【対談vol. 3】期中管理で電気をつくる!~発電所の台風対策について~
こんにちは!「再エネのアセットマネジメント」noteで管理人を担当しているオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント(以下、OREM)です。
このnoteでは、さまざまな課題が露呈している太陽光発電事業の期中管理において、これまでトライ&エラーを積み重ねてきたOREMが発電量向上に資するノウハウを皆さまと共有し
環境ダメージを与えて開発したからこそ、最良の状態で活用し続けたい
エネルギー自給率の低い日本の電気を最適な期中管理で増やしていきたい
という想いで、再エネのアセットマネジメントにおける理想を、普及啓発しています。
このnoteでの普及啓発と、最適な管理体制で自然と共存し、発電ロスを抑制する取り組みが、環境に優しいクリーンエネルギーの普及促進に寄与することが私たちの本望です。
↓ 期中管理の基本的な考え方については初回の記事を参照ください。
9月も後半になりますが、この時期は1年の中で最も台風が上陸しやすく、全国各地で被害が相次ぐ時期です。
そこで今回は、東芝三菱電機産業システム株式会社(TMEIC)をゲストにお迎えし、発電所の台風対策についてお話を伺います!
はじめに
まずはじめに、少しでも関心をお寄せいただいている方に、本記事を読み進めていただけるよう、専門用語を補足しますので参考にご覧ください。
自然災害による発電所の被害
地形や気候の特徴から、自然災害の多い日本において、梅雨や台風、集中豪雨などの影響は避けられません。特に台風が発電設備に及ぼす影響は大きく、甚大な被害をもたらす可能性があるため注意が必要です。
<被害の一例>
設備故障による停電や売電ロス
故障部材交換などによるコスト発生
アレイやパネルの飛散
敷地外への泥水流出
土壌の洗堀や浸食、地盤沈下
斜面や法面(のりめん)の崩壊
近隣への二次被害 など
残念ながら自然の脅威には逆らえないため、発電事業者は、自然災害によって起こりうる最悪の事態を想定し「被害を最小限に抑えるための対策」や「トラブル発生時の対応方法」について把握し準備する必要があります。
開発段階の発電所であれば、可能な限りリスクに備えておくことが望ましく、運転を開始した既設発電所であれば、現状のオペレーションや契約内容の見直しが有効です。
全国各地で発電所のO&Mを受託しているOREMのO&M受託サービスでは、台風や地震などの緊急時には現地へ駆け付け、被害状況の確認・対応・報告をしています。
私たちは、このような体制構築と運用により、いち早く発電事業主さまの設備状況の把握に努めることで、ダウンタイムの短縮と、発電ロスの低減を実現しています。
PCS周辺の典型的なトラブル
しかしながら、屋外に設置されている太陽光発電設備は自然災害に関わらず、外的要因によるさまざまな影響を受けやすく、正しい知識と対応が求められます。
そこで今回は、FIT開始後の約10年間、さまざまなノウハウを蓄積されてきたTMEICさまに、発電所の台風対策についてご意見をお伺いしていきます!
TMEIC:台風によるトラブル要因は「雷」と「水害」が主です。
雷によるトラブルには「直撃雷」と「誘導雷」といった、雷そのものによる機器の破損や、雷光によるPCSの保護動作が挙げられます。
また、水害によるトラブルとしては、洪水による機器の浸水や、土砂崩れによる機器の損壊などが挙げられます。
雷によるトラブルとその対策
TMEIC:雷による影響は「直撃雷」と「誘導雷」に分類されます。
「直撃雷」は文字通り、太陽光発電システムなど対象そのものに直接雷が落ちてしまうことを指し、発電設備を破壊したり、火災を引き起こすなど、大きな影響を与えます。
一方で「誘導雷」は、雷が大地との間で放電し、雷によるエネルギーが電線に新たな電流を流そうとする現象を指します。例えば、発電所の外にある送電線や発電所内の機器接地線などに落雷の影響が伝わることで、発電設備に定格を大きく超える電圧がかかってしまい、発電設備が破損するなどの影響を与えます。
OREM:これらの影響を少しでも防ぐ方法はありますか?
TMEIC:はい。「直撃雷」に関しては、開発段階で地上から設備の高さを低く設計することによって、ほぼ回避できるものです。
そもそも風力発電所の風車などに比べて、地上高が低い太陽光発電所への落雷は、ほとんど例がないため、めったに影響しないと言えるでしょう。
ただし、山間部など落雷の影響が懸念されるエリアでは「避雷針」や「避雷導体」を太陽光パネルの周囲に配置するなどの対策が有効です。
TMEIC:一方の「誘導雷」については、近くにある送電線(架空地線)や地面への落雷によって、発電設備が地面に接地している部分の電位(基準点と比べたある点の電圧)が上昇して、各機器の対地電位に差ができたり、電路への電磁誘導された電位によって、PCSなどの発電設備内の主回路(機器内の主要な回路)に、過渡的な異常高電圧であるサージが誘引されることがあります。
そのため、発電設備内の機器、電路の絶縁を破壊し、損傷させるといった被害が想定されます。また、誘導雷による故障の場合、外観は損傷がなくても機器の内部部品が損傷していることがあり、故障個所の特定や修理が困難となります。
OREM:故障した際、ダウンタイムを短縮する方法はありますか?
