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春の焦燥

雨が降って、
太陽に夏を感じさせられるのが少し不愉快で、
また雨が降って、
桜の白はゆるやかに、されど決して止められないスピードで緑へ命を譲っていく。

その白緑白のグラデーションがなんともいえぬほどに綺麗で、綺麗で、一瞬足を止めた。
けれど私の朝は忙しくて、
迫り来るあの電車に乗り込まなくてはいけない。

帰りに写真を撮ろうと思った。
今日は18時前にはまたここに来られるはずだから、
きっとまだ陽は落ちていない。

私はここから早く走り出さなければいけなかった。

夕。
落ちかけた陽に目的を思い出さされて、暇を持て余していたはずの私は今朝同様またも走ることとなった。
17時48分、曇り。
たどり着いた場所は既に、今朝とは姿を変えていた。
その桜はもう誇らしいほどに緑で、生気に溢れていて、私は呆気に取られてしまった。
完全に緑はその身体を奪い取って、落ちた白が風に転がされていた。

切ないようで、悲しいようで、なんとも言えなかった。

この緑は昨年同様、私を夏へと連れて行ってその暑さをさらに盛り立ててくれるんだろう。
そしていつか痩せ細って、私を寂しくさせる。

駅前の大きな木々は
いつも私に過ぎゆく季節を感じさせてみては焦燥させ、時に私の喜びへ色を添えてくれる。

木々がある街に住んでよかった。
桜が綺麗な街に住んでよかった。
よかった。セミはうるさいけれど。

さぁ夏は嫌いだ、早く秋になって頂戴。
今年もありがと綺麗なさくら。

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