町村紗恵子

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町村紗恵子

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最近の記事

年末年始にはお寿司を食べたい

「あら詩音ちゃん、元気そうでなにより」 羽田空港の到着ロビーで私を待っていた早苗は、私との一年振りの再会を喜ぶ風でもなくただそう言った。 私のようなミーハーな生き物は福袋が大好物である。それはもう、大晦日になると次の日の福袋がために、わざわざ飛行機に乗って東京へ舞い戻ってしまうくらいに。で、毎年の休憩所兼臨時荷物置き場は早苗のアパートと定めているのだ。そのアパートはといえば元々私が借りていたものであるから、転がり込んできた早苗に乗っ取られてしまっただけで今でも私のアパート

    • 元気になった私に不要なもの

      あのひとは私にこう聞きました。 「最近元気ですか?」 と。 あのひとのことは手に取るように分かります。 たとえいくらあれから時間が経っていようと、たとえいくら離れていようと、たとえそれがメッセージアプリ越しだろうと、あのひとのことはよく分かるんです。 私達は、そんな関係。 だからこそ私は言ってやりました。 「すごく元気だよ」 って。そうしたらもう返事がなくなっちゃった。 元気じゃない私は、あのひとのことが大好きでした。あのひとも、元気じゃない私が大好きなんで

      • 生理の到来をママに告げた日

        生理が始まったそのときのことより、ちょっと後になってママに相談したときのことの方がよく覚えてるんだ。 お皿を洗うママの手が、急に私の頬へ飛んできたときのこと。 私の頬は全く痛まなかったけど、悴んだママの手は赤くて痛そうだったの。 痛くしてごめんなさいって思って「ごめんなさい」って謝ったのに、ママはしゃがんで泣き出しちゃった。私を撃った手が痛くて、痛くて屈んじゃうくらい痛かったんだと思うの。 だから私は心の中でごめんなさいをもっとしながら、でも、泣いてるママの背中がどう

        • 彼女の自殺と救済

          私の彼女がこの間死にました。死因は自殺です。 自分が何もできなかったことがただただ悔しくって、罪悪感に溢れていて、どうでもいい友人たちに散々当たり散らしました。そうしたらみんな、どっか行っちゃった。 そうして最後に残ったのが、この子。 弟みたいに可愛がってる、この子。 でもきっとこの子だって最後にはどっかに行ってしまうんだ。だからこの子と電話しながら、言い放ってみました。 「死ぬ死ぬ言ってる人って、100回中99回は死なないけど、1回は死んじゃうんだよ」 って。その

        年末年始にはお寿司を食べたい

          私の祈り

          冬の夜の乾燥がしみる公園に辿り着くと、彼女はふと、 「きっと、あなたはもう大丈夫よ」 と優しく囁きました。 なのに私は、泣き崩れてしまいました。そんな言葉の重さには耐えきれませんでしたから。 そこから続く、二人の間の沈黙には殊更耐え切れませんでした。あるいは、彼女はそこに立ちつくしているのが正義だと思っていたんでしょうか。 沈黙に耐え切れず、ついに私は、自分の二の腕をつねりました。悪いのは言葉を受け止めきれない自分なんだから、自分で自分に罰を与えなきゃ、と思って。

          二人と一人の、似たもの三人暮らし

          昨日二人で、人間の大人を拾いました。 元々は、私たちはいつも二人だけでのんびりと暮らしていたのです。 遥か遠くの無人島で、二人だけで。 はじめのうちは、女性二人の力での無人島開発は大変だったものです。 でも、やってみればできることです。 それに、やるしか選択肢がなかったわけだし。 無人島暮らしを始めた当時のことを同居人――つまりはわたしの妻ですが――とよく話すのですが、二人の得意な分野がたまたま違ったからなんでもできたんじゃないか、っていうことで落ち着きます。 と

          二人と一人の、似たもの三人暮らし

          はるかとおくのあなたに

          距離感、という言葉があって、人と人との間の感じがどれくらいかということらしいです。 「ソンナモノ私にはよく分からない」と言うと、よく叱られたものです。なのでもう言いません。私にも分かります。それでいいでしょ? でもきっとソンナモノを計る機械なんてものが実在してたら、私はもっと後悔してたと思うんだ。 だって、私達の間の距離感なんて、メーターを振り切って「計測不能」の電球を点滅させていたはずだから。そんなものを見させられていたら、私は言い出さなかったでしょうから。 私達の

          はるかとおくのあなたに

          6歳年下のあのこと再会

          私、こう見えても昔は、今でいうところのオタサーの姫だったんです。 しかも大学は留年してしまったので、サークルには合計5年も居たことになります。 今日は、私の卒業十周年記念忘年会があるんだ。つまり私のための忘年会。 ね、それだけでも私って人気者だったってこと、分かるでしょう?みんなみんな、私のことが大好きだった。 そのはずなの。 とにかく、私の忘年会は大学の近くの居酒屋で行われることになりました。みんなでいつも行ってたあの居酒屋さん。 待ち合わせは大学の近くの駅。

