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逆さまくじら

ある晴れた日、小さな村に住む少女は、一人海辺に座っていました。潮風がそよそよと吹き、波が静かに寄せては返す音が聞こえてきます。太陽は真上から照りつけ、肌をじりじりと刺すようでしたが、少女は気にせずに空を見上げていました。

少女は今日も、何かを待つように空を見上げていました。誰よりも小さな少女はいつも馬鹿にされていました。そんな時は、いつもこうやって海辺に座り空を眺めます。彼女がまだ幼かったころ、世界を旅する船に乗って村にやって来た大きな男の人と出会いました。その出会いが彼女の心に深く響きました。おじさんは世界中を旅する船乗りで、たくさんの冒険の話を聞かせてくれました。その中でも、少女の心に強く残ったのは、あるおとぎ話でした。

「空を飛ぶくじらを知っているかい?」
おじさんは目を輝かせながら語ります。
「くじらは気まぐれで、めったに姿を見せない。でも、ある少年がそのくじらに出会い、世界を旅したという話を聞いたことがあるんだ。逆さまに泳いでいるらしく、逆さまくじらって呼ばれている。そのくじらに出会えれば、人生が変わるんだってさ…まるで夢みたいだけどな。」

その話を聞いた少女は、夢見る心を胸に抱き、「私もそのくじらに会いたい。いつか、世界を旅してみたい…」そう願うようになりました。それ以来、少女は空を見上げるようになりました。

この日も、小さな自分を笑われ、少女は一人で海辺に来ていました。
「どうして私は大きくならないの?」
少女は空に問いかけながら、涙を浮かべていました。
すると、ふと遠くの空に何かが見えました。

それは、雲の中を悠々と泳ぐ、逆さまのくじらでした。
少女は目をこすり、涙を拭って立ち上がりました。
「本当に、逆さまくじらはいたんだ…!」

ゆっくりとくじらは少女の方へ泳いできます。本当に逆さまで、ゆっくりゆったりと時間の流れが遅く感じるほどのんびりと。少女は声をかけます。
「くじらさん、なんで逆さまなの?」

くじらは静かに答えました。
「やぁ、小さき者よ。逆さまで泳ぐのは、嫌なこともちっぽけだってわかるからさ!」

少女はそれを聞いてなんだか安心しました、そして、勇気を持って言いました。
「くじらさん、私も空を泳いでみたい!!」

すると、くじらは逆さまの体をぐるっと回転させ、ゆっくりと少女を迎えに来ました。
「さぁ、小さき者よ、背中に乗りなさい。空の世界へようこそ。」
くじらの背中に乗った少女は、風の流れを感じながら、村から遠ざかる景色を見下ろしました。空は広く、風は自由で、太陽の光が雲に反射して輝いていました。

二人は雲を抜けて、星々の海へと旅を続けました。
その世界は、少女が夢見ていた以上に広く、未知なる光景で満ちていました。星の間をすり抜けながら、少女はくじらと共に新しい世界を発見し、心がどんどん軽くなっていくのを感じました。

くじらは少女をお腹にのせ、ゆっくりと体を回転させ逆さまになりました。少女は仰向けになり、クジラの広いお腹の上で目を閉じました。

「逆さまのまま泳いでいると、どんな気持ちになるの?」
クジラは優しい声で答えます。

「この広い空を見てごらん。僕たちが逆さまでいると、地上の音や騒がしさは届かなくなるんだ。自分の存在がどれだけ小さいか、そんなことも気にならなくなる。この自由な空の中で、風や星の歌を感じることができるんだから。君にはこの歌が聞こえるかい?」
少女は目を閉じたまま、小さく微笑みます。
「優しい歌声が聞こえるわ。あれほど聞こえていた私への声が全く聞こえない」
クジラはゆったりとした声で続けます。
「それはそうさ、この歌声は心の美しい人にしか聞こえないからね。君の心に聞こえるものを信じるといいさ」
少女は目を輝かせてくじらに言います。
「人の声にばかり耳を傾けていたんだね私。ちゃんと自分の声を聞いてなかった。」

少女はそのままクジラのお腹にうつ伏せ、星々の間を漂うような感覚に身を委ねます。少女の心は、これまでの重い悩みから解放され、もっと軽く、もっと自由に感じ始めました。
「逆さまでいるのって、悪くないね。」

やがて、くじらは少女を地上へ送り届けました。
「ここでお別れだよ、勇敢な者よ。君の旅はここから始まるんだよ。」

少女はくじらに感謝し、手を振りました。少女は、体の中で止まっていた時間を取り戻すかのように、成長していきました。再び村に戻った少女に、もはや迷いはありませんでした。新しい目で世界を見つめる少女の心は、自分に自信を持ち、夢を追いかける決意がより強くなっていました。

「あなたに出会えて本当によかった、ありがとうくじらさん!」
少女は空を見上げ、青い空の下で新たな一歩を踏み出す決意を胸に秘めました。



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