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労働哀歌

仕事を辞めた。3年と11カ月務めていたらしい。結局、4年持たなかったが、割りと耐えた方だと思う。退職は人生の一大選択のうちに数えられるようだが、私としては、身の丈に合わない服をこの4年弱も着続けた結果、身体中の痒さが治まらなくなったため、一度全裸にならざるを得なかったぐらいの雑駁な感慨しかない。兎に角、痒いものは痒い。他人が痒いと感じているかどうかは関係ない。私の痒さは私にしか分からない。アレルギ

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写真よさようなら

わたしは写真が嫌いだ。いや、嫌いだったという表現に変えておこう。最近は少しずつ苦手意識を克服出来ているせいか、自分でもカメラを構えるようになったし、写真展にもたまに足を運べるようになったのだから。

振り返ってみると、どうしてわたしは写真が苦手だったのであろうか。写真を撮るのも、撮られるのも得意ではなかったが、どちらかというと自分が被写体になるのがめっぽう苦手であった。カメラを向けられると、なぜか

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誰かと共に暮らすということ

誰かと共に暮らすということ

コロナ禍で自室に引き籠る機会が増えたせいか、室内に置く多肉植物やサボテンの数がどんどん増えている。遂にコーデックスにも手を出した。太陽光が強い時間帯には植物たちをベランダで日光浴させ、夕方になると植物たちを暖かい室内に戻すという作業も、自分の日課の一部と化してきている。

おかげさまで、多肉植物の図鑑や雑誌を買い集め、植物たちの原産地を調べたり、栽培カレンダーに目を通しながら、植物たちと共に暮らす

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浴室闘争

浴室闘争

 甘く匂う闇のなかで、ヒカリゴケのように薄明るいマットレスに寝そべって誰かが来るのを待っていた。どこかしらに精液が染みているに違いない、いつ交換したのかもわからないマットレスに寝そべっていても僕は平気だった、というか、そんな不潔な闇の底に寝そべるだけのかすかなスリルのために入場料を払ってもいい。ヤれない日があっても別によかった。あの闇の不安に身体を浸すだけでいい。ぼくはそこに満ちる悪しきものを吸い

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『アンダー・ザ・シルバーレイク』

『アンダー・ザ・シルバーレイク』

はじめに:「信じるか信じないかはあなた次第です」 皆様、陰謀論はお好きであろうか。巷にはさまざまな類の陰謀論が溢れ返っている。国民は常に電磁波攻撃に晒されているとか、広告業界は広告に性的なイメージを刷り込むことによってぼくらの潜在意識を意図的に操作しているとか、金正恩には影武者が存在するとか、新型コロナはただの風邪であるとか、挙げればキリがなさそうなのでここらでやめておこう。

 世界に生じるあら

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いつかまた会えたら

いつかまた会えたら

 今日は7月23日。金子文子が獄中で死んだ日である。享年23歳であった。死の実情は不明だが、巷では自裁死とされることが多い。これは私の憶測にすぎないが、思うに、金子文子は「金子文子であること」に忠実なひとであっただろうから、きっと獄中でじぶんの命を飼い慣らされて死ぬなり殺されるなりするよりも、自裁死を選択したのではないか。
 自殺という言葉を、私はあまり好まない。じぶんを殺すと書いて、自殺である。

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『ホドロフスキーのサイコマジック』

『ホドロフスキーのサイコマジック』

 「明日は在宅勤務だし、せっかくなのでこれから映画でも観に行こうかと思ってたけど、都内のコロナ感染者数が急増し始めたからやっぱり観に行くの迷ってるんですよね」
 帰宅がてら、隣を歩く同期に話しかけてみた。口ではこう言ったが、実はちっとも迷っていなかった。頭の中には「映画を観に行く」という選択肢しかなかった。こうして徐々に社交辞令を吐くのが上達していくのだと思う。毎日臆面もなくウソを吐きながらカネを

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ふしだら上等

ふしだら上等

  もう2か所、ピアスを増やそうかと考えている。インナーコンクを開けることは既に決めているが、ヘリックスの位置で迷っている。既存のヘリックスの上に開けて二連にするか、フォワードヘリックスを開けるか――このどちらかにしようと考えているが、片方に選択肢を絞る決心が付かない。白状しよう。実は、職場でもピアスは付けたままだ。

  現在、私の耳には全部で7か所ホールが開いている。右に3つ、左に4つである。

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