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まいにち易経_0514【賢人に教えを乞う】翩翩として富まず、その隣と以にす。戒めずしてもって孚あり。[11䷊地天泰:六四]

六四。翩翩不富。以其鄰。不戒以孚。 象曰。翩翩不富。皆失實也。不戒以孚。中心願也。
六四は、翩翩(へんぺん)として富まず、その隣(となり)と以(とも)にす。戒めずして以て孚(まこと)あり。象に曰く、翩翩として富まず、みな実(じつ)を失すればなり。戒めずして以て孚あるは、中心願えばなり。

地天泰(ちてんたい)
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

皆さん、こんにちは。今日は、易経六十四卦の一つである「地天泰」について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
私は、これまで数多くの経営を経験し、人生の酸いも甘いも味わってきました。その中で、易経の教えは、常に私の指針であり、困難を乗り越え、成功へと導いてくれる羅針盤のような存在でした。

今日は、特に若い皆さんにとって、将来のリーダーとして成長していく上で非常に重要であると考えられる「地天泰」の卦象について、分かりやすく解説していきたいと思います。

「地天泰」の卦は、自然の摂理や社会の秩序が堅く保たれている安定した時代を表しています。しかし、その一方で、泰平の世が長続きすると、人々が油断し、慢心してしまう危険性も孕んでいることを警告しています。
今回、特に注目したいのは、四爻(よんこう)の教えです。四爻は、泰平の世の終わりが近づき、陰の力が徐々に強くなり始める時期を表しています。

この爻辞(こうじ)には、
翩翩(へんぺん)として富まず、その隣(となり)と以(とも)にす。戒めずして以て孚(まこと)あり。象に曰く、翩翩として富まず、みな実(じつ)を失すればなり。戒めずして以て孚あるは、中心願えばなり。」と記されています。

これは、一見すると矛盾しているように感じられるかもしれません。
「翩翩」という言葉は、烏がひらひらと舞い降りるさまを表します。
泰平の世が長続きすると、上位にいる者たちは、自分の能力を過信し、慢心してしまうことがあります。しかし、泰平の世は永遠ではなく、いずれは陰の力が強くなり、世の中は混乱に陥ります。
そのような時、上位にいる者たちは、自分のプライドを捨て、謙虚な気持ちで下位にいる賢者の助けを求めることが重要です。

皆さんは、未来のリーダーとしての役割を担っています。リーダーとは、すべてを知り尽くし、完璧である必要はありません。むしろ、自分の限界を知り、必要なときに助けを求めることができることが重要です。プライドを捨て、誠心誠意を持って他者と協力する姿勢が求められます。

私の経験からも言えることですが、会社が困難な状況に直面したとき、自分一人で解決しようとするのは無理があります。優れた人材や専門家の意見を聞き、共に解決策を見つけることが必要です。例えば、私が経営していた会社が大きな危機に直面したとき、私は自分の限界を認め、若手の意見や外部の専門家のアドバイスを取り入れることで、危機を乗り越えることができました。

「翩翩として富まず」という言葉には、実際の富を持っていなくても、志を同じくする仲間が集まることの重要性が示されています。真のリーダーシップとは、物質的な富や権力ではなく、共通の目標や価値観に基づいて人々を引きつける力にあります。皆さんも、自分のビジョンや価値観を明確にし、それに共感してくれる仲間を集めることが重要です。

例えば、あるリーダーが目指す目標に向かって全力で取り組んでいるとしましょう。そのリーダーが自分の成功だけを追求するのではなく、仲間と共に成長し、成功を分かち合う姿勢を持っているとします。そのリーダーのもとには、同じ志を持った人々が集まり、共に目標を達成するために協力し合うでしょう。これこそが、真のリーダーシップの力です。

「戒めずして以て孚(まこと)あり」という言葉は、上位者が下位の賢者に助けを求めた時、周囲の人々が自然と集まってくることを意味します。
警告や強制によらず、信頼と誠実さを持って人々を導くことの大切さを説いています。これは、上位者が真摯な態度で助けを求めれば、周囲の人々は共感し、協力してくれるということです。リーダーにとって、最も大切なのは、権力や地位ではなく、誠実さ、謙虚さ、そして周囲の人々を思いやる心です。

私がかつて経営していた会社では、厳しいルールや罰則を設けるのではなく、従業員一人ひとりとの信頼関係を大切にしていました。結果として、従業員は自発的に高いモチベーションを持ち、会社の目標に向かって一致団結して働くようになりました。信頼関係は、一朝一夕に築けるものではありませんが、日々の誠実な行動とコミュニケーションを通じて少しずつ積み上げていくことができます。

