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充電しようよ

「あ、ヤバイ」
「なに?」
「スマホの電池がない」

友人が見せてきた画面で、電池マークが赤くなっている。

それもそのはずだ。
彼女は朝からずっと、スマホの画面ばかり見ていたから。

高校卒業後、三年ほど会わないうちに、友人はまるで別人のようになっていた。
明るい茶色に髪を染め、派手な化粧にピアスをぶら下げている。

それに、外見だけじゃない。

彼女はすっかりSNSの虜になっていた。
今では買ったものといちいち自撮りしてSNSに上げないと気が済まないタチらしい。

これじゃ、私と買い物に来たのか、スマホと来たのか分からない。

「どっか座らない?」
「うん。コンセント探そっか。ちょうど私も疲れてきたとこだった」

しかし、今は休日の午後である。
ショッピングモールのカフェはどこも行列だ。
買い物袋を両手に抱え、カフェを探して歩いたせいで私の足ももうクタクタ。

「あー、予備の電池持ってくればよかった!」
「こういう時に限って、持ってなかったりするよね」
「歩くだけで、充電できればよくない? こんなに頑張ったんだからさ、電気に変えて欲しいよね」

友人の言葉を受けて、私はスマホの検索窓に入力してみた。

【歩く 充電】

「あ、なんかあるっぽい」
「うそ」
「歩くだけで発電する靴とか……実用化されてんのかなこれ」
「えー、あるならもっと大々的に売り出してよね。全人類が求めてるやつじゃん」

友人がべたん、とベンチに座り込んだ。

「あー、疲れた。もう歩けない」
「コンセント探さないと、充電できないよ」
「もう無理、まず無理」

そこで私は悟った。
スマホの充電が切れる頃にはもう歩くことすらできないのだと。

つまり、仮に歩くだけで発電する靴を履いたとしても、こうなってはもう充電することはできないのだ。

ぐったりと背もたれに寄り掛かる友人を私は哀れに見つめた。
スマホばかり見つめているからこうなるんだよ。

三年ぶりに会ったというのに、友人よりスマホ。
自業自得だ。

とはいっても、ここで彼女を切り捨てられないのが私なんだけど。

「クレープでも食べよっか」
「あー、スマホ落ちた。最悪」
「クレープ食べようよ。駅前でよく食べたじゃん、昔」
「クレープ屋に電源があるっていうの?」

疲れた目でこちらを見上げてくる友人の肩を、私はポンポンと叩いた。

高校時代、帰り道によく買ったクレープ。

友人はいつも、プリンが入ったやつ。
私はいつも、イチゴがいっぱいのやつ。

今でもお互いのお気に入りのメニューは覚えている。

「たまにはさ、充電したらいいじゃん。私たちをさ」

クレープを頬張ると、友人は高校時代と同じ幸せそうな顔をした。
私は、ようやく彼女と再会した気がした。


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