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詩 『 JANUS 』 (二十代後半のときの作品) 注:闇描写です🙇

作:悠冴紀

許せないのに
想っている

恨みながら
感謝している

突き放しながら
案じている

男でも女でもない 架空の生き物のような
恋心も持たない 乾いた人間だった私には

君との繋がりが 神聖だった
あまりにも

私の人格は
二つに分裂してしまった

君が私を引き裂いた

信じていないのに
受け入れている

失望したはずなのに
敬っている

背を向けながら
見守っている

君は私に全てを与え
やがて私から全てを奪った

私の魂は黄泉よみに落ち
自らの血にまみれて這いずり回った

あんなにも野心知らずだった私が 今
高みを目指して走り続けるのは
君への復讐のためかもしれない

なのに
欲する成功は君のため

血よりも濃い結び付きで
シンクロし合えた君に捧げる
究極の復讐にして 恩返し

私の人格は
二つに分裂してしまった

君がいなくても輝ける姿を見せつけたいと望みながら
君の居場所が今もここにあることを示そうとしている

全力で走り 遠ざかりながら
君を目指して 近づいている

二つの顔で 前と後ろを同時に見つめ
差し出した手を 背後に残し
君に向かって 走っている

矛盾が私を引き裂いた
相反する思いが二つ

何かが狂ってしまったのだ

私は
君の信頼と友愛以外に望むもののない
あんなにも無欲な人間だったのに

今は
君などの手の届かないところへ昇り詰め
優越に満ちた眼で
君を冷たく見下ろしてやりたい

何かが狂ってしまったのだ

私は 君の仕打ちに死地を彷徨い
あんなにも君を許さぬと誓ったはずなのに

今は
君と歩み 途切れた道を
美しく完成させようとしている

この期に及んで
人格を隔て
もう一人の自分を裏切ってまで

そうだ
私の想いは愛よりも深く
存在の境界を越えて 魂に及んだ

その果てが ここにある

私の人格は真っ二つ
君がナイフで引き裂いた

赤黒い血の乾いた後に
二つの私が再生した

これは復讐か 恩返しか
私は高みを目指している

愛憎に引き裂かれ
終わりと始まりの門に立つ

相反する二つの目的で
同じ一つの場所を目指す

背中合わせの二人として ───

**********

※2006年(当時29歳)の作品

💡タイトルにもなっているローマ神話のヤヌス神は、1月の「January」の語源でもあり、その双面の姿から、門や扉などの出入り口、物事の終わりと始まりを司る存在とされています。

以前『シベリアの狼』という作品で、幼馴染みの親友Sについての話を書きましたが、本作もその親友に関する一作です。三十手前の作品にしては、表現の端々に厨二病感が漂っていますけどね💧 実際にこれを書いたときには、数年前の自分の思いを回想しながら書いたので、25~26歳頃の私の頭の中が表現されているわけですが、今読み返すと、ちょっと恥ずかしい😅💦

▼(注:ここから先の解説文は、『シベリアの狼』の解説部分と、『蝶』 という作品の解説部分を読んでもらってからでないと、伝わりづらい内容となっております🙇‍♀️)

そうですよ。親友Sとの関係については、最近の作品群では美談として描写したものが多いですが、こんなドロッドロの恨みがましい感情に囚われていた時期もありました。私にとって、あの親友とのことは人生最大級の一大事件でしたから。

色んな段階を経て、やっとのことで落ち着きを取り戻し、今でこそ冷静に振り返れるようになりましたが、長い道のりでしたね。気が狂わんばかりに引き裂かれて、頭ん中が支離滅裂になっていた時期(日替りであっちの感情とこっちの感情を行ったり来たりしている感じ)も長くありましたが、この世で唯一気を許した相手への、手前勝手な期待の裏返しから来る筋違いな怒り(👈本当はこの人のせいでドン底に落ちたわけではなく、当時人生全体がうまくいかなかった根本原因は別にあるのに、甘えられる相手にあらゆる怒りの矛先を向けて八つ当たりをするタイプの怒り)と決別し、後悔さえも薄らいで、最終的には感謝の思い一つが残された。そういう流れです。

(👆詳しくは知りませんが、「悲しみの◎段階」とかいうのに、綺麗に当てはまっていそうですね😅)

そしてこの詩を書いた翌年、私はようやく重い腰を上げて、文壇デビューを果たしたのでした。親友Sと二人で紡ぎ上げた執筆ライフの延長で、二人分の思いを背負って。(※ 文壇デビューに踏み切った当時の心境は、こちらの一作に綴っています👉『蝶』 Sのように、どうしても自分を条件付きでしか認めることができない人の、思考回路まで根本から変えることはできないが、せめてその回路の延長上で、「あなたの価値は、あなたが思っている以外の形でも、すでに充分に証明できているじゃないか」と、1ミリでもいいから視野を広げて気づいてほしかった。ちゃんとしたケアはその後でいいから、これをはじめの一歩、取っ掛かりとして、とにかくまずは自尊心を取り戻してほしい。そんな切実な思いが詰まった一作でした)


同じ一つの出来事でも、段階を経て徐々に変わっていく捉え方と向き合い方……。時が解決するとは、まさにあのことだったなと、今は思います。

ある時期からだんだんと引きこもりがちになっていったSが、私が何度電話をしても(履歴が残っていたから分かるはずなのに)折り返しの電話もメールもくれず、こちらがわざわざ他府県から帰郷して玄関前まで訪ねていっても、家族を使って門前払いし続けたことを、コンプレックスの強かった当時の私は『自分が愛想を尽かされて嫌われたか、あるいはそもそも最初から好かれてなどいなくて、自分はSに一方的な思いを寄せていただけの迷惑なストーカーのようなものだったのかもしれない』と自意識過剰な捉え方をしてしまった。

