ホテルで手紙を出すよ、お土産もたくさん買ってくるって言ってた。

そんな訳でこれは宇宙からの手紙。
宇宙旅行で浮かれてる叔父さん一家の手紙である。

ふむふむ、地球を出発した

もっとみる
好きと嫌いの境界線

好きと嫌いの境界線

好きと嫌いの境界線、わたあめみたいに滲んで溶けた。
好きと嫌いが行き交って、どんどんどんどん育っていく、感情。
大きすぎて、手に余る。
途方にくれる、午前2時。

嫌い、嫌い。こんな気持ちにさせるあなたが。
大嫌いとは言い切れなくて。
だけど好きなんて言いたくない。

カカオ73%のビターチョコレート
ココアに沈めて飲み込んだ。

明け方の空がうすピンクに染まる。
好きで嫌い、嫌いで好き。
裏返し

もっとみる
漏れる朝陽

漏れる朝陽

いつもより早く目が覚めた。
昨日はほとほとくたびれて、気づいたら夢すら届かない深い眠りの底に落ちていたようで、起きた時は心地の良い気だるさとスッキリとした頭が残っていた。カーテンから漏れる朝陽と、少しだけ開けた窓から入ってくる爽やかな風がつま先をくすぐる。
もう少しだけこのままで、なんて怠惰な思いと折角だから何かしたいと言う気持ちが同時に顔を出す。
うーん。深く息を吸って伸びをする。
のそり、タオ

もっとみる
ラヘルの消えた日

ラヘルの消えた日

アンティークグリーンの空、目が眩むほどの晴天。
今日はルラの日。とびきりのお祭り日和だ。

祈りの踊りとご馳走を太陽神アルムピカに捧げて、新緑を祝い一年の豊作を願う日。
ルラは最初の神子となった人の名前らしい。
こどもたちの中から一番踊りが上手い人がルラとなって、代表して踊りを捧げる。

ルラに選ばれるのは一種のステータスみたいなところがあって、ルラになったことがある人はみんなエリート街道まっしぐ

もっとみる
白象とデート

白象とデート

夢に出てきた白い象が、目の前に現れた。
ぐるんぐるん渦巻く雲の上に乗って、悠々と登場した白い象は、わたしに向かってこう言い放った。

『お嬢さん、僕とお茶しません?』

ナンパだった、ナンパ。まさかの、まさかが過ぎるだろうが。
白い象は真っ白過ぎるその頰を赤く染め、瞳を逸らしながらも懸命にわたしを誘うのであった。
よくよく理由を聞いてみると、どうやら彼はわたしの夢に度々登場してくるあの白い象と同じ

もっとみる
またね

またね

不思議な縁というものは確かにあって、それは偶然の出会いだったり、必然の出来事であったりする。
運命の赤い糸なんて人々は言うけれど、袖振り合うのも多生の縁。前世すれ違った相手と今世は愛しあったり憎しみあったりする。

私は何故か、生まれる前の記憶がある。
いわゆる前世、を覚えている。それもたくさん。今まで繰り返してきた輪廻の輪の幾つもの人生を覚えている。(人ではない時もあったけれど面倒なのでまとめて

もっとみる

ねぼすけの世界

3回目の二度寝のあと、布団でかたつむりを作りながら締め切ったカーテンを4センチほど開けておくと、見知らぬ世界へ行けるそう。
そこではどれだけ眠ろうと何も言われない、ねぼすけたちの理想の国があるというのです。

とっても魅力的で誘惑的な世界だけど、そこで夢枕を使うことはしてはいけません。

どうにかなるのか、どうなってしまうのか。
恐ろしくてそんなこと、口が裂けてもいけません。
少しだけだ開けたカー

もっとみる
手紙

手紙

寮のベッドで手紙を読む。
懐かしい封蝋の模様にそっと指でなぞる。
小さい頃、お爺様にお願いして封蝋を押すのをやらせてもらったことを不意に思い出した。
アルコーブベッドはその閉塞感が心地よいけれど手紙を読むにはいささか暗過ぎるのでランプを灯す。
封を開けて手紙を出すと便箋の上で文字たちがダンスを踊っている最中だった。
中身を読ませないための呪文、古いまじないといった方が近い気もする。
我が家に代々伝

もっとみる