私のための様々

全てフィクションです。

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最近の記事

全部夏のせい

キンキンに冷えたコーラが飲みたくて、コンビニでロックアイスを買ったのに、夏が暑すぎたせいで私の体力は底尽きていて、部屋に入るなりすぐにベットへ倒れ込んだ。 もちろん、案の定、ロックアイスとコーラを玄関に置いてることなんて忘れたままね。 寝そべった私は永遠にクリアできないパズルゲームのレベル106に何度もトライして、そして打ち砕かれてスマホを投げ捨てた頃には、もう窓外に蔓延る夏は随分と大人しくなっていた。 そういえば、と朝から何も食べていないことに気がついて、冷蔵庫を開け

    • 心にギャルを飼う

      わたしが唯一、悩みを相談するギャルがいる。 なにを言っても、打ち明けても、「まじ?」「ダルイね!」しか言わないから非常に心地いい。 そんないわゆる的なギャルとは出会って3年くらい経つが、最近いよいよ「悩みすぎ、クソだるい」と怒られてしまった。 「まじでお前は心にギャルを飼え。」と一蹴された。 どうやってギャル飼えばいい?と私が問うと、全てにおいて「やば!」「だる!」「うざ!」で終わらせて、バイブス上げて笑っとけばいい、と彼女らしい笑顔で教えてくれた。 それは私の生き

      • 古紙の匂い

        彼が私を好きだった頃、 彼は私に好きな絵本を聞いた。 私はそれほど好きでも無い絵本を好きだと答えた。 「悲しい話が好きなんだね」と彼は言った。 私が彼を好きだった頃、 私は彼が好きだと言った絵本を探した。 だけど何処を探しても見つからなくて、 彼の内側を覗きそびれた気がした。 それからしばらく時間が経って 彼も私も互いを好きではなくなった頃、 ふと立ち寄った小さな古本屋で彼が好きだと言った絵本を見つけた。 壁一面に所狭しと並べられた本棚の隅っこにあったその絵本をなぜか

        • 至極無駄な営み

          絨毯を洗った。 友達がお家にやってきてくれると言うから、嬉しくなって、絨毯を洗った。 まずは浴槽に絨毯を投げ入れたら、隠れるくらいのぬるま湯を張って、洗剤とか漂白剤とかなんだか綺麗になりそうなものを色々と入れた。 さっきまで無色透明だった水が、本当に今までこの上に寝転んでたの?って不安になるくらいの色になったので、漂白剤のせいにして見て見ぬふりをした。 絨毯を洗ってることなんてすっかり忘れて、友達と遊んだ。 彼女のターンが永遠に終わらないトークをふむふむと聴きながら、

          夕暮れの海でゆるいお酒片手に聴きたい音楽

          そもそも、海は嫌いだ。 身体や髪はベタベタするし、濡れた足にまとわりつく砂や小さな流木は痛いし、一瞬で日焼けするし。 でも波打ち際のワクワクとか、海の家の焼きそばとか、防波堤から見下ろす小魚の群れとか、ほどよく距離をとった海は好きだ。 もしも半裸になって濡れた身体を強引に乾かしても怒られない私だったなら、「もうちょっと海も好きだったかも。」とかは一瞬思ったけど、結局どんな私であろうが多分、いや絶対、海はそんなに好きじゃないと思う。 だから私は、正しい海水浴を行なった人々

          夕暮れの海でゆるいお酒片手に聴きたい音楽

          此処に帰るために

          君が頑張っているから、 私も頑張ろうと思うのだ。 君は多分今日も、 結果とか責任とか、期待とか幻滅とか、 そういう身勝手で重たい戯言を背負っている。 「馬鹿にすんなよ」って君は言う。 小さな声で君は言う。 少し笑って君は行く。 私はつられて熱くなって、 猫背を正して家を出る。 戦うんだ。 戦うんだ。 甘い言葉には造作なく誘われてしまうから、 戒めあっていたい、 小突きあっていたい。 此処は温かくて温いから、 今日も帰るために外へ行く。 戦うんだ。 戦うんだ。

          此処に帰るために

          香水を買ったから褒めて欲しいと言うお話

          表題の通り、最近香水を買いました。 それはそれは奮発をして、お高い香水を買いました。 いい香りがする人には「何の香水使ってるんですか?」と教えを乞い、香水を売ってるお店を見かける度に嗅覚をおかしくしたりしながら、やっと見つけた素敵な香りを纏っています。 どのぐらいつければいいのかも、私は今香っているのかもよくわからず、毎朝はてなマークを浮かべながら両手首にプシュプシュしています。 仲良しの友達の前を幾度も通り過ぎて、「私いい匂い?!」とまるで口裂け女さんみたいに己につい

          香水を買ったから褒めて欲しいと言うお話

          毒になって、薬になる

          私がなりたい私には、もうなれない。 この先も作り出していくであろう”理想の自分”にはいつかなれるかもしれないけれど、”あの日思い描いた私”にはもうなれないのだ。 24歳。 「まだ若いよ!」と言われ続ける毎日だ。 自分で作った理想や無意味な固定概念が、私を雁字搦めにしている。 馬鹿らしいなと自分でも思う。 20代を生き抜いた成功者たちが、20代をもがく私たちにエールをくれる。 そんな高価な言葉すらも毒にしてしまって、今日も私は眠れない。 言いたいことがたくさんあっても

