こばなし
これまでの作品。
たまに書くエッセイ。自分の考えたことや、体験談がメイン。
しばらくは玉石混合。
4話完結の短編小説です。
第1話「おおきくなったらケッコンしよう」 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか分からない。それ故に「どうしたの?」と聞かれても、「〇〇した」と答えられない。 母が聞いてくる。 「寂しいの? 痛いの? 悲しいの?」 そのどれにも当てはまらない気がして、首を横に振る。 「寂しい? 痛い? 悲しい?」 母の顔が徐々に焦りの色を帯びてくる。根気強く僕の気持ちを知ろうとしてくれているが
念願のフォロワー10万人を達成。 しかし、インプレ稼ぎでコメントをするやつらが増えた。 煩わしいことこの上ないので、試しに反応しなさそうな迷子犬に関しての呟きを投稿。 すると普段はコピペばかりのインプレゾンビどもがひたすら拡散。 結果として迷子犬は飼い主と再会。 どうやら腐っても人らしい。
〇〇世代ってよく言われる。 ゆとりだとか、「Z」だとか。 その呼び方に良いとか悪いとかの捉え方をくっつける人もいれば、善し悪し関係なく「特徴」としてそういう呼び方をする人もいる。 いずれにせよ、名付けられる側としては不自由に感じてしまう。 そもそも「呼び名」って、誰が考えるんだろうね。 僕らは大抵、自分から名乗れる自由とは縁遠い気がする。 名前は親に付けてもらうし、〇〇世代は大抵上の世代の人たちが付けるし、あだ名や蔑称、愛称に関しても他人が付ける場合
「最近冷たくない?」 「べつに」 「もしかして浮気?」 「そんなわけないだろ!」 「スマホいじってばっかじゃん」 「実はな……これを見てくれ」 彼が見せてきたスマホには、可愛い女性キャラが。 「何この子」 「最近ハマってるゲームの育成アイドル。めっちゃ可愛いだろ?」 「浮気じゃねーか!」
寄ろうだなんて、正常な頭では考えるはずもないのに。 帰り道、道路わきのコンビニに、惹かれる。 陽の落ちたうす暗闇にたたずむ光る箱。 飛んで陽にいる虫みたいにして、車たちが駐車場に吸い込まれていく。 仕事中、必死で浮かべていたうすっぺらな笑顔が、自動ドアに迎え入れられると同時に剥がれかける。 買うものは決まっている。 それなのに他にも買いたいものを探してしまっている。 ここには選ぶ自由がある。 必要なものだけしか買わないなんて、つまらないでしょう。 もう「そ
「いちばんかっこいい必殺技考えようぜ!」 「最強パンチ」 「クレイジーキック」 「う~ん、メガちんはどう?」 突然話をふられ、戸惑いつつもメガネの少年が言う。 「……エ、エンシェントヘルブレイズ」 「「「うおー、かっけえ!!!」」」 彼らの友情が、エターナルに続くことを祈ってやまない。
「あんたに何が分かるんだよッ!!!」 ……って、叫びたくなる時がある。 誰にも理解してもらえそうになく、誰かに伝えることもできないような心の傷を負った時だ。 いつまで経っても苦しい気がして、治る気配もみじんもない。 胸の中が痛くて痛くて仕方がない。 だけど「こういう感じで痛いです」って、言葉にすることも難しい。 誰かに話したら話したで、傷口を広げてしまいそうで怖い。 「大丈夫、そんなの誰だって経験してるよ」 ……なんて分かったようなことを言われた
俺……朝浦太陽(あさうら・たいよう)は、恋愛シミュレーションゲーム『AIのカタチ』ベータ版にテストプレイヤーとして参加していた。 「以上でチュートリアルは終了となります。お疲れさまでした♪」 そんな俺をねぎらうのは、ここまで案内してくれたいわゆるガイド役のキャラクター、早乙女瑠奈(さおとめ・るな)。 一応彼女は同じクラスの学級委員という設定ではあるのだが…… 俺にはどうも、腑に落ちないことがある。 「うーん……」 「太陽さん、お気に入りの女の子は見つかりまし
