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こばなし
2024年5月4日 16:59
僕、好野陽太(よしの・ようた)には気になる人がいる。 同じクラスの女子生徒、猫目ゆる(ねこめ・ゆる)さんだ。 ホームルームでの席替えで、なんと…… 猫目さんと隣同士になってしまった!「にゃむにゃむ……」 窓際の席の彼女は、授業中だというのにスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。「……」 耳だけは先生にかたむけつつ、視線は寝ている彼女に向ける。 綺麗なショートボブの黒髪に、
2024年5月3日 23:02
ぱちぱちぱち、という打鍵音が放課後の部室に響く。「彼女は氷のように冷たい視線で……いや、違うな」 僕——山江和喜(やまえ・かずき)はノートPCのキーボードから指先を離した。「突き刺すような視線で……いや、ジト目で……うーん、そもそも……」 更には腕を組み、ひとりごとをブツブツと漏らしている。「は~、どう書けば伝わるのか全然わからん」 最後にはそう言って頭を抱えた。 そん
2024年5月2日 22:57
オレンジ色の景色の中、僕と愛奈美さんは並んで歩いている。「……」 僕はやたらと緊張してしまい、愛奈美さんに話しかけられずにいる。「あ、あのさ」 沈黙を破ったのは愛奈美さんだった。「さっきは助けてくれて、ありがとう」 彼女はぽつり、ぽつりと語り出した。「私ね、あんなふうに言ってたけど、本当はすっごく怖かったんだ。でも、博士くんの姿が見えた時、すっごく安心した……」
2024年5月1日 21:50
愛奈美さんとお昼を共にしてから数週間。 僕は夢のような日々を送っていた。「はー、今日も愛奈美さん、可愛かったなあ……」 あれから毎日のように、僕は愛奈美さんとお昼ご飯を食べた。 休み時間や登下校の際に話すことも増え、以前からすると明らかに距離が縮まっている。「っていうか今度の日曜日、何着ていこう?」 それというのも愛奈美さんとの約束で、週末に植物園に行くことになったのだ。
2024年4月30日 18:49
翌日の昼休み。 僕は八坂さんに声をかけられ、昼食の総菜パンを片手に中庭へと同行した。 僕らが向かったのは花壇を見渡せるベンチ。 そこへ、八坂さんは腰かける。「……森野くん、何してるの?」「え? あ、えっと、」 僕はどうしていいか分からずに、直立していた。「もー。遠慮しないで」 八坂さんはそんな僕を見かねて、ベンチの空いたスペースをぽんぽん叩き、着席をうながした。「じ
2024年4月29日 22:12
僕は森野博士(もりの・はかせ)。 虫が大好きな僕は、騒がしい休み時間の教室で、今日も今日とて昆虫に関しての参考書を読んでいる。「おいハカセ。今日も虫みたいな顔してんなー」 ニタニタとした笑い声に顔を上げると、クラスメイトの日野猛(ひの・たける)と、その取り巻きが絡んできた。「そんなに虫の本ばっか読んでると、虫になっちまうぞ?」「たまには俺らの遊び相手になってよ~」「そうだ、虫ご
2024年4月28日 22:00
「進捗どうですか、先生」「おかげさまで良い調子だよ。それはさておき、先生はできればやめて欲しいな」 ほぼ無遠慮に部屋へ上がり込んできた女性編集者に、僕は苦笑いを浮かべる。「将来有望な作家さんなんだから、今のうちから先生って呼んでもよくありませんか?」「まあ、そこまで言うなら勝手にしてくれ」 彼女の言動から圧力を感じた僕は、早々に抵抗を諦めた。 とある出版社の編集者である彼女
2024年4月27日 22:02
Netflixで映画を見終わった後、無性にむなしくなる。 感想を語り合う相手がいないだけで、こんなにも寂しくなるものだとは、思ってもみなかった。 ——久々にハニーラテでも飲むか 自嘲気味に笑いつつ、孤独感を紛らわせようとキッチンへ向かう。 食器棚には、かつて二つあったマグカップの、そのうちのひとつが寂しげにたたずんでいた。「……」 虚無感に襲われる前に、それを食器棚から取り出
2024年4月26日 22:40
——黄昏時には、まだ早いか 沈む夕日が見たくなり、ひとり、海辺へとやってきた。 のどに渇きを覚え、携帯した炭酸水を飲む。 しゅわり、しゅわりという泡の音が、喉の奥ではじけては消えていった。 それは波の音とリンクして、心地良く僕の鼓膜をゆらしてくれた。 ——波の音って、お母さんのおなかの中の音と一緒なんだって あの日そう語った君は、今、どこにいるのだろうか。 君との出会いは、
2024年4月25日 22:28
リビングにて。緊張の面持ちで、姿見の前に立つ。 ——うーん、こう、いや、こうか……? こうでもない、ああでもないと、髪型や服装をあれこれと試している。 今日は会社でのプレゼンが控えている。 好印象を与えるためにも、身だしなみには気をつかわなければならない。 ——分からんなぁ 迷ったあげく、客観的な評価が欲しくなった。「あのさ――」 と、声をあげたが、返ってくる声はな
2024年4月24日 22:03
久々に食うか、と足を運んだラーメン屋。 いらっしゃーせー、という元気のいい店員さんの声と、食欲を刺激するスープの香りが出迎えてくれた。 カウンターテーブルに通された僕は、さっそくオーダーを済ませる。 漬け物を食べながら待っていると、数分後には注文したラーメンが目の前に置かれた。「いただきます」 箸をとる前に手を合わせ、一緒に頼んでいたおろしにんにくをラーメンに投入していく。 —
2024年4月23日 22:23
冷蔵庫の中を見て、ため息をつく。 ——卵切らしちゃったな ぱたん、と扉を閉め、パーカーを羽織る。 玄関を出て、最寄りのスーパーまで歩いていく。 たんたんと、淡々と。 途中で信号に足止めされ、心の中で舌打ちをした。 青信号を待つ間、やることもなく街並みを眺める。 不意に、カラフルな外装のスイーツショップが目に入る。 君とよく通った、思い出の店だった。 ガラス張りの窓の向こうの
2024年4月22日 21:42
玄関口の靴を、じっと見つめる。 あの頃に買った、君と同じメーカーのランニングシューズだ。 見つめていると、走りに行くのもやめてしまおうかと思うほど、寂しい気持ちに襲われる。 ——家にいても一緒か 気持ちを振り切るようにして靴を履き、玄関を出た。 いつものコースを走り出す。 今日は休日、いつもより長めに走るとしよう。 思えばあの頃もそうしていた。「あっ、これとかよさげじゃない
2024年4月21日 15:18
徐々に明るみを帯びていく空。 透き通っていく半月。 明けの明星が、東の空できらきらきらと輝いている。「もうすぐじゃない?」「だね」 白んでいる水平線の向こうを見つめてささやいた。 つぶやくほどの声でも、意思疎通ができる距離で君と歩いている。 昨日よりも近くなったような、そんな距離感だった。 「良い空気。いつもこうならいいのに」 夜分に草木が浄化した空気を吸い込んで君が言