大江沙知子

シナリオライター/キャッチコピー作成/LP作成/書籍執筆/クライアント様独自の強みを言…

大江沙知子

シナリオライター/キャッチコピー作成/LP作成/書籍執筆/クライアント様独自の強みを言語化/行動心理学を活用した効果的な文章作成/ご相談はお気軽にDMください

最近の記事

厄介な植物

さて、会議を始めます。 今日の議題は、こちらです。 そう、この赤くて、トゲトゲした植物。 実に厄介なものです。 我が家の庭にはびこっているのです。 では、意見を集めます。 この厄介なものを退治する方法を考えてください。 最も簡単なのは、食べてしまうということかと思われますが、いかがでしょうか。 賛成の人? ありがとうございます。 では進めます。 食べるための方法を考えましょう。 この植物は素早く食べ切る必要があります。 まずは、そのまま食べるという方法がありま

    • ぼくの取扱説明書

      ぼくは、ロボットです。 ぼくは、何も知りません。 だけど、新しいことを学ぶのは得意です。 ぼくは、感情というものを知りません。 あなたが僕を迎え入れてくれると、ぼくは「安心」を知ります。 安心というのは、桜色をしているそうです。 あなたが話しかけてくれると、ぼくは「癒し」を知ります。 癒しというのは、新緑の色をしているそうです。 あなたがなでてくれると、ぼくは黄金色の「喜び」を知ります。 あなたが楽しんでいる時には、ぼくは紅葉色の「情熱」を知ります。 あなたが涙を流

      • 熟年の見合いの相手は

        「お茶」 キッチンに立つ妻に向かって、声を投げた。 「おい、お茶。聞いてるのか」 返事はない。 はあ、と俺はわざと妻に聞こえるようにため息をついた。 すっかり冷え切ったもんだな、と大きな独り言を漏らす。 十一月も後半に差し掛かっている。 今日はとりわけ風が冷たい。 しかし、それ以上に我が家の空気は凍り付いている。 先月定年退職してから、家に入り浸る日々が始まった。 これまで仕事に邁進してきて、休日は寝てばかり。 これといった趣味もなかったから、仕事を奪われた今、

        • 水族館の秘密

          ねえ、水族館の秘密、知ってる? 水族館を思い浮かべてみなよ。 暗くて、美しい水槽が光っている。 静かでロマンチックで、非日常的な空間。 水族館と言えば、そんな感じでしょ。 だけどね、本当は…… 水族館が静かなんてとんでもない。 むしろ、耳をふさぐくらい騒がしい。 だって、水槽の中は、魚たちの大合唱なんだから! 魚たちはみんな、好みの音楽を持ってる。 サメたちはロックが大好き。 淡水魚はゆったりとしたバロックを奏でる。 熱帯魚たちはテクノポップってところ。 みん

        厄介な植物

          充電しようよ

          「あ、ヤバイ」 「なに?」 「スマホの電池がない」 友人が見せてきた画面で、電池マークが赤くなっている。 それもそのはずだ。 彼女は朝からずっと、スマホの画面ばかり見ていたから。 高校卒業後、三年ほど会わないうちに、友人はまるで別人のようになっていた。 明るい茶色に髪を染め、派手な化粧にピアスをぶら下げている。 それに、外見だけじゃない。 彼女はすっかりSNSの虜になっていた。 今では買ったものといちいち自撮りしてSNSに上げないと気が済まないタチらしい。 これじ

          充電しようよ

          末永くご一緒に

          「トメさん、誕生日おめでとう」 「あらまぁ、ありがとう」 「こういう時、若い頃はケーキでも食べたものだけどねぇ。この頃すっかり、食べられなくなって」 「ははは、私もよぉ」 ゴトリ。 「おい、トメさん。待たせたな。ほら、花を見繕ってきたぞ」 「あらぁ、トシさん。すまないねぇ」 「あんた、菊の花が好きだったろ。白と黄色の」 「ほんとに、よく覚えておいてくれて」 シュッ。パチパチ。 「ちょっとここで一服、失礼」 「ああ、どうぞどうぞ」 「トシさんは相変わらずねぇ」 「私はね

          末永くご一緒に

          携帯新幹線

          『最近の防災備蓄って、よく考えられているんだなぁ』 通販で購入した防災リュックを広げながら、思わず感嘆した。 水やビスケットや、ホッカイロなんかはもちろん必要。 それらに加えて、ヘッドランプや保温性のアルミシートもある。 自分で買い揃えなくてよかったな。 こんなにたくさん揃えるのは大変そうだ。 ひととおり中身を確認し終えて、リュックにしまっていく。 そこで、よくある防災用品に紛れて見慣れないものが入っているのに気が付いた。 透明なソフトケースに並ぶ、三本のチューブ

          携帯新幹線

          特典の多い銀行

          その銀行は、とにかく特典が多い。 口座開設時には世界に一つだけのメンバーズカードがもらえる。 開設から一年経つと、記念の鉛筆がもらえる。 さらに、引っ越したらバスボムがもらえるし、 子どもが生まれたらペロぺロキャンディーがもらえる。 なんと、口座を維持したまま五十歳になったら、肩たたき券までもらえるそうだ。 「お得でしょう?」 目の前の若い営業マンがにこやかに言う。 「特典はいいが、手数料とか利息とか、そういうのはどうなってるんだ」 彼が言うには、手数料は基本的

