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詩 『蛹』

作:悠冴紀

君はさなぎ
君は君自身から逃げ去る者
そして蛹は眠るもの

君の努力はまゆの中
いつも行動を伴わない


主体性ある行動を評価されるのが怖くて
受け身の姿勢で隠れている


空気さえ動かすまいと
自らを封印して固まっている

関係はいつも一方通行

他との交わりのない小さな殻の中で
君はただ独り 考えるだけ

誰かが働きかけてくれるのを
君はただひたすら 待つだけ

やがて皆が去り
君は独り 取り残された

流れやまない時間と
変化の絶えない世界の中で
他との関係一つ築けぬまま

関係とは
二人以上の存在をして初めて成るもの

君はいつも独りきり

繭の中にこもったまま
あえて関係を成さずにいる

失敗に終わるのが怖いからと
あえて何も始めずにいる

君は怯えるばかり
君は逃げるばかり

君の本来の姿を一目見ようと
その核心に近づく者を
君はことごとく突き放してしまう

評価を恐れる臆病さのゆえに
怒りで相手を威嚇いかくしながら
逃げて 隠れて 閉ざすばかり

時間を止めて羽化を拒み
自ら他者を締め出しながら
必然の孤独に涙する君

君は永久に蛹のまま
繭の中で朽ちていく

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※ 2005年(当時28歳)の作品。

作中の『君』というのは、以前投稿した詩作品「天狼 ~ハティ」「氷の道標」「幽霊」「シベリアの狼」等に登場してきた『君』と同じ、引きこもりという形で私の人生から姿を消していった幼馴染の親友Sのことです。

「シベリアの狼」の解説部分では、諸葛孔明のような人物、とたとえたSですが、それはあくまで彼女の魅力的な側面のみの話であって、一方では同時に、ドストエフスキーの「地下室の手記」に出てくる主人公を地で行くような側面もありました。自己肯定感は低いのにプライドは高く、世の中の俗な事柄を醒めた目で俯瞰ふかんしながら、その実そんな現実世界をうまく生きられない自分を恥じてもいるという、自意識ばかり過剰で行動力を伴わない頭でっかちな本の虫。

ただし勿論、それらが彼女のすべて、というわけではなく、いずれも私が知り得た多くの側面のうちの ほんの一部分であり、この作品では特にネガティブな部分だけを抽出して表現したにすぎませんが。(これまでの詩作品では、むしろこの親友の魅力的な側面や賢明さの方を強調して表現していたと思います。)

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💡ところで、実はこの詩には、合わせ鏡のように対照的な描写をした「蝶」というセット作品があり、そちらの主役は親友Sではなく私自身となっています。主役が同一人物ではないのに、「蛹」から「蝶」へとシフトしていくセット作品であると言い張るのは、やはり当時の自分たちの関係を「二人で一つ」の共依存関係と見なした上での、特殊な捉え方によるもの。いつまで経っても蛹のまま成長できない半身(片割れ)のSを見ていて、このまま済ませてなるものか、あんたの分まで含め二人分の人生を背負って、二人で育んだものを私が蝶へ羽化させてみせる! という思いでその後の月日を生きてきたから。

私とSは、お互い性格も特技もバックグラウンドも対照的で、自分にないものを持つ者同士、パズルのピースのようにピタリとハマる存在でした。二人で欠落を補い合うことで、やっとまともに一人の人間になれたかのような錯覚を抱いていたのです。双子なわけでもないのに、「私はあなたで、あなたは私」というやつですね。思春期あるあるな話かもしれませんが、そうやって自己同一性の境界線をも無視した危なっかしい関係に、ある種のユートピアを重ね見ていた私たちにとって、互いがそれぞれ鏡に映った「もう一人の自分」であり、どちらが作品の主役になっても同じことだったのです。

(☝️ちなみに私の知る限り、Sはその後、成長して羽化するどころか、長~い引きこもり状態の果てに広島の療養施設に入ったとのことです。それが20代半ばのことで、それ以降の消息は不明です。彼女なりに納得のいく形で、今は自力で羽ばたいていることを願うばかりですが、何やら私が一方的にSの生命力を吸い取り、羽根をもぎ取って人生を食い潰してしまったズルい奴、という気がしないでもありません😓 互いに羽を1枚ずつしか持たずに生まれたような欠落した存在だったのだとしたら、片方が最終的に羽根を2枚揃えて飛び立つことは、物理的に考えれば、もう片方が羽根を1枚も持たない状態になることを意味する。あくまで比喩表現の範囲内の話であって、現実にはそもそも人間に羽根などありませんから、たとえ私との出会いがなくても、Sは必然的にああなったのかもしれませんけどね😓)

💡余談ですが、繭を作るタイプの蛹というのは、たいてい蝶ではなくになるか、その他の昆虫類に成長するはずなのですが、詩作品のタイトルで「蛾」というのも、あまりに風情に欠けるというか何というか…… 💧💧💧 それはそれで、書いてみれば面白い作品になるかもしれませんが、少しでも内容に合った風情のあるタイトルにしようと思い、セット作品は「蝶」というタイトルにしておきました😅🦋 そちらはまた次回以降の記事で投稿しますので、お楽しみに。

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