輪廻転生する男の話
男は目を覚ました。
しばらく視界がぼやけていたが、そのうちに周囲が明瞭になってきた。
「あ、そうか。さっき死んだんだ。」
男は、体をすっぽりと包んでいたポッドからゆっくりと外に出た。体がなまっていて動かすのがおっくうだが仕方がない。死後の目覚めはいつもこうだ。
男は身体をほぐすために休憩室へ向かった。向かう途中、何人もの人間と男はすれ違った。
途中で知っている女に会った。その女は笑みを見せて尋ねてきた。
「久しぶりですね!ざっと200年ぶりくらいでしょうか。今回は何点でしたか?」
男は答えた。
「今回は108000点でした。なかなか思ったようには点がとれませんね。」
その女はなるほど、というような表情を浮かべながらうなずくとこう言った。
「そうですか。私もなかなか点が取れなくて・・・。でも、そのうちにきっとうまくできるようになりますよ。お互いに頑張って高得点をとりましょうね。」
男は言った。
「もっと色々なことにチャレンジすれば高得点を取れたんでしょうね。ついつい、普通の生活でいいと思ってしまうのが自分の悪いところです。しかし、実際に人生を体験しているときには、チャレンジしようと思っても難しいんですよね。」
すると女はこう言った。
「ホントそうですよね。このゲームの難しいところはまさにその点ですよね。プレイするときに、自分の記憶が消去されていなければいいのですけど、でもそれが許されてしまうとゲームとしては面白くないですしね。」
確かにそのとおりだ。全てが仮想現実だと知っていたら、怖いものなどないのだから、もっと積極的に生きることができるだろう。しかし、それでは面白くないのだ。と男は思った。男は女に尋ねた。
「次のゲームを早速始めるのですか?」
女は言った。
「はい、今回は病気ですぐに死んでゲームオーバーになってしまったので、すぐにゲームに戻ります。今度はどの時代と場所になるのかちょっと不安ですね。毎回のことですが、ドキドキします。」
男は女に言った。
「そうですか。ではまたどこかでお会いしましょう。同じ時代でお会いするかもしれませんね。そのときはよろしくお願いします。といっても、お互いに分からないですけどね。」
そう言うと、女は微笑みをうかべ、去っていった。
男は自分の左腕にある腕時計に似た機器を眺めた。そこにある小さなモニターには、”35839”という数字が表示されている。その数字は、これまでに男が経験してきた人生の数と等しい。
さて、もう少し休んだらまたゲームに戻ることにしよう。
これだからこのゲームはやめられないのだ、と男は思った。
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