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最高に楽しいリトル・ハバナ!【マイアミ】旅の私小説「喜悦旅游」#34
盛田さんには、長年の夢があった。それは、キューバに行くことだ。
ラムや葉巻、そしてブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ...彼の憧れが、キューバには詰まっている。マイアミはキューバの対岸とも言える場所で、それゆえに移民が多い。今回の旅で、「せっかく世界一周旅行券ならば、短期間でもキューバに寄れないかな?」と彼は期待していた。
しかし、この夢は現在、叶うことが難しいと分かった。
2021年
ハリケーン「ミルトン」直前、ギャラリーを訪れる【マイアミ】旅の私小説「喜悦旅游」#34
到着するなり、ハリケーンや空港封鎖など、まあまあ濃い体験をすることになったマイアミだが、そもそもの目的は「GALERIA AZUR MIAMI」を訪れることだった。
旅の相方、盛田諭史の2作品が、同会場で開催中の現代美術展「ACT5」に展示されている。ギャラリーでキュレーターにお目にかかり、色々なお話を伺おうとしていた。
約束の時間に、ギャラリーに向かう。すると、男性が迎えてくれた。あれ
空港で不審物事件に遭遇【マイアミ】旅の私小説「喜悦旅游」#33
マイアミに到着すると、空港は何やら物々しい雰囲気だった。
わたしたちは荷物を機内持ち込みにしていたので、そのままタクシー乗り場に向かった。
途中、バゲージクレーム(荷物受け取り所)付近にさしかかると、異様な人混みとなっている。「到着便が多いのかな」と思って、特に気に求めず進もうとすると、突然警官に「ここに入ってきてはいけない!あちらの道に行きなさい!」と止められた。
突然のことで戸惑っ
ハリケーンの前の静けさ【シカゴ】旅の私小説「喜悦旅游」#32
シカゴ行きの飛行機で、発酵学者小泉武夫先生の「食あれば楽あり」を読む。小泉先生は、別名「味覚人飛行物体」と呼ばれているそうで、世界中の美味しいものや食文化を追っている。その豪快な食べっぷり、旅っぷりが面白く、旅のお供に最適な本なのだ。
徒然に読んでいたら、ハッとする部分があった。旅先でうまいイカを勧められた小泉先生が、
「遠慮など自分には似合わない」と言って、イカを平らげる話。
自分の喜
旅の匂い【羽田空港】旅の私小説「喜悦旅游」#31
2024年10月7日早朝、わたしは羽田空港第三ターミナルに着いた。この日から、世界一周が始まる。
世界一周といっても、主な目的地はアメリカ、スペイン、イタリアに絞られている。各国で行われている、Raymma盛田諭史の展示を訪問することが今回の旅の目的で、あくまで「世界一周旅行券を利用する」という意味においての、世界一周だった。
直前までわたしたちは鳥取県の大山町に滞在、イトナミダイセン藝
旅の道連れ、世界一周へ|旅の私小説「喜悦旅游」#30
2024年5月。モントリオールから帰って数週間経たないうちに、わたしと盛田さんは怒涛の流れに巻き込まれることになった。
3月末に美容師を辞めたばかりの盛田さんに、その頃怒涛のオファーが来て、初の展示がイタリアのヴェネツィアで行われることとなった。さらにオファーは重なり、イタリアの展示初日と同日にアメリカ・NYのタイムズスクエアビジョンへの投影が決まり、どういうわけかロンドンのギャラリーにも全
楽屋というタイムマシン【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#29
2024年4月26日土曜日。朝から、再びモン・ロワイヤルの稽古場に行く。Bagel Burlesque Expoの本番を前にして、ホリーと最終的な稽古だ。
稽古場に着くと、ホリーはすでにロビーにいた。
「コーヒーでも買いに行く?」
「いいね。」
街角のコーヒーショップは、朝早くから賑わっている。テイクアウトでそれぞれのコーヒーを頼み、稽古場に戻ってコーヒーブレイク兼打ち合わせ。お互
ビューティーズでベーグルを。【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#28
2024年4月25日。
朝早く、モン・ロワイヤル地区の稽古場に向かう。今日は、ホリー(Holly Gautier-Frankel)と稽古だ。
来るBagel Burlesque Expoで、わたしは英語のMC、彼女はフランス語のMCを務める。モントリオールは基本的にフランス語圏なので、ショーの司会はバイリンガルが基本だ。
わたしとホリーは、2007に日本で出会った。彼女が出演した舞台に
プーティンは絶対だよ!【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#27
気がつけば夕方になっていた。
今夜は、Bagel Burlesque Expoの主催者、ルルとパートナーのステファン、そして日本人ダンサーのメカブちゃんと夕食を取ることになっている。
急いで滞在先に戻り、彼らと合流してプラトー・モンロワイヤル方面に向かう。
今日食べに行くのは、モントリオール名物のプーティン。
プーティンは、フライドポテトにチーズとグレイビーソースをかけたもの。
St.Henriのアイスラテ【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#26
市場に背を向け、とりあえずサン・ヘンリー方面に向けて歩き出す。
しばし歩くと、グリーンスポットが見えてきた。
昔ながらのダイナーで、ターキーサンドにグレービーソースがたっぷりかかったものが名物。グリーンピースが2、3個上に乗っていたっけ。
そうそう、ここ、ここ。ショーの後、近所のジャズメンや踊り子と、夜遅くにちょっとジャンクなものを食べたりしていた。そういうのに丁度いい店だった。
地ビールとピザ【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#25
2024年4月23日、カナダ到着翌日。
時差ボケもなく、快適な目覚めで調子が良い。滞在している場所の近所を散歩しようということになり、盛田さんと旧港(オールド・ポート)方面に向かう。
まず向かったのは、ノートルダム大聖堂。外側は修理中だったが、見学する分には問題無かった。
続いて石畳の街並みをブラブラする。
天気は快晴、少し肌寒いものの、散歩にはちょうど良い。
ここはモントリ
夜風とスモークミート【モントリオール】旅の私小説「喜悦旅游」#24
カナダの春は、4月に入ってもまだまだ寒い。
数日前は吹雪だったせいなのか、はたまた人通りがまばらだからなのか。夜の坂道は、なんとも寂しい風情。
数時間前空港に着いた時、迎えに来てくれた友人たちが「コロナ前後で街の様子は大きく変わったよ」と言っていたが、確かに想像よりもはるかに静かだ。
滞在先で少し休憩し、小腹が空いたので散歩がてら夕食に出ようとしているが、かれこれ小一時間、めぼしい店
旅の合間に|旅の私小説「喜悦旅游」#23
私の街で桜が開花した朝、盛田さんからメールが届いた。
「丸18年分を1週間で片付けたよ」
盛田さんは、北鎌倉で営んでいた美容室「盛田」を閉めた。絶え間なく盛業であり、予約の取れない繁盛店だった。繁盛店の後にお店が入ると、とても縁起がいいと聞く。同店の跡地に開業される方も決まっているというが、幸先の良いスタートを切ることができるだろう。
しかし、普通こんなことが起こり得るだろうか。全て
石段の子ヤギ【宮古島】旅の私小説「喜悦旅游」#22 宮古島
宮古島の海は、なんとも形容しがたい青だ。
この青が呼んだのか、わたしたちは半年の間に3回も、ここに来てしまった。
いつでも宮古島の旅は、突然決まる。それでいて必然としか言いようのないできごとが毎回あり、その後のわたしたちの展開は、大きく変わっていく。
「運命を切り替えるような磁場が、この島にはあるのかも知れないな」
来間島の険しい石段を見下ろして、わたしは、ひとりつぶやいた。