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まいにち易経_0527【人の心の動きを観よ】天地感じて万物化生し、聖人人心を感ぜしめて、天下和平なり。その感ずるところを観て、天地万物の情見るべし。[31䷞澤山咸:彖伝]

彖曰。咸感也。柔上而剛下。二氣感應以相與。止而說。男下女。是以亨利貞。取女吉也。天地感而萬物化生。聖人感人心而天下和平。觀其所感。而天地萬物之情可見矣。
彖に曰く、咸は感なり。柔、上(かみ)にして剛、下(しも)なり。二気感応(かんのう)して以て相い与(くみ)す。止まって説ぶ。男女に下る。ここを以て亨る。貞しきに利あり、女を取るときは吉なり。天地感して万物化生す。聖人人心を感して、天下和平なり。その感するところを観て、天地万物の情見るべし。

澤山咸(たくざんかん)
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

『澤山咸』の「咸(かん)」は、感応・感動・交感を意味します。つまり、人の心を動かし、共鳴することです。経営においても、社員や顧客の心を動かし、共感を得ることは非常に重要です。組織は一つの有機体のようなものであり、その中で感応がうまく働くことで全体が調和し、成長します。

この卦は、陰(柔)が上にあり、陽(剛)が下にあることを示しています。
陰陽の二気が適切に交感することで、万物が生み出されると説かれているのです。これは、リーダーシップにおいて柔軟性と強さのバランスが重要であることを示唆しています。リーダーが柔軟な姿勢を持ちつつも、強い意志を持って組織を導くことで、真の感応が生まれます。
感応とは、相手の気持ちや状況に敏感に反応し、共鳴することです。これは、マーケティングや営業活動においても非常に重要です。顧客のニーズや市場の動向を敏感に察知し、それに応じた戦略を立てることで、企業は成功を収めます。

企業におけるトップダウンとボトムアップのバランスを考えてみましょう。トップダウンで決定を下す際には強いリーダーシップが求められますが、ボトムアップで現場の声を聞く柔軟性も必要です。これが柔上剛下の形です。
これを経営の場面に置き換えてみましょう。組織には様々な役割や立場の人がいます。上司と部下、経営陣と現場スタッフなど、立場の異なる人々が感応し合うことで、組織は機能するのです。


経営者の役割は、この感応を適切に導き、組織にとって良い影響を及ぼすことにあります。部下の気持ちに寄り添い、現場の声に耳を傾けることが大切なのです。
一方で、経営判断においては、感応したものの良し悪しを見極める知性も求められます。単に感情的になるのではなく、冷静に状況を判断することが肝心です。これは易経の言う「貞」、すなわち正しさを保つことに通じます。

感応には、正しい知性が伴わなければなりません。感じたものを識別し、良いものを選び取ることが重要です。経営においても、社員や顧客からのフィードバックを適切に判断し、正しい方向に導くことが求められます。

また、感応力を高めるには、オープンな心構えと、相手の立場に立って物事を見る姿勢が不可欠です。組織の内外を問わず、多様な人々と交わることで、新しい気付きを得ることができるでしょう。

例えば、ある大手自動車メーカーでは、現場の作業員の声に耳を傾け、彼らのアイデアを製品開発に生かすことで、大ヒット車を生み出しました。お客様の生の声にも真摯に向き合い、それらを的確に製品へと反映させたのです。

このように、感応力は経営者に欠かせない資質なのです。組織の内外に開かれた心を持ち、しっかりと現場の声に耳を傾けることが何より大切です。そして、感応したものを冷静に判断し、組織にとってプラスになるものを選び取っていく。この繰り返しが、組織の発展につながるはずです。

『澤山咸』の教えは、企業経営や組織運営において非常に重要な示唆を与えてくれます。柔軟性と強さのバランスを保ち、社員や顧客の心に共鳴し、正しい知性を持って判断することで、組織は成長し続けることができます。私たちが日々の経営活動において、この教えを活かしていくことで、より良い未来を築いていくことができるのです。


参考出典

天地は互いに交感して万物を育成し、聖人は人を感動させ、天下に和平をもたらす。たとえば、ある人がどのような人や物事に感応し、何に感動したかを知れば、その人の心情を把握することができる。これは物事も同じことで、人や物を見る場合の一つのコツである。沢山咸の「咸」は感応・感動・交感を意味し、人の心を動かすことをいう。

易経一日一言/竹村亞希子

咸は感なりとは、同音の字で卦名を解説したもの、上巻にも多く例がある。柔上而剛下の句、朱子は基本的には、上卦の兌は陰卦、下卦の艮は陽卦だから、柔(陰卦)が上におり、剛(陽卦)が下におる意味だと解するが、そのほか一説として、卦変による解釈をも紹介している。すなわち咸は、旅䷷の六五と上九が入れ換わった卦である。六五の柔が上位に上り、上九の剛爻が五の位に下ることによって咸になったことをいう、と。この場合、柔上而剛下の旬は、柔上って剛下ると読む。いずれにしても、陰と陽が感応する形の卦である。前説でゆけば、陰卦が上にあり、陽卦が下にへりくだることで、後説でゆけば、陰が上り、陽が下ることで、陰陽の二気が感応して、和合~相い与す~する。「二気」とは陰と陽の気。二気が交感して万物は形成される。恋愛、結婚も二気の交感である。もともと質が違い、反発し合う二気であればこそ、感応し合い、相与するのである。
下卦艮には止まるの徳が上卦兌には説ぶの徳がある。また下卦の象は少男、上卦の象は少女で、男が女にへりくだる形になっている。徳からいっても象からいっても感応の意味になる。そこで、この卦の判断辞として、亨る、貞しきに利あり、女を取るときは吉、という。
赤の他人だった少い男女が一目で相い感応して、それから終身結ばれることがあるのは、自然の神秘な働きである。天と地との二つの気(陽と陰)が交感することでもって、万物はそれぞれの形をなして発生する。同じように、聖人のまごころが億の人々の心を感動させることでもって、天下は平和になる。天地が交感して万物を生じ、聖人が民心を感ぜしめて平和をもたらす、その感通の道理をよく見れば、天地万物の秘密は、暗黙のうちに見てとることができよう。
感じるということは本能的なことだから、その対象を取捨選択し、良いものだけを感じるわけではない。だから、感じたものの中から受け取って良いものと良くないものとを分別しなくてはならないのである。これを簡潔に言うと「貞に利ろし」ということになる。
感じる作用を感性とするならば、感じたものを識別するのが知性で、この二つは車の両輪のようなものである。
感ずるときには、正しい知性をも共に働かせ、いつも正しいものを感受するようでなくてはならない。男女の例でいえば、若い妻が自分の夫だけを待ち、他の男へは少しも心を向けようとしない。それが本当の咸であり、これを推して「女を取る(娶る)に吉」というのが、彖辞の大意である。

易(朝日選書)/本田濟

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