周囲には邪悪な気配が満ちている。 「見えてきたぞ。もうすぐ魔王城だ!」 「……」 そして、この場所を歩く俺たち二人の間にも険悪な空気が流れていた。 「おい、なに黙ってんだよ?」 「……別に」 となりを歩く彼女を見れば、『あんたなんか視界に入れたくもない』とでも言いたげにそっぽを向かれた。 (ほんと、なんでこんなに機嫌悪いんだ……?) 不機嫌丸出し中の魔法使いのユリカと勇者の俺アレクスは、魔王討伐のために冒険に挑んだ。 数々の危機をくぐり抜けてやっとこ
テスト返却後、休み時間の教室にて。 (ああ、ここミスってたかあ……) 僕は答案用紙を眺め、ため息をつく。 と、そこへ、前方から机に覆いかぶさるように影が差した。 「相川、テストどうだった~?」 からかうような声音に顔を上げれば、隣の席の女子生徒……『ざあ子』こと乙成唯花(おとなり・ゆいか)が腰に手を当て僕を見下ろしていた。 「私は90点だったけど。どーせ相川は私より下でしょ?」 「……」 「ふふん。言い返す言葉も無いのね? 相川のざあこざあこ♪」 ざ
行きつけのカフェ、『黒猫』は本日も盛況。 「今日もやってんなー」 歩道から眺める店内では、見慣れた女性店員がはつらつと動き回っている。 (新人だったころが懐かしいくらいだ) 彼女……結城(ゆうき)さんは数か月前『黒猫』にアルバイトとして入った大学生。 最初は表情も硬く接客もままならなかったが、今ではお客さんから大人気の看板娘である。 (いい笑顔だ) すっかり板についた彼女のスマイルに引き寄せられるように入店すると。 「いらっしゃいま――って、なんだ、浜
「こっちに来ないで!」 柵の向こうから大声を出すのは、一人の少女。 彼女の名は河野亜衣奈(かわの・あいな)。 僕、二ノ宮夢(にのみや・ゆめ)のクラスメイトである。 HR後、彼女の様子に違和感を覚えて後をつけたところ…… 屋上から飛び降りようとしている彼女を見つけてしまった。 「待ってくれ。話だけでも聞かせてくれないか?」 無理な説得は選択肢から除外。 まずは彼女の話を聞いてみよう。 「……笑わない?」 「もちろん。絶対に笑わないよ」 僕が固く誓う
「エリナ。悪いが君にはこの屋敷のメイドをやめてもらう」 我が主——アダム・マイヤーズ様の部屋にて。 私が告げられたのは解雇通達でした。 「解雇……ですか?」 「そうだ」 信じられません。 私は孤児だった幼少のころ、アダム様のお父上に拾われ、同年代のアダム様をお世話するように命を与えられました。 以来、愛情をもってお世話させて頂いていたというのに。 「私のご奉仕になにかご不満が?」 「いいや、僕からするとまったく問題ない」 「では、どうして――」
今日の更新はお休みいたします。明日こそ短編投稿します!
「航くんのこと、もう、お兄ちゃんって呼ばないから」 「……は?」 俺、西野航(にしの・わたる)は最愛の義妹——西野凪(にしの・なぎ)から突きつけられた言葉に困惑した。 凪は10年前、父の再婚によって家族になった二つ年下の女の子。 血のつながりは無いが幼少から生活を共にしており、目の中に入れても痛くないほどの……俺にとって大切な義妹。 そんな彼女の様子がここ最近おかしかったため、「ケーキでも食べないか?」とリビングに誘い込んだところ―― 告げられたのは「もうお兄
「あーもう。なんで幼馴染ばっかり負けちゃうのよ!!」 俺の部屋でマンガを読んでいた幼馴染——秋元凜々花(あきもと・りりか)は突然叫んだ。 「どうしたいきなり。負けない作品もあるだろ」 部屋の主である俺、城野春太(しろの・はるた)は眉をひそめつつ彼女をなだめようとする。 しかし凜々花の怒りはおさまらない。 「はるくんの紹介するラブコメ、全部幼馴染がフラれるじゃん!!」 「いや、それは紹介した中から君が選んだ作品が、たまたまそうなだけで――」 「もういい」 「いや、