見出し画像

アルケミスト〜僕の星は誰にも奪えない〜#7.5

第七話後半〜ひとつの青い照明〜

【七枚目のカード・不明】

アンスール教授は壇の上でにこやかに、そして力強く話し始めた。


私は、ユング心理学とは詩人の心の中にいつも在るもの。そんな風に捉えています。例えとして、宮沢賢治の「春と修羅・序」の冒頭を振り返ってみましょう。

【春と修羅・序】 宮沢賢治

「わたくしといふ現象は
 仮定された有機交流電燈の
 ひとつの青い照明です」

「風景やみんなといっしょに
 せはしくせはしく明滅しながら
 いかにもたしかにともりつづける
 因果交流電燈の
 ひとつの青い照明です」

【春と修羅・序/宮沢賢治 出典】

わたくしはひとつ、そのひとつひとつが合わさってみんなになり、みんなでひとつの青い照明になる。わたくしはみんなであり、みんなはわたくし。わたくしの心とみんなの心は因果交流電燈として通じ合い、みんなの心とわたくしはいつでも繋がり合っている。
この宮沢賢治の考え方は、ユング心理学の普遍的無意識の考え方と全く一致しているのです。

例を挙げていきましょう。
時代を反映する流行歌の中で最もヒットする歌は何かご存知ですか?

それは、エモーショナルな哀しい歌です。特に失恋の歌がヒットし易いのは、何故でしょう。

「その」失恋の歌は
「私の」失恋の歌ではないのに、
涙が溢れ心が揺さぶられる。

つまり普遍的無意識は我々のとても近いところに在る、こういうことなのです。

人とは自分とは関係のないものに関係を見出す生き物です。それを「共時性(シンクロニシティ)」と呼びます。一番分かり易いのが占いです。その出たカードやシンボルは、現実世界の結果とも因果とも一切関係がないはずですね。

でも、何故か言い当てることが不思議なことによくあるのです。

この偶然を、偶然には思えず意味を見出してしまうことを「共時性(シンクロニシティ)」とユングは名付けました。では、なぜ人は占いを頼ってしまうのでしょう。それは、人の心の中や未来を見てみたいと切に願うのご人間だからです。

実はその願いを叶えてくれるのがユング心理学、それこそが「錬金術(アルケミー)」なのです!

現代の科学の進歩は目覚ましく、今となっては全ての物質を黄金に変えるいわゆる錬金化(アルケミー化)は可能となっています。しかし、ユングの時代はそうではありませんでした。

だからユングはそれを、人の心が他の人の心を完全に理解しようとする苦労だと受け止めたのです。

どういう事なのか、詳しく見ていきましょう。
ユングの時代、錬金術は不可能とされていました。その時代は何か魔術めいたものとして闇に葬られた学問だったのです。錬金化(アルケミー化)をする時、その化学変化を起こすためにはその過程に触媒(仲立ち)が必要ですよね。その際に例えば蒸留器の中に、悪魔や怪物が現れるだとか、確かに科学が乏しければ不可能だと思われることでしょう。

ユングは「不可能」だということを前提に、「人の心の研究」を「物質的研究」に例えたもの。つまり「古代の科学」ではないのだ。「古代の心理学」なのだ。と説いた訳なのです。

つまり「錬金化(アルケミー化)」の最大の難点はその触媒(仲立ち)を造り出すこと。その苦労をユングは「人の心が他の人の心を完全に理解しようとする苦労」と説きました。

意識と無意識がひとつになって「完全なもの」になった姿を表しているのだと説いたのです。

その「完全なもの」それこそが「ひとつの青い照明」なのです。

心に夜が訪れた時、トンネルの中にいる時、いつも照らして私たちを安心させてくれる存在、それが「普遍的無意識」という「ひとつの青い照明」なのです。今日はここまで。ユングと宮沢賢治についての講義を終わります。

拍手がその部屋を包み込んだ。そもそも僕らは僕ら自身の心が判らなくて泣いたりわめいたりする。

お互いのことを本当の意味で判り合えた時、僕らは本当に変容(アルケミー)するのかもしれない。


〜次回〜
最終話
#8「心で見た宇宙」
お楽しみに!


PS
皆さま、
お休み頂きましたこと、感謝致します。

無事に初七日も終え、納骨も済み、
やっと元気が出てきました。

母はまだまだ泣いておりますが、
私はいつも祖父が側にいる感覚を覚え、
いつも話しかけております。

次回で最終話です。短かったような、
少し長かったような、、
是非最終話をお楽しみにしていて下さい!
それでは、19日にお逢いしましょう♪

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?