見出し画像

またね

不思議な縁というものは確かにあって、それは偶然の出会いだったり、必然の出来事であったりする。
運命の赤い糸なんて人々は言うけれど、袖振り合うのも多生の縁。前世すれ違った相手と今世は愛しあったり憎しみあったりする。

私は何故か、生まれる前の記憶がある。
いわゆる前世、を覚えている。それもたくさん。今まで繰り返してきた輪廻の輪の幾つもの人生を覚えている。(人ではない時もあったけれど面倒なのでまとめて人生とする。)

ある時は蝶、ある時は猫、ある時はクジラ、そしてまたある時は人間であった。
途方もないほど繰り返す人生の中で色々な人に出会う。優しい人、ひどい人、怖い人。
そして、愛しい人。

私はどの人生であっても必ず同じ人と出会った。そしてまるで見えない何かに操られているかの如く同じ人を愛した。
それは天敵だったり、同族だったり、主従だったり、友人だったり、すれ違っただけの間柄だったり、結局出会いないまま終わったりした。

私は、気が遠くなるほどの永い繰り返しの中で、跳ね除けても跳ね除けても心に居座るあの人に、出会えなくても焦がれて、待ち続けるようになった。

今世はすれ違ってしまっただけかも、来世で必ず会えるだろうか。
会えない人生は毎回そう思いながら死ぬ。
次の人生に期待して。

私だけが覚えている、私だけがいつも、覚えている。あの人のこと。
だから、こんなのはおかしい訳であって。

目の前の人間がぼろぼろと泣きながら私の手を握る。初対面の筈なのに、感動的な再会のように。

“会いたかった。ずっと、ずっと探してた。”

それは、こっちのセリフなんだって。
私はよぼよぼのおばあちゃんで、あなたはたまたま私と同じ病室になった人のお孫さん。
初対面じゃなきゃおかしいのに。
私も涙を止めることはできなかった。

今世は少し、寂しい人生だった。
次こそ来世で、なんて思うには草臥れてしまったと思うほどに。
けれどそんなのもうどうだって良い。
悔いがないって言ったら嘘になる。
けど、最期に貴女にであえたことは本当に私の一番の幸せで。
死んでしまうことは怖くない。
次は、次の人生はなんだかとっても上手くいく気がする。

“また来世で、今度は遅れないで来てちょうだい?”
なんて、ちょっと意地悪にウィンクをする。
霞む視界いっぱいに貴女が映る。
涙でぼろぼろの貴女は鼻を真っ赤に啜りながらそれでもにっこり笑ってくれる。

さよならは言わない、だって必ず会えるもの。
またね、来世で会いましょう。

握る手が、鉛のように重くなって。
なんだかすごく眠たくなって。
瞼を閉じたら羽のように軽くなった。

大丈夫。
きっと、大丈夫。

この記事が参加している募集

スキしてみて

いつも応援ありがとうございます! 頂いたお代は、公演のための制作費や、活動費、そして私が生きていくための生活費となります!! ぜひ、サポートよろしくお願い致します!