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★まいにち易経_0628【悪しき習慣は早期に矯正せよ】童牛の牿は、元吉なり。[26䷙山天大畜:六四]

六四。童牛之牿。元吉。

六四は、童牛どうぎゅうさえ。元吉なり。


角で人を突くのを防ぐために仔牛のうちから横木を縛り付けるのは、大いに吉である。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日は易経六十四卦の『山天大畜』の六四について詳述いたします。これは、牛の角に横木を取り付けるという象徴を通して、教育と成長の重要性を示す教えです。

まず、古代の人々がどのようにして牛を飼い慣らしたかをご紹介しましょう。通常おとなしい牛も、怒ると非常に猛々しくなります。特に小牛はまだその力を制御できず、突進して人を傷つけることがあります。そこで、人々は小牛の角に木の棒を縛り付け、さらにその棒から細い紐を小牛の鼻に通しました。こうすることで、小牛が突進すると紐が鼻を引っ張り、痛みを感じるようになります。時間が経つと、小牛は突進すると自分が痛みを感じることを学び、成長するにつれて自然と突進しなくなるのです。

この話は、私たちが子供を育てる方法にも通じます。子供の頃に悪い癖を矯正することの大切さが、このお話からも理解できます。例えば、小さな頃に礼儀作法や時間を守ることの大切さを教えることは、まさに小牛に横木をつけることと同じです。幼少期に正しい習慣を身につけさせることで、大人になってもその習慣はしっかりと根付いているのです。

私が若いころ、ある先輩から興味深い話を聞いたことがあります。日本の伝統工芸である「根付」の彫刻師の修行についてです。根付は、小さな象牙や木で作られた装飾品で、江戸時代には男性が印籠や煙草入れを帯に下げるときに使われていました。その話によると、根付の彫刻師の弟子は、最初の1年間、ただひたすら象牙や木を磨くだけだそうです。彫刻の技術を学ぶ前に、素材の性質を知り、忍耐力を養うのだと言います。これは、まさに「子牛の角に横木をつける」という考え方と同じではないでしょうか。

次に、盆栽についてお話ししましょう。盆栽は、小さな鉢の中で木々を美しく育てる日本の伝統芸術です。盆栽師は、木の成長を見守りながら、少しずつ枝を切り、針金で形を整えていきます。一見すると、木の自然な成長を阻害しているように見えるかもしれません。しかし、実際には盆栽師は木の本来持っている美しさを引き出すために、細心の注意を払って作業を行っています。これは、まさに人材育成の理想的な形ではないでしょうか。

さて、ここで皆さんに考えていただきたいことがあります。自分自身の経験を振り返ってみてください。これまでの人生で、誰かに「横木をつけられた」経験はありませんか?それは、厳しい先生や上司かもしれません。あるいは、優しくも時に厳しい両親かもしれません。その時は辛かったかもしれません。しかし、今振り返ってみると、その経験が自分を成長させてくれたと感じることはないでしょうか。もしそうだとしたら、その人たちこそが、皆さんにとっての「良きリーダー」だったのです。

ただし、ここで注意しなければならないのは、「横木をつける」タイミングです。爻辞では「子牛の角」と言っています。つまり、まだ柔軟で、形が定まっていない時期を指しているのです。人材育成においても同じことが言えます。新人や若手のうちは、まだ柔軟性があり、良い習慣を身につけやすい時期です。しかし、ある程度経験を積んだ人に対して同じことをしようとすると、逆効果になる可能性があります。そのため、人それぞれの成長段階に応じた適切なアプローチが必要になってくるのです。

また、「横木をつける」ということは、単に規則を押し付けることではありません。重要なのは、なぜそうすることが必要なのかを理解してもらうことです。理由もわからず、ただ言われたことをやるだけでは、真の成長は望めません。例えば、ある会社で新入社員に対して「毎日、業務日報を書くこと」というルールがあったとします。単にそれを義務づけるだけでは、面倒くさいだけの作業になってしまうかもしれません。しかし、「日報を書くことで自分の仕事を振り返り、改善点を見つけることができる」「上司やチームメンバーとの情報共有に役立つ」といった理由を説明すれば、その習慣の重要性を理解し、積極的に取り組むようになるでしょう。

さらに、「横木をつける」際には、個人の特性や才能を十分に考慮することも大切です。全員を同じ型にはめようとするのではなく、それぞれの長所を活かしながら、チーム全体としての調和を図ることが求められます。これは、オーケストラの指揮者に似ています。オーケストラには、様々な楽器が存在します。バイオリンやチェロ、フルートやクラリネット、そしてティンパニーやトライアングルまで。これらの楽器は、それぞれ全く異なる音色や特性を持っています。しかし、優れた指揮者は、これらの多様な楽器を調和させ、美しいハーモニーを生み出します。時には、ある楽器を抑えたり、別の楽器を際立たせたりすることもあるでしょう。しかし、それは決して楽器の個性を消し去ることではなく、むしろそれぞれの特性を最大限に活かすための指揮なのです。

リーダーの役割も、これと同じです。チームの中にある多様な才能や個性を認識し、それぞれが最も輝ける場所に配置し、全体として最高のパフォーマンスを発揮できるよう導いていく。これこそが、真のリーダーシップではないでしょうか。

最後に、この爻が「大いに吉である」と結んでいることに注目してください。つまり、適切な時期に適切な方法で「横木をつける」ことができれば、それは非常に良い結果をもたらすということです。皆さんがリーダーとして成長していく中で、この「山天大畜」の教えを常に心に留めておいてほしいと思います。人材を育成することは、時に困難を伴うかもしれません。しかし、それは皆さん自身の成長にもつながる、非常に意義深い経験となるはずです。そして、いつか皆さんが大きな組織のリーダーとなったとき、今日学んだこの教えを思い出してください。そして、次の世代のリーダーたちに、この知恵を伝えていってほしいと思います。


参考出典

子牛の角に横木をつけるのは、大いに吉である。
「牿」とは、牛の角の形を矯正するためにつける添え木。鋭い角に突かれて怪我をしたり命を落としたりしないように、角がまだ固まりきらない子牛のころに、添え木をして形を整えることをいっている。
これは、先々を見越して、悪い癖は子供のうちに直しておくほうがいいという喩えとなっている。

易経一日一言/竹村亞希子

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