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拝啓、PEDRO。大阪より愛を込めて。

 今回は、あるバンドの無期限活動休止宣言を受けて、思うところがあったので紹介していきたい。


 皆さんは、「PEDRO」というバンドをご存知だろうか?


 私がPEDROを知ったのは、ひとつのツイートからだった。

「楽器を持たないパンクバンド」を自称するガールズ・グループ「BiSH」のメンバー、アユニ・Dのソロプロジェクト。それがPEDROだ。

サポートメンバーに、ギターはナンバーガールの田渕ひさ子、ドラマーにはBiSHの作曲に携わっている毛利匠太を迎えた3ピースバンド編成。

リンクの動画曲は、ナンバーガールの名曲「透明少女」である。
田渕ひさ子本人がカバーとして演奏している。

 案の定、この動画の賛否は大きく分かれた。伝説のロックバンドの名曲を、そのメンバーを交えて演奏したのだから当然のことでだろう。
汚された、という者もいれば、これはこれでアリという人もいた。
私は後者だった。

 BiSHという地盤があるにせよ、ソロプロジェクト。
そこに本人交えて、前口上込みでカバーしたのである。
これはかなり覚悟がいる話だ。


 この動画で私はPEDROが気になってしまった。
そこでYouTubeを覗くと割と曲を作っている。どれひとつ聴いてみよう。

 疾走感が全開の一曲「NIGHT NIGHT」。
私は一発で射抜かれた。これだよ、これ!と。
ASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLE GARDEN、サンボマスター、ストレイテナーやBOOM BOOM SATELLITESを聴いて育った世代の私にとって、今の音楽は聴きやすいが、複雑さが気になる事が少なくなかった。

 言ってしまえば、
「最近の曲は聴きやすくて、洒落ているけど、私自身はシンプルな曲が欲しかった」のである。

聴きやすくて、お洒落な曲がリアルだけでなく、ネットでも溢れる現代。
私の好きなロックは過去のものなのか。
そう思っていたときに出会ったのがPEDROだった。

この真っ直ぐさが欲しかった。聴いた瞬間に虜になった。

スティングレイを担いで、少女が疾走感のある曲を真っ直ぐに歌う。
あどけなさの残るその声に潜む感情が曲を物語にする。
シンプルにカッコ良い。

 次は、こちらの曲を聴いて欲しい。「浪漫」。
前述の曲に比べると、どこか肩の力が抜けた印象を受ける。
感情を乗せた歌に磨きが掛かり、バンドとしての幅も広がった。

 だが、ここで注目して欲しいのは歌詞だ。

未契約な二人が交わす
不確かな未来のしょうもない約束
夢に溺れてもいいかな
愛に埋もれてもいいかな
宇宙の彼方にふっとばされたかのような
浮遊感と夢心地
きらめく君と、どうかずっと

無表情な天井見つめ
思い出話に花を咲かせてみたり
君に溺れて息していく
君に埋もれて息していく
ついてない日だったってことも忘れるくらい
浮遊感と夢心地
きらめく世界、ここでずっと

 これは最後のサビの部分である。

「未契約な二人が交わす 不確かな未来のしょうもない約束」
「君に溺れて息していく 君に埋もれて息していく」

 現代的な恋愛観と普遍的な恋慕を同居させ、「浪漫」と名付けるところに非凡なセンスを感じる。PEDROのYouTube公式動画では、基本的に歌詞も掲載されている。(もっと見る、を押してみると歌詞が出てきます。)

 BiSHにおける彼女の作詞曲「本当本気」や「自律神経出張中」もそうだが、彼女の歌詞にはどこか影がある。飾らない彼女自身の心の重さがある。
それだからだろうか。本曲や「生活革命」のような、ささやかな幸せを唄う曲の言葉のひとつひとつが余計に響く。
このバンドの陰と陽は、彼女の精神的な部分だ。
小さな灯を大切に抱えて歩む姿は、彼女の投影かもしれない。


 このバンドは、PEDROは、新曲を出す度に確実に進化している。


これは見に行きたい。
絶対にLiveで。肌で。空間で。
絶対に彼女たちの音を聴いてみたいと思っていた矢先のことだった。

――――無期限の活動休止。
正直、惜しいと思った。
2018年から僅か3年。EPを含むアルバム全4作(おそらくもう1枚リリースされるだろう)。少ない期間ではあったが、驚異的な進化を魅せたバンドであったと思う。
公式によれば、ネガティブな理由ではないという事なので再開を期待したい。


最後に一曲紹介して終わろう。

 今年、リリースされた新曲「夏」。
ソロプロジェクトの話、曲のリリース、ツアーなどの重圧は凄かったのではないかと思う。BiSHの仲間たちではなく、自分自身と新たな仲間との挑戦。それも大ベテランの田渕ひさ子が横にいる。ロックが好きな人達からは羨望の眼差しを向けられ、同時に高いハードルを求められたはずだ。

 それがどうだろう。ソロプロジェクトとして始まったPEDROは、蓋を開けてみれば、ひとつのバンドとして完成している。
――――苦悩を抱えても、前に進もうとする彼女の歌詞と真っ直ぐな音楽。

 もっと聴きたい彼女たちの物語を……。
バンドは生き物である。だから行けるときに行かねばならない。
これはBOOM BOOM SATELLITESのときに学んだはずだったのだが……。
最後のツアーでは、残念ながら大阪の会場がリストにない。

あぁ、とろけている風景たち
生々しいほどドロドロ
汗が太陽に反射して
きらめいては溢れていた
始まる季節 終わる季節
また夏まで生きようか

 本曲、最後の大サビの歌詞を取り上げたい。
この曲の歌詞全体は、おそらく主観の「僕ら」とはPEDRO(アユニ・D)とファンの事だろう。
そう捉えて歌詞を読むと、これまでの活動は「夏」ということになる。
「日差し」は差し詰め、自身に向けられた周りの期待や要求、理想といったところか。

「僕ら」から始まった物語は、やがて多くの「僕ら」を内包して成長した。
 この曲は、今までの活動を「夏」に例えて、ともに歩んだファンに対して贈った感謝なのだろう。

 だとしたら、最後の歌詞が凄く響く。

――――また夏まで生きようか。


私は期待している。
また夏が来ることを。
それまでは気長に生きようか。

拝啓、PEDRO。大阪より愛を込めて。


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