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シマウマが、増える増える

「ねえ、パパ、シマウマを描いたよ」

僕は得意になって紙を掲げた。

「おお、シマウマか。どれどれ……」

パパが目を近づけてみる。
ぐっと、眉毛が真ん中に寄った。

「ゆうき、シマウマは白と黒だぞ。黒い鉛筆を使ったらどうだ」
「別に赤いシマウマがいたっていいじゃないか」
「シマウマはな、自然界で生きるために、その白黒模様なんだぞ」

またパパのウンチクが始まった。
すぐこうやって知ったかぶりをするんだ。
つまんない。

僕は、赤白のシマウマの隣にもう一頭シマウマを描いてやることにした。
世界で赤白のシマウマが一頭だけなんて、かわいそうだから。

「どれ、パパも描いてやろう」

パパが黒い鉛筆でシマウマを描き始める。

「やめてよ、僕が描くんだい」
「いいじゃないか。どっちが上手に描けるかやってみよう」

パパは勝手にシマウマを描き始める。
僕も負けじとシマウマを描いた。

「お、いいなぁ。いっそシマウマだらけにしてやろうか。どっちがたくさん描けるか競争だ!」

パパは何かと僕と競争したがる。
だけど、勝負を吹っかけられたんじゃあ、やるしかない。

僕たちはしばらくシマウマを描き続けた。
パパはどんどんシマを増やしていく。
大きな画用紙に、白黒のシマウマが増える、増える。

大人の方が手が大きいんだ。
ずるいじゃないか。

僕は負けじと赤白のシマウマを描いたけれど、最初のシマウマの隣に二頭し描けなかった。

「これじゃ、パパの圧勝だなぁ」

もう描く場所がなくなった画用紙を掲げて、パパが満足そうに言う。
子どもを相手に何を張り合ってるんだ、と僕は子どもながらに思う。

パパは描いた数を増やせるように、隙間なくビッシリとシマウマを詰め込んでいた。

画用紙が白黒のシマだらけで、なんだか目がしょぼしょぼする。
僕は目から画用紙を離して、そこで気づいた。

「ねえ、パパ」

僕は部屋の反対側に画用紙を持って行って、壁にテープで張り付けた。

「こうやって見ると、パパのは白黒のシマにしか見えないね。僕のは、赤白だからはっきりシマウマの形をしてる」
「本当だなぁ」
「だから、僕が三頭、パパはゼロってことで良いよね」
「はっはっは、こりゃやられたな!」

僕の描いた赤白の三頭のシマウマは、白黒の波打つ草原で気持ちよさそうに駆けているようだった。

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