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スズムシが鳴いたから秋


よく通った駅前の本屋が潰れて、100円ショップができた。
はじめは便利になるぞ。と嬉々としたが、
慣れてくると本屋の方が随分と風情も実用性もあってよかったのに。と思った。

本を買うのにわざわざ2つ3つ降りたい駅を通り過ぎなければいけないのが非常に愉快でない。

よく行く喫茶店の店主が、電子書籍の良さを私に語る。
私はレコードで音楽を聴くことを好む彼に、Apple Musicの素晴らしさを語ってやった。

何往復か"便利"の押し付け合いをした後に、"不便さ"の嗜み方を語り合った。

何が良いとか悪いとか、何が便利で不便だとか、そういった感覚的なあれこれに、誰かを迎合してあげる隙間は蚊ほどもない。

早いもので身を焦がす暑さも少しは優しくなり、スズムシが鳴いた。

無駄を落として身軽にならなきゃ辿り着けない場所もきっとある。
もうスズムシも鳴いた。

だけど、それだけじゃわたしはきっと満たされない。

2つ3つ余分に揺られる煩わしさすらも、
いつか嗜み方を覚えて、
きっとわたしを満たす不便となるんだ。

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