          6歳年下のあのこと再会

          きずみせっ!短編ラノベ

          バイト先で仲良くなったお姉さまに、ちょっと聞いてみたくなって、聞いちゃいました。 「ねえ、傷跡の見せっこしようよ」 って。 ―――――――――――――――― そもそもこんなことを言い出せたきっかけは、お姉さまと初めてバイト先で出会ったとき、私と同じものをお姉さまから感じ取ったからです。お姉さまもきっと、持っている側の人間だ、って。 私はお姉さまとの接点を探しながら、ずっとお姉さまのことばかり見て、考えて、空想と妄想をしていました。 バイトなんて、どうせどちらでもよ

          きずみせっ!短編ラノベ

          保証なしの仕合わせ同棲生活

          「住民票の閲覧制限」なんて言葉、教えてくれたのは私の彼女です。私の知らないことをたくさん知ってる、私の大好きなひと。 私、親からは痛いことをされてきたし、初めての恋人にはストーカーされてるし、今でも警察に一年に一度出向いて、住民票の閲覧制限をかけてもらってるんだ。とにかく何もかもが怖くって。 でもでもそれでさ、私の彼女は本当に変な人なんだよ。住民票なんとかとか変なことをいっぱい知ってるし。 それに「保証」って言葉が大嫌いなんだって。 未来なんて見えないのに、見えるかのよう

          保証なしの仕合わせ同棲生活

          5歳年下の彼氏

          高校二年生といえば、そろそろ受験を意識し始めるころかもしれません。でも私にはそれ以上に大切にしたい人がいて、それどころではありませんでした。 恥ずかしきかな、私の彼氏は五歳年下の中学一年生でした。今になって思えば五歳差なんて大したことはないけど。 私は女子校に通っていて、あのこは男子校に通っていて。毎日途中の駅で待ち合わせして、毎日同じ駅まで通学していました。土日ももちろんあのこと一緒で、勉強したり、遊んだり、とにかく毎日があのこと一緒でした。 満員の地下鉄も、二人なら

          5歳年下の彼氏

          夫と制服のあのこ

          私がまだ結婚したてのころ、とても幸せでした。やっと全てが揃った感じがして。 でも全てというには失ったものがあまりにも大きすぎました。少なくとも私と夫とは他人だし、何の義務も権利もないはずなのに。 ですが、夫は家計費を払ってくれました。私は見返りに身体を売り払いました。これが完璧に揃った状態と言えるでしょうか? なので、私は夫とは正反対の性格の少年とお付き合いをしました。あのこは本当に生真面目で、誠実で、可愛くて、それに私が人生で二人目の恋人だと言いました。 あのこは、

          夫と制服のあのこ

          小雨の中で受けた告白と願い

          後輩の女の子から好意を寄せられました。なぜ私でなければならないのか判らず、反射的に「彼氏がいるので」とお断りしました。 私は彼女の性については全く気にしませんでしたが、ただその状況に困ってしまいました。挙げ句の果てに、彼女が泣き出してしまい、どうしたものかと思慮に暮れていました。 ですが、私にできることと言えば、全て無かったことにすることだと、そう一瞬で決意しました。これが彼女を傷つけないし、自分も加害者にならない方法だ、って。 小雨の中、私は「ありがとう、ごめんね。ま

          小雨の中で受けた告白と願い

          休学とあの子と刹那の出会い

          休息がほしくなって、大学を一年休学したことがあります。その一年間を有意義に過ごせたかは自分でもよく分かりませんが、今までの疲れを癒やすには十分な時間でした。 ああ、そうです。もちろん学年も据え置きです。 ひとつ下の学年の、大体一つ年下のみんなと新たな生活を始めたんです。 きっと差別なんかが凄まじいんじゃないかって覚悟していたんですが、本当にみんな可愛くて、気さくで、私はとても歓迎されていた気がします。 その中でも特段に仲良くしてくれる、小柄で眼鏡の子がいました。席はい

          休学とあの子と刹那の出会い

          私が線路に落ちたときのお話

          各駅停車の出入口が、むせ返るような人間の束を吐いた後の出来事です。 本来ならば次の急行電車が来る間際、私は線路に堕ちました。 私がなぜ墜ちたかなんて覚えていません。ただ吸い込まれるように、アナウンスを皮切りに、簡素で冷え切った椅子から傾き、墜ちたのです。 華奢な私は、下り線の高さと敷き詰められて冷えきった石とで随分な怪我をしました。 でも救急車なんて来なくって、代わりに男の警察官が私を羽交い締めにしていきました。鈍く痛む足腰は、大勢に押さえつけられるだけで強い麻酔のよう

          私が線路に落ちたときのお話

          「あの人とは別れるからちょっと待っててね」

          好きな子に聞きたいことがあります。 聞く前から答えなんてなんとなく分かってるんです。だからもはや追い打ちをかける必要なんてないんでしょう。 ただ、私が私の気持ちに最後の決着を付けるため、あなたの答えを待ち望んでいるのです。 私は、パズルの最後の1ピースだけが欠落してしまったときのように苦しんでいます。もちろん、欠落したピースに何が描かれているのかなんて、揃ったピースから容易に想像はついています。 でもその最後の一つだけが、明確に、確度を持って、鮮やかに欠落しているんで

          「あの人とは別れるからちょっと待っててね」