戻らぬ青春に私は学ぶ。
■旅立ちの日。
・私は海外で暮らし始めたのが16歳の時だった。有難い事に空港には家族全員また多くの友人が見送りに来てくれた。
・私の兄は成田空港で「好きだったでしょ、このタコ焼き食べなよ」と言い、渡してくれた。
・タコ焼屋から空港まで持ってきてくれたのだが、運ぶ途中で中身がグチャグチャになり見た目がグロテスクになっていた。
■兄と二人で分け合うタコ焼き。
・見た目ばかり気にして、外見ばかり意識して生きていたその頃の私は、そのグチャグチャなタコ焼きを皆の前で食べる事が恥ずかしく、それだけが理由で、咄嗟に「いらないよ、食べないよ」と兄の申出を御礼も言わずに冷たく断ってしまった。
・このタコ焼きには兄と私の想い出が詰まっている。当時同じバイトを兄と一緒にしていた。バイト終業頃にはお腹が空いている。自転車で真っすぐ家に帰れば15分程で帰宅できるのだが、道中老夫婦が営むタコ焼きが抜群に美味しく一緒に帰れる時は何時もタコ焼き一箱を購入し兄と二人で分け合った。
■成田の冷めたタコ焼き。
・当時は若かった。兎に角常にお腹は空いているし、早く帰宅してご飯も食べたい、という事で兄と私二人は自転車に乗りながら時には手放し運転で器用にタコ焼き一つ食べたら兄に渡し、兄がひとつ食べたら私に折詰が戻される、タコ焼きが無くなるまでその行為を繰り返した。
・そんな二人の想い出のタコ焼きをあの時兄はどんな気持ちで購入し、空港までタコ焼きを抱えて持ってきてくれたのだろうか。そして、断られた兄はどんな気持ちだったか。私はそのことを想像すると今でも「お兄ちゃんごめんなさい」と後悔と涙が溢れてしまう。
・同じシチュエーションは二度と訪れない。でももしもう一度あの時と同じシーンに遇えたら私は兄にこう伝えるだろう、「お兄ちゃんありがとう、冷めててもここのタコ焼きはやっぱり美味しいネ」と。
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