きずみせっ!短編ラノベ

バイト先で仲良くなったお姉さまに、ちょっと聞いてみたくなって、聞いちゃいました。

「ねえ、傷跡の見せっこしようよ」

って。


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そもそもこんなことを言い出せたきっかけは、お姉さまと初めてバイト先で出会ったとき、私と同じものをお姉さまから感じ取ったからです。お姉さまもきっと、持っている側の人間だ、って。

私はお姉さまとの接点を探しながら、ずっとお姉さまのことばかり見て、考えて、空想と妄想をしていました。

バイトなんて、どうせどちらでもよかったんです。

仕事の内容だって、私の時間だって、時給だって、私の身体だって。本当は全部いらないんです。

私は、私の好きな人と同じ空間にいることが心地よかっただけなのです。私がバイトを続けてた理由は、それだけ。


ある日、私がバイトでちょっと失敗しちゃったことがありました。そのとき店長にすごく怒られちゃって。

でもその後、お姉さまが私の背中を擦ってくれたんです。私はその優しさで嗚咽を押さえきれなくなってしまいました。だって、お姉さまが私に近付いてきてくれたんですもの。

それからは、私と目線が合うと、お姉さまは私に向かってにっこりしてくれるようになりました。

そんなある日、事件が起きました。本社から唐突に偉い人が来たんです。それでその偉いひとがお姉さまを一瞥して「右利きの人が右手に腕時計を付けてはいけない」と忠告したのです。

私には忠告の意図がさっぱり分かりませんでした。
だけど、きっと、会社にとっては、左手に腕時計を付けることは大事なことなのでしょう。

驚いたことに、偉い人の忠告なのに、お姉さまは腕時計を頑なに外しませんでした。

それどころか、普段は気丈なお姉さまが少し涙ぐんでしまいました。それを合図にしたかのように偉い人たちは「まあまあ」とか「うんうん」とか言って静かに立ち去っていきました。

私はすぐにお姉さまのところに駆けつけました。それで、お姉さまが前にしてくれたみたいに、そっと、背中を擦って差し上げて。

偉い人って、本当に抜き打ちで来たりするんですね。その日はたまたま店長がいなかったので、二人で裏手の個室に行きました。

二人が向かい合って椅子に座ると、お姉さまは唐突に腕時計を外しました。

そこには、太かったり、細かったり、縦だったり、斜めだったりの白い傷跡がありました。

私は平静を装いながらも心底嬉しくなっちゃいました。お姉さまも持っている側の人間だったって、そう確定したから!

その日、私のシフトが終わる時刻と合わせて、お姉さまも早退しました。店長がいない日で本当に良かったって、再度思いました。


それから。

「ねえ、傷跡の見せっこしようよ」って私が言ったの。

もちろん、お姉さまは訳が分からなそうな、きょとんとした顔をしました。

私は構わず、私の長いスカートを一瞬だけめくって、太ももの傷跡を見せたんです。

お姉さまは、やっぱりよく分からなそうでしたが、うっすらとした興味を持ってくれたような表情をしました。

なので私は続けざまに聞きました。

「いいですよね?」って、お姉さまの手を軽く引っ張りながら。

そうしたらお姉さまはびっくりして、私の手の力で揺れつつも、こくりと頷いてくれました。

それから、私の部屋に向かって歩いて。

歩いている間は二人ともずっと無言で。


無言なのに、ずーっとおしゃべりしてる気分。


家につくと、二人ともお腹がすいていたので昨日の残り物の肉じゃがとご飯を食べました。


食べ終わったあと、その静寂を破るかのように、お姉さまが急に部屋の電灯を消しました。

暗い中に光る、お姉さまの影。

お姉さまは、そして、おもむろに右手の腕時計を取り外しました。私は青い月影の元で、その傷跡をまじまじと、舐めるように眺めました。その蒼白の傷跡は美術品のよう。本当に舐めてしまいたいくらい。

一方でお姉さまはずっと恥ずかしそうな顔を浮かべていて、本当に愛おしいのでした。でも、そっちを舐めるのはまたあとで。ものには順序があるからね、って思って。

今度は私が立ち上がり、スカートをめくって、脚の内側にすっ、と何度も水平に引っ張った線をお姉さまに見せて差し上げました。お姉さまは口元に手を当てつつも、私の、その、黒く、蒼く、白く光る闇をまじまじと見てくださいました。

お姉さまは私の手を引いたかと思うと、私のその、線状の発光体にキスをしてくれました。
思わず私が「あっ」と声を出すとお姉さまは私のソレを、キスだけでなく舐め始めたのです。
私はただくすぐったくて笑ってしまいました。するとお姉さまも笑ってくれて、お姉さまは、右手を私の口元に差し出してきてくださいました。

私はその、差し出された宝物に思いっきり舌でキスをしました。お姉さまに移されたのは、肉とじゃがいもと、甘じょっぱい醤油の味。

私達は手を繋いで、セミダブルのベッドにちょこん、と座りました。

恥ずかしかったね、って私が言うと、こくりと頷くお姉さま。

お姉さまは私を抱き寄せて、その右手で、髪を撫でてくれました。


「今日はお別れよ」


お姉さまは、そう耳元で呟くとかばんを持って、部屋から出て行ってしまいました。

一人残された私は、月を眺め、呟きました。

「今夜は闇がキラキラしてますね」、と。

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