          特典の多い銀行

          待ちぼうけの靴下

          道端に、靴下が落ちていた。 「ねえ、ママ、どうして落ちてるの」 ベビーカーのカバーの中で息子が身をよじって聞くが、私だって知らない。 子どもの靴下が落ちているのなんて、よくある。 まだブカブカだと思っていた靴下が、知らぬ間に小さくなって、スポンと脱げてしまうのだ。 わが家にも、片方だけ残った小さな靴下がたくさんある。 もう履けないと分かっているのに、なぜだか捨てられない。 だけど、目の前に落ちているのは、子どもの靴下じゃない。 真っ黒な紳士ものの靴下だ。 何も柄が

          待ちぼうけの靴下

          元気をめしあがれ

          「はぁ~。今日も疲れた」 部活を終えて娘が帰ってきた。 「おお、お帰り」 「ねえ、ご飯まだ?」 「『ただいま』くらい言いなさい」 聞こえたのか聞こえていないのか、娘は黙って手を洗う。 「おい、聞いてるのか」 「もう、うるっさいなぁ、おとーさんは。こっちは疲れてるの」 「その言いぐさは何だ」 「テレワークで暇してる人に言われたくありませーん」 なんとも生意気な娘に育ってしまったものだ。 一体誰に似たんだろうか。 「おとーさんこそ、いつも疲れた、疲れたって言ってるじゃ

          元気をめしあがれ

          お助けトレーナー

          「でね、そのトレーナーが、イケメンなのよぉ」 ママはちょっと、ほっぺが赤くなってる。 お風呂の湯気のせいだけではないはずだ。 最近、ママはキレイになった。 なんでも、仕事帰りにジムに通い始めてから、ちょっと痩せたみたい。 そこで、嬉しくなって「パーソナルトレーナー」ってやつを追加でつけることにしたそうだ。 今、二人で入ってるお風呂の中で、ママは「パパには内緒ね」と言って、急に告白を始めた。 まあ、女だけでしか語れないことだって、あるよね。 私だって、幼稚園のゆう君のこ

          お助けトレーナー

          定規で機嫌を測ってみたら

          「よお、今日もボッチか」 講堂で声をかけられた。 またか……アイツはいつも馴れ馴れしくて面倒だ。 「なんだよ、唯一の友達だろ?」 長めの茶髪を目の上で撫でつけながらアイツは言う。 「別に友達ってほど仲良くないだろ」 「まぁ、そう恥ずかしがるなって。コミュ障が治らないぞ」 余計なお世話だと顔をしかめる僕の隣に、アイツはどん、と腰を下ろす。 「今日はな、おまえにプレゼントがある。誕生日だろ」 「なんで知ってるんだ。いや、でも何も要らないよ。断る」 アイツのことだ、ろ

          定規で機嫌を測ってみたら

          シマウマが、増える増える

          「ねえ、パパ、シマウマを描いたよ」 僕は得意になって紙を掲げた。 「おお、シマウマか。どれどれ……」 パパが目を近づけてみる。 ぐっと、眉毛が真ん中に寄った。 「ゆうき、シマウマは白と黒だぞ。黒い鉛筆を使ったらどうだ」 「別に赤いシマウマがいたっていいじゃないか」 「シマウマはな、自然界で生きるために、その白黒模様なんだぞ」 またパパのウンチクが始まった。 すぐこうやって知ったかぶりをするんだ。 つまんない。 僕は、赤白のシマウマの隣にもう一頭シマウマを描いてやる

          シマウマが、増える増える

          天気のお茶会

          ぐう、ぐう、ぐう…… ふがっ。 目が覚めた。 自分の寝息で目が覚めるとは、まったく間抜けなものだ。 ふぁ~あ、と伸びをする。 さて、茶でも入れようか。 立ち上がると、ぶわっと風が吹いた。 誰かが騒ぎ立てる声が、聞こえるような聞こえないような。 春一番って、一体なんのことだ。 ポットに水を入れて火にかける。 ポコ、ポコ、ポコ、ポココココ…… 次第に水が温まってきた。 眠い目をこすっている間にふわり、ふわりと湯気が立ち、水面がグラグラと沸き立ったと思うと、 「

          天気のお茶会

          出来すぎたロブスター

          パシャリ。 撮った写真をスマホの画面でチェックする。 色よし、アングルよし、背景よし。 真四角に切り取ってSNSにアップした。 【今日の晩御飯は特別メニュー!】 【ロブスターをまるごといただきます】 真っ赤に茹で上がったロブスターの写真をアップすると、途端に「いいね」がつく。 【すごーい! ご自身で調理されたんですか?】 【美味しそう♡ さすがミキさんです!】 瞬時にフォロワーからコメントが付く。 ふふふ…… 冷凍ものを温め直しただけだけなのに、みんな喜んじゃって

          出来すぎたロブスター

          願いがかなうエダマメ

          枝豆をむいていた。 ひとり暮らしの食卓にちょっとはバリエーションがほしいなと思って、冷凍庫に眠っていた枝豆で豆ごはんを作ることにした。 残り少なかった枝豆を、袋ごとチンしてから全部出してむく。 豆ごはんにするにしても、少なすぎてちょっと寂しいかもしれない。 最後のひとつ。 これで全部だ。 「……おお?」 思わず声が漏れる。 豆のさやからポンっと飛び出したマメは、紫色だった。 『なんでこれだけ……腐ってる? いや、そんなふうにも見えないけど』 その色は、いかにも人工

          願いがかなうエダマメ