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まいにち易経_0524【疑心、暗鬼を生ず】睽きて孤なり。豕の塗を負うを見、鬼を一車に載す。先にはこれが弧を張り、後にはこれが弧を説く。[38䷥火澤睽:上九]

上九。睽孤。見豕負塗。載鬼一車。先張之弧。後説之弧。匪冦婚媾。往遇雨則吉。 象曰。遇雨之吉。羣疑亡也。
上九は、そむいてひとりなり。いのこひじりこを負おえるを見る。すること一車。先にはこれがゆみを張り、のちにはこれが弧をはずす。あだするにあらず婚媾こんこうせんとす。往きて雨に遇えば吉なり。象に曰く、雨に遇うの吉なるは、群疑亡ぐんぎほろぶればなり。


火沢睽は、疑いや不信感がもたらす孤立と錯覚の危険性を教えています。
そむきてひとりなり」
背いて逃げ、孤立することを意味します。対立や不信感が原因で、人間関係が悪化し、一人ぼっちになる状況を指します。
いのこどろを負う」
泥だらけの醜い豚を象徴し、他人から嫌われたり、自分がどうしようもない状態に陥ることを意味します。
を一車にす」
化け物が車に乗っている様子を指し、不安や恐怖が具体化してしまうことを示します。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

『火沢睽:上九』の意味

『火沢睽』は、「背く」「疑う」時期を象徴しています。上九(じょうきゅう)というのは、六十四卦の中で最も高い位置にある陽爻(こう)で、物事の極まった状態を示しています。この卦のテーマは「疑心暗鬼」。つまり、猜疑心(さいぎしん)や誤解によって、人間関係が壊れてしまうことを示しています。

「豕の塗を負う」は、泥まみれの豚を意味し、醜い状況を指しています。また、「鬼を一車に載す」という表現は、幽霊が車に乗っている様子を表しており、これは現実には存在しないものを恐れている状態を表現しています。結局、これらはすべて疑心暗鬼によって生じる妄想であることを示しています。

リーダーシップと疑心暗鬼

さて、この『火沢睽:上九』の教えを、現代のリーダーシップにどのように応用できるか考えてみましょう。リーダーとして、皆さんが直面するであろう最大の課題の一つは「信頼関係の構築」です。信頼がなければ、チームはうまく機能しません。

疑心暗鬼に陥ると、他人の言動を過剰に疑い、悪い方向に解釈してしまうことがあります。例えば、部下のちょっとしたミスを大きく取り上げてしまったり、同僚の発言を悪意のあるものと捉えたりすることです。しかし、その背後には、往々にして根拠のない思い込みや偏見が存在します。

豆知識:疑心暗鬼の語源

「疑心暗鬼」という言葉は、『易経』に由来しています。疑う心が強くなると、見えないものや存在しないものまで恐れるようになるという意味です。これはまさに、『火沢睽:上九』で描かれている状況と同じです。興味深いことに、この言葉は現代でもよく使われており、心理学の分野でも「認知バイアス」として研究されています。

解決策:信頼の構築

では、どうすればこのような状況を避けることができるでしょうか。『火沢睽:上九』の最後に示されているように、「往きて雨に遇えば吉」今までの数々の疑い、すべてなくなり、上九が進んで六三と和合するようになれば吉。雨とは陰陽の和合の結果生ずるもの。これは、相手を信じ、協力し合うことで幸運が訪れるという意味です。

例えば、チームの中で問題が発生した場合、まず冷静に事実を確認し、感情的にならないことが大切です。そして、相手の立場に立って考え、理解しようと努めることが求められます。疑いを捨て、オープンなコミュニケーションを心がけることで、信頼関係が築かれます。

実際のリーダーシップに活かす

皆さんがリーダーとしてチームを率いる時、次のポイントを意識してみてください。

  1. 透明性を保つ:情報を共有し、チームメンバーが何をしているか、何を考えているかを明確にすることで、無用な誤解を防ぎます。

  2. フィードバックを大切にする:建設的なフィードバックを提供し、受け入れることで、相互の信頼が深まります。

  3. 感謝の気持ちを表す:小さなことでも感謝の意を示すことで、メンバーは自分が認められていると感じ、モチベーションが向上します。

  4. 問題解決にフォーカスする:問題が発生したときは、個人を攻撃するのではなく、問題の解決に集中することが重要です。

『火沢睽:上九』の教えは、現代のリーダーシップにおいても非常に有益です。リーダーとして成功するためには、猜疑心や誤解を乗り越え、信頼関係を築くことが不可欠です。皆さんがリーダーとして成長する過程で、この教えを心に留めておいてください。


参考出典

火沢睽は背く、疑う時を説く。「睽きて孤(ひとり)なり」は、背いて逃げて孤立すること。「豕(いのこ)の塗(どろ)を負う」は泥だらけの醜悪な豚。「鬼(き)を一車に載(の)す」は化け物が車に乗っている様。弓で射ようとするが、よく見れば錯覚と気づき、疑い晴れて弓を捨てる。
猜疑心と思い込みから被害妄想に陥り、恐れるほどに忌み嫌う。
まさしく疑心暗鬼の構造である。

易経一日一言/竹村亞希子

この爻辞、易経全体の中でも最も幻想的で奇怪である。『塗』は泥。『鬼』は幽霊。『弧』は弓。『説』は脱と同じ。『匪冦婚媾』は䷂屯六二その他に見えた。上九は下卦の六三と「応」ずる。
しかるに六三は前後の二陽爻のために、車を引き戻され、牛を制止されて、上九のもとへ来れない。上九自身は上卦☲明の窮極点、また睽卦の極点におる。しかも剛爻、剛愎の性質である。明の窮まるところにおるから、不明で猜疑心に満ち、睽の極点だからひどく反目する。そこで睽いて孤である。
六三が周囲の陽爻に、心ならずとりまかれているのを、いかにも汚いもののように、まるで豚が背中に泥を一杯つけているのを見るように、苦り切って眺めている。六三には叛逆の事実はないのだが、上九は猜疑心の極、無いものを有るかのように見る。
車一杯に幽霊を載せているのをまざまざと見る。幽霊とは、怖れるものだけに見えるもの、上九の六三に対する被害妄想の象徴である。
猜疑心と思い込みから被害妄想に陥り、恐れるほどに忌み嫌う。まさしく疑心暗鬼の構造である。
上九は当初、枯尾花を幽霊と見て、その弓に弦を張り、六三を射殺しようとするが、その後やや疑いが解けて、その弓弦をはずす。最後には六三が自分に敵対するものでなく(=匪寇)、自分と親しみを結びたい(=婚講)本心だと悟る。ここに睽きは極まって、合うことになる。往いて雨に遇えば吉、今までの数々の疑い、すべてなくなり、上九が進んで六三と和合するようになれば吉。
雨とは陰陽の和合の結果生ずるもの。占ってこの爻を得れば、人と折り合わず、妄想を抱いて敵対することがあろう。疑いを捨てて和合すれば吉。

易(朝日選書)/本田濟

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