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#同人誌
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
井塚義明の視点2
大音量で流行曲のミュージックビデオを映し出すユニカビジョンを見上げながら、深く吸い込んだポールモールの煙を吐き出す。紫煙は風にもまれて跡形もなく空に溶けた。少し前まであそこは空き地で、PePe前の喫煙所はもうちょっと開放感のある場所だったんだけどなぁ、と感傷に浸る。LABIが建って、ここは少し窮屈になった。以前からごちゃごちゃした迷路みたいな街だったけど、景観を切り取るように
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
小羽千尋の視点2
トッキーは一眼レフカメラのモニターを確認するときだけ、かっこよくなる。撮影中は周囲の通行人や被写体であるわたしにこれでもかと気を配るくせに、撮った写真を確認するときだけは画面に全神経を集中してしまうので、わたしが所定の位置を離れて一緒にモニターを覗き込んでいることにも気づかない。無防備な彼の、うん、と小さく呟く声を聞くのが好きだ。
「次の場所、行こうか」
大ガード下をぬ
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
鴇田重喜の視点2
心臓が小さく早鐘を打っている。先程の小羽の行動には、正直焦った。遂にバレたかと思ったが、小羽が一番好きな手の組み方をしてやったら、特に疑うこともなく身体を密着させてきた。ちょろい、ちょろ過ぎるぞ、小羽、と自分のことを棚に上げてタクシーに乗り込む。
これから向かう佐久間は新宿御苑の方角にあって、少し距離が離れていた。電車で行こうにも、帰宅ラッシュで鮨詰状態の電車に小羽を押し
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
小羽千尋の視点4
事件の後、同僚を殺害して実の娘にも手を掛けた父の行いは大きくニュースで取り上げられた。真相を確かめようと昼夜訪ねてくる報道関係の人間も少なくなかったし、それを理由に交友を絶交されたことだってある。当時のわたしは精神科のある病院に入院していて、面会は基本、助けてくれたトッキー以外とは絶対にしなかった。引き取ってくれるという親戚と会うにも、アルバイト先へ面接に行くにも、トッキーに
琳琅 創刊号より、「かんう」武村賢親
井塚義明の視点4
流れていく早稲田通りを見送ると、トンネルに入った電車の窓におれの丸い顔が映った。眉間には皺が寄り、酒を飲んだ帰りだというのに頬頭はまったく赤味を帯びていない。
明日も仕事があると言って逃げるように店を出て来たが、駅まで歩いて電車に乗っても、自分の言動の根拠に思い至らなかった。おれから伝えて欲しい、か。小羽はそんなこと一言も言っていないのに。最後、咄嗟に付け足してしまった言