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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。

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異世界ファンタジー作品: <ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜> 連載中(約10万字(文庫本一冊相当)で完結予…
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2023年7月の記事一覧

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十七話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十七話

「うーん。今日はお洗濯、しない方が良いでしょうか……」

 家の外。井戸の水で顔を洗って目を覚ましてから、空に昇った太陽を見上げ呟いた。
 天気のいい日もあれば、当然良くない日も存在する。最近は比較的天気がいい日が続いたが、今日は太陽に光の輪が掛かっている。

 たしかあれは昔、実家の領地に居た時にお母様が教えてくれた雨降りの前兆だった筈。
 今日も仕事で『ネィライ』に行く。その間に雨が降ってしま

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十六話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十六話

◆◆◆

 ――マイゼル様は、最近特に機嫌が悪い。
 使用人から影でそう言われている事は、俺自身よく知っている。

 が、仕方がないではないか。
 最近俺の周りでは、腹立たしい使用人の不手際が頻発に頻発を重ねているのだ。

「おいメイド! どうしてインク壺にちゃんとインクが入っていない!」
「し、しかしインクはちゃんと――」
「俺はインクが半分以下に減っているのは嫌なんだ! 貴様は一体何年俺に仕え

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十一話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十一話

 元来俺は、他人に従うのが嫌いだ。
 誰も俺たちの人生に責任を負ったりしない。そんな相手の言葉を信じるだなんて、馬鹿がすることである。

 だから別に、あの女の言う事なんて聞かなくていい筈だ。それなのに。

「ったく、変な女。何で一々指図されなきゃならねぇんだよ」

 何故か今俺は、家の前の井戸から水を組み上げては、ノインと交互に体にザバァッとやっている。

 俺だって、別に好きで泥だらけになった

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十二話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十二話

 お茶会に招かれて時間を潰すのは、貴族にとっては義務に近い。
 柔らかな日の光の下、紅茶の香りに鼻を擽られながら私は小さくため息を吐く。

「ザイスドート様?」

 すぐ隣から、綺麗に着飾った女が不思議そうに私を覗いた。
 綺麗なデコルテやほっそりとした腕も惜しげもなく晒しだした、フリルまみれの深紅のドレスを身に纏った女・レイチェルは、まるでバラの精のようだ。
 しっかりとした目鼻立ちとそれを際立

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十三話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十三話

 陽光が差し込む布屋『ネィライ』の店内で、店内の美化活動に勤しんでいた。

 壁一面に並ぶこげ茶色の棚から一段分、商品を傷めないように注意しながら布束を引き抜く。空いた棚には雑巾を掛け、うっすらと積もっていた埃を拭きとって、布束の方にははたきを掛けて、再び棚へと戻す。その作業の繰り返しだ。
 しかしそれが意外と大変。一束の布は意外と重く、出し入れするだけで重労働だ。
 が、だからこそやりがいもある

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十四話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十四話

 布屋『ネィライ』は、こういうのも何だけれども、それ程お客様が多いお店ではなかった。しかしここ数日は客足が多い。

「ありがとうございました」

 笑顔でお客様を、また一人送り出す。
 カランカランとドアベルがお客様の退出を知らせ、パタンとゆっくり扉が閉まった。音が消えて数秒後、誰も居なくなった室内でやっと私は「ふぅ」と息を吐く。

 会計カウンターには、記入済みの財布カバーの注文票と幾らかのお金

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十五話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十五話

 二人が店番を代わってくれるようになってからは店頭での私の拘束時間はかなり減った方だけれど、私がすべき事もある。
 流石に商品の陳列や掃除までは、今も私の仕事になっている。
 朝に店に来て早々に済ませる仕事なのだが、この時間は仕入れなどの裏方仕事を主にしているバイグルフさんもよく手伝ってくれるので、二人で話す時間がある。

「大変だろう? あいつらの世話をするってのは」

 昨日仕入れたばかりの布

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