TMEIC:はい。TMEICでは、保護装置が動作した100ms前後の電圧や、電流波形をメモリーカードに保存することで、侵入したサージエネルギー量を把握でき、故障した部品を短時間で特定できるようにすることで、復旧時間を短縮しています。
OREM:そのほかに、誘導雷による影響を抑制する方法はありますか?
TMEIC:はい。誘導雷の対策としては、接続箱や高圧(特高)連系盤、PCSに侵入する誘導雷サージに対応した「避雷器」を搭載することが一般的です。
TMEIC:避雷器は、ある一定以上の電圧がかかると短絡・接地する仕組みによって、発電設備の損傷を防ぐものです。
また、光ケーブルには誘導雷サージが混入しない特性がありますので、屋外の通信回路の配線は光ケーブルにすると信頼性が高まります。
TMEIC:TMEICのPV-PCSは、事故時の電流を検知し、被害を最小限に抑えるよう保護機能が働くようになっています。
夜間に雷光が発生すると、太陽光パネルはごく短時間その光で発電し、突入電流がPCSに流れ込みます。それが故障・事故時の電流値以上であると、PV-PCSは保護のため「直流過電流」というアラームを出して停止することがあります。
その際の発電エネルギー量が、PV-PCSに悪影響を及ぼすものではなかった場合、リセットして再起動することができます。
TMEIC:ただし「直流過電流」のアラームは機器故障時、直流回路の短絡事故時に検知することもあり、安易にリセットすると雷光が原因ではなかった場合に故障が拡大することもあります。
故障が発生した時の時刻や天気のほか、TMEICのコールセンターにご相談いただいた上で、リセット・再起動操作を行うことをおすすめします。
水害で被災した場合の注意事項
太陽光発電所は、地上から設備の高さが低く設計されていることが多い分、台風による被害を受けやすく、危険性が高いのが「水害」です。
特に、発電設備が水に濡れたり、PV-PCSが浸水すると、直流回路が短絡状態となる可能性があり、太陽光パネルが活線状態の場合は、短絡電流が流れることでショートし、発熱や感電の要因となります。
TMEIC:太陽光パネルは一般的な発電機と違い、停電しても日光がある限り発電を続けるため、浸水した状況で対策を実施せずに設備に接近、接触すると、感電の恐れがあります。
取扱いに当たっては安全のための感電対策(ゴム手袋、ゴム長靴の使用等)を行うとともに、PV-PCSの遮断器の解列を推奨します。
水害後のPV-PCSの扱いについては、お買い上げの販売店、もしくはメーカーにご相談ください。
TMEIC:PV-PCSは高さがありますので、機器すべてが水没することは稀で、一部が浸水することが多いです。
このような場合に「浸水した部品だけを取り換えて修理できるか」というご質問を受けることがありますが、残念ながらほぼ再利用はできません。
理由としては、PV-PCSの下部に、IGBT素子という心臓部品が配置されていることに加え、浸水後の高湿度により、浸水しなかった部品にも相当のダメージが加わっているためです。
また、PV-PCSに浸水がなかった場合も、下部ピットに水が残っていた場合、そこから蒸発した水分がPV-PCS内部に入り、錆や絶縁劣化の原因となる場合があります。
発電所に洪水などの被害があった場合は、ピットの水抜きや、PV-PCSの配線部の封止の確認などを徹底、実施してください。
OREM:最後に、再エネ業界にむけてメッセージをお願いします!
TMEIC:日本は自然災害が多く、地域を問わず台風による被害が起きるリスクがあるので、日頃からの備えや定期的なメンテナンスをおすすめします。
雷対策としては、適切な設計と処置で防げる場合がありますので、設計の見直しや、避雷器を設置するなど、ご検討ください。
また、水害被害の場合、設備の浸水有無に関わらず、再利用が難しいケースがほとんどですが、復旧作業など設備に接近、接触する場合は安全のための感電対策を徹底してください。
そのほかに土砂崩れなどのリスクもありますので、地域との共生が求められる太陽光発電所においては、土木メンテナンスにも留意が必要です。
↓ 土木メンテナンスについてはこちらの対談記事を参照ください。
対談を終えて
自然災害などの外的要因をコントロールすることはできませんが、突発的なトラブルを想定し、リスクが顕在化する前に対策を講じておくことはできます。
特に、太陽光発電所においては、雷や水害による被害が多く、影響の範囲も大きいため、日頃からトラブル発生時の体制を整えておくことが、発電停止などダウンタイムの短縮、被害を最小限に留めることにつながります。
また、トラブル対応時には危険が伴いますので、メーカーなど専門的な知識を有する先へ速やかに連携しましょう。
そのほか、作業者の安全を確保するためにも、感電などを防ぐ保護具の用意、それらのメンテナンスが行き届いているかなど、台風到来の前に備えておけるといいですね。
おわりに
今回の記事はいかがだったでしょうか?今後も発電所の事業運営に役立つ話題をお届けし、再エネに携わる皆さまと共に、産業を盛り上げていければと思います!
次回、10月はオーナンバ株式会社さまをゲストにお迎えする予定です。
お楽しみに!!!
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