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手紙

寮のベッドで手紙を読む。
懐かしい封蝋の模様にそっと指でなぞる。
小さい頃、お爺様にお願いして封蝋を押すのをやらせてもらったことを不意に思い出した。
アルコーブベッドはその閉塞感が心地よいけれど手紙を読むにはいささか暗過ぎるのでランプを灯す。
封を開けて手紙を出すと便箋の上で文字たちがダンスを踊っている最中だった。
中身を読ませないための呪文、古いまじないといった方が近い気もする。
我が家に代々伝わる秘密の魔法だ。
小さな声で合言葉を囁く。ダンスパーティーはあっという間に終了して文字たちは綺麗に整列する。

並んだ言葉たちは、優しくてあたたかいものたち。少し憂鬱だった明日の試験も、きっと大丈夫と思えそうなくらい。

次の休暇まであと少し、なんて返事をしようか特別の便箋を手に取った。
朝焼けとの溶けた海のインクを使おうか。
明日朝一で手紙を出そう。

灯りを落としてベッドに沈む。
耳の奥で、懐かしい誰かの子守唄が聞こえたようだ。


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