夫と制服のあのこ

私がまだ結婚したてのころ、とても幸せでした。やっと全てが揃った感じがして。

でも全てというには失ったものがあまりにも大きすぎました。少なくとも私と夫とは他人だし、何の義務も権利もないはずなのに。

ですが、夫は家計費を払ってくれました。私は見返りに身体を売り払いました。これが完璧に揃った状態と言えるでしょうか?

なので、私は夫とは正反対の性格の少年とお付き合いをしました。あのこは本当に生真面目で、誠実で、可愛くて、それに私が人生で二人目の恋人だと言いました。

あのこは、夫の欠けた部分を補ってくれました。私を抱く手はあまりにも優しいし、手を繋ぐと恥ずかしそうにする仕草が、私なんかでいいのかと思えるほど暖かかったものです。

夫の夕ご飯の買い物も、あのこがたまに付き添ってくれました。そんな時は「小松菜を塩揉みして、余った野菜とちょっと高いソーセージを炒飯にすればすぐできて美味しいよ」なんて具合にアドバイスをくれたりして。今でも炒飯は私の一番の得意料理です。

一度だけ、あのこが帰り際に泣いたことがありました。「なんで僕には夕ご飯を作ってくれないの?」と。私はごめんね、とだけ言い残して帰ることしかできませんでした。

次に逢ったとき、あのこは大きな大きな「お弁当」を風呂敷包みで持ってきてくれました。

私たちは私たちの内緒を共有しつつ、都会の箱庭で電子レンジを使いました。

その3時間という時間はあまりに短く、料理はどんなレストランなんかよりも美味しく、デザートのカステラもふわふわしていました。

カステラを作るのは難しいようですね。私はそんなこと知らなくて、あのこにはちょっとだけ申し訳なかったと後で思いました。

きっと、あのこの他の料理も手間がかかっていたのでしょう。私はそれに気付いたとき、台所で泣いてしまいました。夫は泣く私を蹴りました。「早く飯を作れ」と。同じ日、食洗機を途中で開けてしまい台所を水浸しにしてしまったら、夫にまた殴られました。

幸いにも次の日はあのこと逢える約束があって、助かりました。

でも次の日の別れ際、事情が変わりました。私がとにかく不安になってしまって、あのこに「もっと若い、君を大事にしてくれる彼女を作りなよ」と言い放ってしまったのです。

私は、あのこのことをとてもとても長い時間さめざめと泣かせてしまいました。それでもあのこは、いつもよりはっきりとした声で「今までごめんね」と、諦めたような、それでいて誠実で素直な返事を返してくれました。


私は自分から別れとも試しともつかない言葉を吐いておきながら、もう何が何だか分からなくなってしまいました。それに、まさか別れを選択されてしまうなんて。


そう、でも分かってるんです。私が全てを壊してしまったってことを。夫とは離婚しましたし、あのこはもう、私のところには二度と戻って来なくなってしまいました。

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