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越えられない夜の浪費を、これからも

あなたが「恋人と別れた」と電話をかけてきた深夜、私は自転車を飛ばして最寄りの駅に向かった。

終電間近でやってきたあなたは散々泣き腫らした不細工な顔で難しそうに笑っていて、なんて声をかければいいのかわからなかった。

行く当てなんかなかったから、しばらく二人乗りで街をふらついてはただ時間が過ぎるのを待った。
あなたは特に何も言わずに私の後ろに乗せられていて、私も特に何も聞かずに自転車を漕いでいた気がする。

気がしてたんだけど、
数年後のあなたによって当時の私は、花*花の「さよなら大好きな人」を熱唱していたという事実が告げられた。

いやはや、失恋した友達を後ろに乗せてとびきりの失恋ソングを歌う当時16の私をよく許してくれたわ。
18のあなたも馬鹿みたいに寛大だ。
そういえばそんな気がするよ。そんな気しかしないよ。
ハマってたもん、「さよなら大好きな人」。

まぁ別に、このエピソードが特別当時のわたしとあなたの可笑しさを表すものではないほどに、とにかくあの頃の私たちはそばに居た。
お互い早々に高校生活からドロップアウトしていたから、朝も昼も夜も関係なかったし、あの頃の私たちは多分、常になんとなくの不足感や疎外感を感じていて、夜に寝て朝に起きることが得意ではなかった。

だからほとんどの夜をあなたと過ごして、3時までやってるファミレスで時間を潰したら、次は5時までやってるファミレスに移動したりしながら、夜や朝を誤魔化すための浪費を繰り返していた。

優しい人は周りにたくさんいたけど、制服姿の同級生が駆けていく午前8時の虚しさはあなたとでなければきっと、誤魔化せなかった。

あれから7年たった。
あんまり会いたくない場所で、久々に会うことになった。

いや、定期的に会ってはいたけど、なぜか久々に会ったような気がするあなたは、ドラマや映画みたいなとびきりの不幸を背負いながら他人のために笑っていて、私の方が泣いてしまった。
やっぱりあの日と同じく、私はなんの言葉も浮かばなくて、気の利いた言葉なんて何もいえなかった。

あなたを心のままに泣かせてあげることもできず、笑わせてしまうくらいに私は無力だった。

何を言えば、何をすれば良かったんだろうってたくさん考えた結果、どうせ何もできやしないと23になった私は結論づけて、ちょっと堪えた。
あの頃と何も変わらず、わたしは無知で無力で全部足りない。
何もできない。

だけど、

もし私に出来ることがあるとするなら、

あの日みたくあなたの心の悲しみをぐちゃぐちゃに壊す無神経で数年後のあなたを笑わせることだと思う。

多分、気の利いた言葉を伝えてくれる人は他にいる。
だから私にできることはきっと、私たちらしくない言葉を並べることではない。

わたしはまだあなたを泣かせてあげられるほど、頼れる大人にはなれそうにないけど、超えられそうにない一夜くらいは、隣で浪費できる無神経な友人でいたい。

あなたは絶対変わんないでいてくれるから、私も変わらない。

今のあなたに合う音楽、練習して待ってるから、泣いたり笑ったりしながらなんやかんや生きててね、

私たちはこれからも悲しみや葛藤から逃げて逃げて、たくさんの現実逃避をしながら、なんとか生きていく。

あの頃をこれからも、ずっと続けていく。

それでいい。
多分、それがいい。

また会おうね。

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