「地天泰」の四爻の教えは、将来のリーダーとして成長していく上で、非常に重要な教訓を与えてくれます。泰平の世に驕り、慢心せず、常に謙虚な気持ちで学び続け、周囲の人々と協力すること。これが、真のリーダーとなるための秘訣と言えるでしょう。

リーダーとしての資質に乏しい者が、権力の座に居座り続けていれば、やがて混乱が生じ、手の施しようがなくなってしまうのです。
このように、平和な時代であってもリーダーは常に覚醒し、自らの資質を厳しく見つめ直す必要があります。そして、自分よりも優れた知恵を持つ者に謙虚に学ぶ姿勢が何より重要なのです。

歴史に残る偉大なリーダーたちを見れば、彼らは決して独善的ではありませんでした。オープンな心でさまざまな意見に耳を傾け、部下の力を最大限に引き出すことができたからこそ、成功を収められたのです。

例えば、ビル・ゲイツはマイクロソフトを興した巨万の富豪ですが、彼は傲慢になることなく、常に新しい知識を求め続けています。彼の著書を読めば、あくなき探究心と自己変革への意欲に満ちていることがわかるでしょう。また、ジェフ・ベゾスは世界最大の企業アマゾンを率いる一方で、自身の無知を隠さず、むしろそれを武器に変えています。顧客の視点に立って常に学び続け、新しいアイデアを惜しみなく取り入れる姿勢は、まさに四爻が説く「謙虚に学ぶ姿勢」そのものといえるでしょう。

このように、いかに優れたリーダーであっても、時として自らの無力さを自覚し、知恵を求めて他者の助言に耳を傾ける謙虚さが肝心なのです。しかし、これは決して弱さではありません。自らを成長させ、周囲から力強い支持を得るための賢明な選択なのです。

皆さん、将来リーダーとなる日が来るかもしれません。その時、決して傲慢になることなく、自らの至らなさを認め、賢人の助言に耳を傾けてください。そうすれば、確実に皆さんの力は大きく広がり、多くの人々から信頼される存在となれるはずです。

リーダーシップとは、他者を導くことだけでなく、自分自身も成長し続けることです。そして、その成長は、周囲の人々との協力と信頼関係によって支えられています。未来のリーダーである皆さんが、この教えを実践し、素晴らしいリーダーとして成長していくことを心から願っています。

「虚心坦懐(きょしんたんかい)」という言葉があります。
「虚心」は心に先入観やわだかまりがなく、ありのままを素直に受け入れることのできる心の状態です。そのような「澄み切ったこころで他人の意見を謙虚に受け入れる」という意味です。まさにこの精神こそ、偉大なリーダーに求められる資質なのです。 皆さんが将来、優れたリーダーとなり、多くの人々から信頼される存在となられますことを、心よりお祈りしております。

易経は、数千年前から伝わる中国最古の哲学書の一つです。
易経には、人間関係、社会、そして自然界の法則など、様々なことが記されています。易経の教えは、現代社会においても、私たちの人生に多くの示唆を与えてくれます。若い皆さんには、ぜひ易経の智慧に触れ、将来のリーダーとして必要な知識と教養を身につけていただきたいと思います。


参考出典

「翩翩(へんぺん)」は烏がひらひらと舞い降りるさま。泰平の世が乱れることを察し、上位の者が自分は能力が足りないと心を空しくして下位の賢人に教えを乞う
安定した世の中に傾きが見え始めた時、実力のない者が上位に胡坐(あぐら)をかいていては、世の中は急激に傾いて、手立てがなくなる。こうした時は、個人のプライドを捨てて、誠心誠意を表して下位にいる賢者の助けを求めることである。

易経一日一言/竹村亞希子

翩翩、鳥や蝶が身軽く飛ぶさま。孚は信、約束をたがえない。六四はすでに泰の半ばを過ぎてしまった。泰の時はすでに極まった。そこで上に昇っていた陰は、ここにばたばたと飛び降って、もとの場所に帰ろうとする(=翩翩)。その際、六四の隣人たち、六五、上六も同じ気持なので、この二人の隣人をともなって飛び下る(=以其鄰)。
大体同類の人がついて来るのは、自分の富に心ひかれてであるが、この場合は、同類のもの、志が自分と同じなので、自分に富はないけれども喜んでついて来る(=不富)。警告を発したわけでもないのに(=不戒)、約束通りに集まってついて来る(=以孚)。衷心から願っていた故にこそである(象伝)。
占断としては、小人が結束して正道を害することがあるから、気をつけなければいけない。象伝に実を失すというのは、本来下にあるべき陰が上にあるから実を失すという。なお『易経』のなかで「富まず」という表現があれば、それは陰爻を指す。陰爻はまんなかが空虚だからである

易(朝日選書)/本田濟


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