でも今思うと、当時のSの言動の大半は、うつによる影響を強く受けていた。こちらがカチンとくるような無神経な物言いの数々も、おそらく鬱によるものであって、本来通りのSの考え方とは違っていたのだと、今は分かる。あの頃はまだ鬱病がどういうものか、現在ほどには研究も周知もされていませんでしたから、それこそあくまで「今だからこそ分かること」という話ですけどね。

(👆あの頃の私は、実際のところは、頭のイカれた親どもに職場やアパートにまで怒鳴り込みに来られたり、金切り声で1日何十回も脅迫電話をかけられたりしては、一般社会における居場所を失くしてさ迷い歩くという、明日をも知れないギリギリの状態だったというのに、「あなたは私と違って、浪人もせずスムーズに大学へ進学して、卒業後すぐに就職して自活して、順調そのものな人生を送っているじゃないか。あなたに私の(ように進学すらできなかった人間の)気持ちは分からない!」とか言ってきたSに対して、こちらは内心『なんだと? 路上生活寸前のこんな酷い状況にある私の人生を、順調で羨ましいと妬むのか? 人生舐めてんのか? そもそも、たかがお受験の失敗ぐらいで自分はおしまいだと思い込んで引きこもるなど、甘ったれてんじゃね~わ👊 あんたの人生はその程度なのかよ💢 そんな奴が戦場みたいな私の人生と取り替えたなら、一秒でお陀仏するぞ💢』と、煮えくり返るような思いを抱いたものです。もちろん、さすがにそこまで皆まで声に出しては言いませんでしたけどね。お互いホントに、拙く一方的で視野狭窄でした😓)

まあようするに、当時は私自身も未熟で近視眼的で余裕がなく、自分のことしか考えられなかったために、「相手の側にも抱えている問題・事情がある」というところにまで、気が回らなかったんですな。鬱の可能性を疑うことはおろか、何がSを鬱たらしめたか、その根本原因にまで目を向けることができなかった。

─── とは言え、です。Sの側の事情を知り、鬱病の何たるかを知っていれば、辛うじて「相手の人生からひどい締め出され方をした!」という怒りは向けずに済んだかもしれないが、それでもやはり、立ち止まることを許されない身の上の私が、時計の針を止めて前に進めなくなったSと生きる道は、なかったのだと思います。自分たちの関係をどう解釈しようが、相手の仕打ちをどう捉えようが、互いに好きだろうが嫌いだろうが、結果は同じ。離れるしかない2人だった。

だから今はもう、特に何も思うところはありません。物事は結局、なるようにしかならん。起こるべくして起きた、動かしようのない過去です。今はただただ、Sがその後、学歴なんかなくても充分すぎるほど存在価値のある自分、という現実に気付いて、どこかで満ち足りた人生を送ってくれていることを願うばかりです。最後には、直接会うことすら叶わなくなっていたSに、叩きつけるような絶交宣言の手紙を投函して去る、という行動に出た私ですが、私を今へと導いてくれたのがSであるという事実もまた、変わらない。彼女との出会いと交流、そして悲惨な別離までも含め、二人で歩んだすべての工程なくしては、私に成長も気付きも己の狂気からの目覚めもなかった。

それが私の側に残された唯一の動かぬ事実であり、私にとってのSは、死ぬまでずっと「人生の恩人」なのです。

💡ちなみに、今回の詩作品自体は、最も感情過多になっていた時期の激情型の一作ですが、Sとの体験の中から、人として何よりも忘れてはならない部分を選りすぐって抽出し、物語の土壌である養分として活かすことで昇華したのが、2007年に出版した『クルイロ〜翼』という小説です📖 登場人物たちのキャラ設定や背景事情などのディテールは別物なので、私自身をモデルにした私小説というわけでは全然ないのですが、「これを書けたらもう死んでもいい」というくらい、当時の自分にできる精一杯のものを搾り出して書いた渾身の一作です。文体は最近の作品群に比べると、かなり拙い仕上がりですけどね(^_^;)

―――――――――

尚、同親友のことを振り返って書いた関連作が他にも複数あり(←とてもじゃないが一つの作品にまとめられるようなシンプルな話でないので、色んな角度から色んな時期の感情の断片を切り取って、細切れに作中に投入しています)、それぞれ全く違ったテイストに仕上がっているので、よろしければこの機にあわせてご覧ください ▼

●『氷の道標
●『
天狼~ハティ
●『
SPHINX
●『君に贈るもの
●『
』&『
●『
私の中のラグナロク

注)シェア・拡散は歓迎します。ただし、この作品を一部でも引用・転載する場合は、必ず「詩『JANUS』悠冴紀作より」と明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように公開・配信等をするのは、著作権の侵害に当たります!

※私こと悠冴紀のプロフィール代わりの記事はこちら▼

※私の他の詩作品をご覧いただける無料マガジンはこちら▼ (私自身の変化・成長にともなって、作風も大きく変化してきているので、制作年代ごと三期に分けてまとめています)
📓 詩集A(十代の頃の旧い作品群)
📓 詩集B(二十代の頃の作品群)
📓 詩集C(三十代以降の最新の作品群)

※ 小説家 悠冴紀の公式ホームページはこちら

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