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実母が亡くなった直後、冷静でいられるか?

「時は金なり」というのは商売人か経営者の言葉かもしれません。一般人にとって、その感覚は千差万別のようです。

私が勤務する病院は「介護老人保健施設=いわゆる老健」を併設しています。入居するには、毎月約25万円かかります。半年前から入居されている95歳の女性が午後9時半ごろ亡くなりました。ご家族様をお呼びすると「電車で行きますので、午後11時くらいになります」との返事。実際に到着されたのは、11時半でした。それから5分もしない間に、もうひとり到着されました。

このお二人は別々に暮らす実の姉妹です。亡くなられたのはお二人の実母です。お一人は駅から約3.5kmの距離を徒歩で、もう一人は家からタクシーで来られました。

到着を待って医師が死亡宣告します。それからご家族様が葬儀社へ連絡し、深夜1時にお見送りしました。


時間とお金と疲労を天秤にかける


「朝までロビーで待たせてもらってもいいでしょうか?」
「タクシー呼びましょうか?」
「いえ、始発を待って帰ろうかと思います」
「かまいませんけど、ベッドもありませんし、ロビーの椅子しかありませんけど?」
「大丈夫です」

ということで朝までお二人はロビーで待つことにされました。姉妹のお住まいは別な所です。タクシーで来られた姉の家へ深夜タクシーで帰ると、推定2500円くらい。妹の方が少し遠くて、3500円くらいかかる距離です。

日常のことではなく、実母が亡くなった夜のことです。ご遺体は葬儀社へ行きました。夜が明ければ葬儀の打ち合わせなどが待っています。

私が気になったのは、時間とお金と疲労の問題です。姉はタクシーで来たわけです。では二人で姉の家へタクシーで帰ればいいのに、なぜロビーで夜明かししたのでしょう?


座ったまま夜明かしする5時間半


ここは街の中心から外れているので、朝一番のバスといっても、6時33分です。ところが、「すぐ近くのカフェ・ベーカリーが朝7時から開店して、焼き立てパンが食べられるから」とのことで、バスに乗らず徒歩でカフェへ行かれました。

帰り際、妹さんが「お昼には主人の車で荷物を一緒に取りに来ますので」と言われました。どういうことなのでしょう? それなら深夜に電車で来なくても、ご主人さんに車で送ってもらえばよかったのではないだろうか? いや、夜は危ないから運転しないと決めていたとして、それなら朝、迎えに来てもらえばいいのではないでしょうか?

人のことですからどうでもいいことです。分かっています。理解しようとしても、おそらく私には理解不能な家族関係なのでしょう。


姉妹はとても仲良さそうでした。二人寄り添って、互いに励ましあって、母亡き悲しみを乗り越えようとしているのが伝わってきました。

カフェをネットで調べると、駅と反対方向へ約1kmの場所にあり、一番安くても800円くらいです。ドリンクも豊富で、焼き立てパンが売りのようですから、入ってしまえばいろんな品を頼んでしまいそうな、ちょっとリッチなカフェです。


実母が亡くなった直後、どんな気持ちでいられるでしょうか?


お金と時間の使い方は人それぞれですから、私がどうこういう資格はありません。
ただ、ついさっき母が亡くなったとこです。これから葬儀に向けて神経を使うことでしょう。そんな時に「焼き立てパンの美味しいお店を見つけたから」と勇み足で出かける姉妹の後ろ姿に、悲しみを感じませんでした。

家族との別れに直面した時、冷静な気持ちを保てるでしょうか? 病院勤務していると、いろんな別れの現場を見ます。ただ一つ共通しているのは、高齢者が亡くなったその日、泣き崩れる家族を見たことがありません。そのくらいの生き方がちょうどいいのかもしれません。


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