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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。

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異世界ファンタジー作品: <ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜> 連載中(約10万字(文庫本一冊相当)で完結予… もっと読む
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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第一話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第一話

【あらすじ】
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家からも追い出された伯爵夫人・フィーリア。
 なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていた彼女は、目的地も希望も生きる理由さえ見失いかけた時に、二人の貧民の男の子たちと出会う。

 言葉汚く直情的だけど、何だかんだで面倒見がいい、ディーダ。
 喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家、ノイン。
 
 環境のせいでスレてい

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十七話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十七話

「うーん。今日はお洗濯、しない方が良いでしょうか……」

 家の外。井戸の水で顔を洗って目を覚ましてから、空に昇った太陽を見上げ呟いた。
 天気のいい日もあれば、当然良くない日も存在する。最近は比較的天気がいい日が続いたが、今日は太陽に光の輪が掛かっている。

 たしかあれは昔、実家の領地に居た時にお母様が教えてくれた雨降りの前兆だった筈。
 今日も仕事で『ネィライ』に行く。その間に雨が降ってしま

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十六話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十六話

◆◆◆

 ――マイゼル様は、最近特に機嫌が悪い。
 使用人から影でそう言われている事は、俺自身よく知っている。

 が、仕方がないではないか。
 最近俺の周りでは、腹立たしい使用人の不手際が頻発に頻発を重ねているのだ。

「おいメイド! どうしてインク壺にちゃんとインクが入っていない!」
「し、しかしインクはちゃんと――」
「俺はインクが半分以下に減っているのは嫌なんだ! 貴様は一体何年俺に仕え

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第二話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第二話

 ◆

 多少のお金はあるにしても、この街の事などまったく知らない。
 思えば嫁いで来て以降、仕事で忙しかったザイスドート様から「一緒に街に降りよう」と言われた事はなかったし、私自身も特に街に対して興味を抱いた事が無かった。
 その程度の私だから、当然どこに行けば食べ物が買えるのかも知らない。結局二人に案内されるままにお店に入り、彼らが欲しいという物を三人分購入した。

 そうして連れて来られたの

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第三話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第三話

<一方その頃 ~レイチェル・ドゥルズは嘲笑う~>

 暖色のシャンデリアの光に、温かな室内の下。窓の外で雨音がザーッと降り荒んでいる音を聞きながら、ソファーに座りうつらうつらとしているザイスドート様を眺めて、私は一人ほくそ笑んだ。

 欲しいものは、自らの力で手に入れなければね。

 三年越しの努力が実を結んだ今日、独占欲が満たされて実に心地よい。

 彼と初めて会ったのは、私がまだレイチェル・リ

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第四話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第四話

 差し込む朝日に促されて、ゆっくりと瞼を上げた。
 一瞬ここはどこだっけと考え、あぁそうだと思い出す。
 薄い板の壁で囲われた、見渡せるほどしかない広さの建物。あの子どもたちが雨宿りに貸してくれた住処だ。

 辺りを見回せば、暖炉の火はすでに消えて久しいようだった。少し離れた床には少年たちがそれぞれ無造作に転がっており、スースーとわずかに寝息を立てている。

 二人とも、昨日の服装のまま何を上に羽

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第五話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第五話

「別に必要ないだろ、キッチンの掃除なんて。どうせ誰も使わないんだし」
「自分たちで料理を作ったりは?」
「しねぇよそんなの、出来ねぇし。周りからくすねてきたのをそのまま食べる方が楽だろうが」

 言われてみれば、たしかにそうだ。しかし、料理しないと食べられないようなものはどうするのか。
 もしそういうものは頂いてくる対象から外すのだとしたら、少し栄養が偏りそうだ。少し、彼らの体調が心配になってくる

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第六話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第六話

◆第二章:人見知りな伯爵夫人は、平民街の温かさを知る。

 習慣とは怖いものである。
 屋敷に居た時はいつもザイスドート様たちの起床時間よりも、二時間早く起きるという使用人同然の生活だった。
 それがもう、すっかり体に染みついてしまっている。

 ここに住まわせてもらい始めてもう一週間の時が経ったが、朝、二人よりも少し早く目を覚まし起こさないようにこっそりと顔を洗いに外に出るのは、最早私の日課と言

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第七話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第七話

 私が知っている街といえば、王都の他には私の実家があった旧子爵領くらいなものである。

 当主だった両親と次期当主だった弟が纏めて馬車の事故に遭って他界した際に他の方に統治が引き渡されて、今はもう男爵領になっている筈の場所だ。
 あれから少しは様相も変わっているかもしれないけれど、おそらくあののどかな風景は今も健在だろう。

 旧子爵領は、ゆるやかな時間の流れが心地よい、おおらかな気質の領民が多い

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第八話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第八話

 自炊道具を買った私たちが次に向かったのは、食料品を売っている店が立ち並ぶエリアだった。

 店があったのは、調理済みの物を売っている店――いい匂いが誘惑してくるエリアを抜けた先だ。
 野菜、果物、肉に穀物。それぞれに扱うものが違う店が立ち並んでいる。見てみれば、例えば同じ野菜の店であっても取り扱っている品目が違うようだ。
 野菜が売っている所を見るのが初めてだった事も相まって、物珍しさを抱きなが

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第九話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第九話

 案内された先にあったのは、赤い屋根の木造りの家だった。
 屋根の下に掲げられている『ネェライ』と書かれた看板は、随分と年季が入っている。
 両手が食材で塞がっているディーダが、半ば体当たりで扉を押し開いた。
 カランカランとドアベルが鳴り、店内の様子が少し見える。

 室内は、日の光だけに頼っているため外と比べて少し暗い。ぐるりと見回せるほどの広さしかない店内には、お客さんどころか見える範囲に店

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十話

 手の届かない所にある布は、彼に声をかけ取ってもらった。すると彼に「もう選んだのか?」と驚かれる。

「自分で作ろうって場合、普通はもうちょっと悩むもんなんだがなぁ」
「そうなのですか?」
「まぁ誰だって生地を無駄にはしたくないだろうし。特に色は、ああでもないこうでもないって大体いくつも手に取って悩む」

 きっとそれが、彼の経験則という事なのだろう。
 そうしたい気持ちは少し分かる。もし自分のた

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十一話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十一話

 元来俺は、他人に従うのが嫌いだ。
 誰も俺たちの人生に責任を負ったりしない。そんな相手の言葉を信じるだなんて、馬鹿がすることである。

 だから別に、あの女の言う事なんて聞かなくていい筈だ。それなのに。

「ったく、変な女。何で一々指図されなきゃならねぇんだよ」

 何故か今俺は、家の前の井戸から水を組み上げては、ノインと交互に体にザバァッとやっている。

 俺だって、別に好きで泥だらけになった

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ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十二話

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。〜世間知らずの夢の成就は、屋敷ではなく平民街で〜 第十二話

 お茶会に招かれて時間を潰すのは、貴族にとっては義務に近い。
 柔らかな日の光の下、紅茶の香りに鼻を擽られながら私は小さくため息を吐く。

「ザイスドート様?」

 すぐ隣から、綺麗に着飾った女が不思議そうに私を覗いた。
 綺麗なデコルテやほっそりとした腕も惜しげもなく晒しだした、フリルまみれの深紅のドレスを身に纏った女・レイチェルは、まるでバラの精のようだ。
 しっかりとした目鼻立ちとそれを際立

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