          毒になって、薬になる

          私の親切は非常に迷惑

          ひとりでラーメン屋さんに行った。 普段はあんまりこってりしたものは欲さないけど、突然どうしてもつけ麺が食べたくなって、開店前のラーメン屋さんに並ぶことにした。 前には7人が並んでいて、私は最後尾だった。 「入れるかなぁ...」と不安になって、背伸びをして店内を覗き込んだらカウンターが9席あったからなんとか開店と同時に入れそうでホッとした。 あまり感じることのない空腹感と久しぶりのつけ麺にウキウキしていた。 すると、私の後ろに中学生カップルが「もうすぐ開店するよ!」と並び始

          私の親切は非常に迷惑

          越えられない夜の浪費を、これからも

          あなたが「恋人と別れた」と電話をかけてきた深夜、私は自転車を飛ばして最寄りの駅に向かった。 終電間近でやってきたあなたは散々泣き腫らした不細工な顔で難しそうに笑っていて、なんて声をかければいいのかわからなかった。 行く当てなんかなかったから、しばらく二人乗りで街をふらついてはただ時間が過ぎるのを待った。 あなたは特に何も言わずに私の後ろに乗せられていて、私も特に何も聞かずに自転車を漕いでいた気がする。 気がしてたんだけど、 数年後のあなたによって当時の私は、花*花の「さ

          越えられない夜の浪費を、これからも

          スズムシが鳴いたから秋

          よく通った駅前の本屋が潰れて、100円ショップができた。 はじめは便利になるぞ。と嬉々としたが、 慣れてくると本屋の方が随分と風情も実用性もあってよかったのに。と思った。 本を買うのにわざわざ2つ3つ降りたい駅を通り過ぎなければいけないのが非常に愉快でない。 よく行く喫茶店の店主が、電子書籍の良さを私に語る。 私はレコードで音楽を聴くことを好む彼に、Apple Musicの素晴らしさを語ってやった。 何往復か"便利"の押し付け合いをした後に、"不便さ"の嗜み方を語り合っ

          スズムシが鳴いたから秋

          私が高校を辞めたのは

          いじめが原因で(とされている)、結果的に自殺してしまった少女のニュースを見た。 そういうニュースが報道される時、必ずそのいなくなってしまった彼女を肯定的に評価する声も一緒に報道される。 「明るくていい子だった」 「勉強ができて心優しい生徒だった」 彼女はもう話せないから彼女が何を思っていたのかを知る術なんかないのに、切り貼りされた情報で断定的な彼女の輪郭が浮かぶ。 途端に、いろんなことを疑ってしまって怖くなる。 私は16歳の春に高校を辞めた。 「もう疲れた」と母に言った。

          私が高校を辞めたのは

          葉が一つ、一つと落ちていくような

          「こんな時間に帰って家でなにしろって言うのぉ」 テレビから流れる音楽が19時を知らせた頃、私の向かいで顔を赤くさせた明石さんは眉毛をへにゃりと困らせてそう言った。 23になった私と80をとうに過ぎたらしい明石さんがともに机を囲むのは、東京から都会らしさを排除させたようなローカルな駅を北に10分ほど歩いたところにある居酒屋で偶然に居合わせた時だけである。 私は数ヶ月に一度フラッと1人でここを訪れるのだが、明石さんはほぼ毎日居座っているので、偶然に居合わせるというよりは私が

          葉が一つ、一つと落ちていくような

          春の焦燥

          雨が降って、 太陽に夏を感じさせられるのが少し不愉快で、 また雨が降って、 桜の白はゆるやかに、されど決して止められないスピードで緑へ命を譲っていく。 その白緑白のグラデーションがなんともいえぬほどに綺麗で、綺麗で、一瞬足を止めた。 けれど私の朝は忙しくて、 迫り来るあの電車に乗り込まなくてはいけない。 帰りに写真を撮ろうと思った。 今日は18時前にはまたここに来られるはずだから、 きっとまだ陽は落ちていない。 私はここから早く走り出さなければいけなかった。 夕。 落

          浮遊感

          いい映画見て、良い友達と笑って、 それは穏やかで穏やかで 最悪な今日も心地いい浮遊感に浮かされてゆく。 わたしはいつだってこうでありたくて こうでしかありたくなくて 穏やかで穏やかな日々を この浮遊感と共に謳歌したいのだ。 だけど現実はそう優しくはなく、 わたしやあなたを悲しませる様々が飽きることなく耳目に触れてしまう。 それでもわたしは、 できるだけわたしの近辺が、穏やさで満ちていてほしいのだ。 それぞれの悲しみをコートみたいに着こなしながら、いつまでも浮遊していたい

          傷つきたい人

          それからあの子は何かを言いかけた沈黙を、あぁでもこれは、まぁ、ええか。と言い換え、不要になってしまった空いた口の不自然さを誤魔化すように上唇をぺろりと舐めた。 わたしはわたしでどうしたん?とも聞き返さずに、相槌にも満たない息を吐いて、何もなかったことを強調するためにスマホからは目を離さなかった。 わたしとあの子の間にはどう考えても不自然に揺れたはずの空気があったのに、やはりお互いに何もなかったことを強調するための行動を繰り返していた。 あの子が啜る鼻水の音が五月蝿い。

          傷つきたい人