見出し画像

まいにち易経_0619【分相応】君子もって思うことその位を出でず。[52䷳艮為山:象伝]

君子以思不出其位。

君子もって思うことくらいでず。

立派な人物は、自分の地位や役割、職分を超えるようなことは考えないものだ。


ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

『艮為山』の卦は、山はその場にどっしりと構え、動かずにいる。つまり、この卦は「止まること」の大切さを説いているのです。
易経の中で、君子は「思うこと其の位を出でず」とあります。これは、優れた人物は自分の考えや行動が、自分の立場や能力を超えないようにするという意味です。簡単に言えば、自分の力を過信せず、無理をしないことが大切だということです。
たとえば、まだ新米の社員がいきなり会社の全体戦略を決めようとするのは無理があります。自分の現状をしっかり理解し、その中でできることを積み重ねることで、自然と次のステップに進めるのです。これが「思うこと其の位を出でず」の教えです。

次に、『艮為山』が教えている「分相応」について考えてみましょう。分相応とは、自分の能力や立場に合った行動をすることです。現代のビジネスシーンでも、この考え方は非常に重要です。
例えば、会社でのプロジェクトを進める際に、自分の役割や責任範囲を超えたことを無理にやろうとすると、かえって失敗することがあります。自分にできること、そして今の自分にふさわしいことを見極めることが、成功への第一歩なのです。

さて、山はなぜ動かないのでしょうか?それは、山がその場にどっしりと構えているからこそ、周囲の景色を見守り、環境を守ることができるからです。リーダーとしても、時には止まる勇気が必要です。
リーダーは常に先を見据えて動くことが求められますが、それだけではありません。時には一歩引いて、周囲の状況を冷静に見極めることが大切です。これが、艮為山の教えが伝える「止まること」の意味です。

トヨタの創業者である豊田喜一郎は、戦後の混乱期にあっても会社を安定させるために慎重な経営を続けました。彼は無理に拡大をせず、まずは基盤を固めることに専念しました。その結果、トヨタは今日、世界を代表する自動車メーカーとなりました。これもまた、艮為山の教えに通じるものがあります。
また、日本の伝統的な建築物、特に神社やお寺は自然と調和するように設計されています。山の中に建てられた寺院は、自然の一部として静かに存在しています。このように、自然と一体となることの大切さを知ることができます。

ある著名な経営者は、「自分の本業を忘れて、別の分野に乗り出したがために経営が傾いた」と告白しています。彼の失敗は、自分の位置を踏み外したことに起因しているのです。一方で、自分の適切な位置や範囲に徹するリーダーは大成功を収めています。例えば創業者Aさんは、自分の強みである製造工程の改善に専念し、それ以外の分野は部下に任せました。その結果、会社は驚異的な成長を遂げることができたのです。

人生も同様に、無理のない適切な範囲で行動することが重要なのです。皆さんには、将来リーダーとして大きな期待が寄せられています。しかし、力を入れすぎて自分の位置を逸脱してしまっては、本来の力を発揮できなくなってしまいます。
ですから、常に自分の適切な位置や範囲を自覚し、その中で全力を尽くすことが肝心なのです。時には、自分の限界を認め、謙虚な姿勢を保つことも必要不可欠です。そうすれば、必ずや皆さんの真の力が開花するはずです。


参考出典

君子は自分の思いが分限や器量(位)に止まり、力量以上のことをいたずらに欲しない。そういう姿勢に徹すれば、自然に「これは自分らしくない」と、本来の自分に相応ふさわしいところに思い止まることができる。艮為山は止まる時を説く卦。分相応であることの大切さを教えている。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #艮為山
#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門


この記事が参加している募集

#最近の学び

181,685件

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?