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代替肉先進国?フィンランド:サステナブルな食に強み

'Plant-based food / meat'
日本では「代替肉」や「プラントベースドミート」、「フェイクミート」、「植物性食品」、「代替プロテイン」など様々な訳され方があり、まだ呼ばれ方は統一されていないようです。

世界における市場規模は2022年にUS$10.9 billion(約1.5兆円)で、今後毎年平均12.2%での成長が見込まれています。
高い成長率の背景はシンプルで、国連によるSDGsの達成や気温上昇1.5度以内の約束を果たすために環境負荷の高い肉の消費を減らす動き、コロナやロシアのウクライナ侵攻による食料システムへの影響、さらには世界的な人口増による食不足の解決策としてPlant-based foodが注目を浴びているためです。

本文では北欧フィンランドがいかに本分野で先駆者であり、且つ、実証実験のマーケットとしていかに優れているかを北欧最大級の研究機関であるVTT(フィンランド国立技術研究センター)で本分野の研究をリードするNesli Sözer博士に直接お話をお伺いする大変貴重な機会を得たので、その内容を紹介します。

Dr. Nesli Sözer
Research Professor in Smart and Sustainable Food Production at VTT
出典:VTT

なお、本noteでは北欧企業の紹介が中心となりますが、北欧企業が直面している市場・環境についてその概況にまず触れておくことで、今後紹介する企業が日々立ち向かうチャレンジの深みがより伝わると考えています。

※以下のインタビューは博士の許可を得て、博士がリードした研究コンソーシアムEXPROが発行した ホワイトペーパー『Where’s the beef in plant-based proteins? Finland may have the answer』の内容を基にしています。

なぜフィンランドがPlant-based foodで先駆者であり最良な実証実験場か

博士「フィンランドは人口・資源の少ない国ではありますが、イノベーション、特に「食」のイノベーションに関しては世界トップクラスです。実際にPlant-based foodの分野では先駆者であり、実証実験の場としてはとても優れています。主な理由は①豊富な自然由来の原料②「食」のイノベーション・カルチャー形成のための産学官共同プラットフォーム③消費者による新しい食べ物への高い受け入れ度合いの3つです。」 

①豊富な自然由来の原料

博士「フィンランドはオーツ麦(Oats)そら豆(Faba beans)菜種(Rapeseed)のような自然由来の原料でPlant-based foodに適した食べ物が豊富に穫れます。」

オーツ麦(Oats)
博士「フィンランドはオーツ麦の輸出で世界第2位を誇り、科学者たちはオーツ麦の食における活用方法で世界トップクラスの知見を生み出してきました。近年においてはPlant-based foodやdrinkの分野で大きな注目も浴びています。注目される背景としては、そのグルテンフリーの性質や高いタンパク質のアミノ酸スコア、水溶性食物繊維の一種であるβ-グルカンの豊富さなど、その健康志向と栄養価の高さがPlant-based proteinに適していると言えるためです。また、オーツ麦はオリゴ糖やラクトース、フルクトースやポリオールの含有量も少ないため、低フォドマップ食(Low FODMAP Diet)にも適していると言えます。」

そら豆(Faba beans)
博士「フィンランドのそら豆の生産には長い歴史があり、2021年には14.3Mkg収穫されていますが、そのほとんどは飼料目的です。そら豆は新しい品種であれば育種により食中毒の原因となり得るビシンとコンビシンの含有量が減少しましたが、それでも食としての利用は限られてきました。しかし、我々の知る限りではそら豆は食品に利用される植物性タンパク質濃縮物(タンパク質含有量60-70%)の形状ならフィンランドで作られています。」
※乾式および湿式による押出成形で肉のような食感を得やすい機能的分離物の形状は現在輸入に依存

菜種(Rapeseed)
博士「菜種はそのコンパクトな物理構造と、含有される反栄養成分から植物性タンパク質としての利用は容易ではありません。しかし、これらの課題を克服し、植物性タンパク質を生成できる生産プロセスを開発しているフィンランド企業もあります(企業紹介後述)。また、菜種油としてすでに消費者に広く認知されていることから、タンパク質の原料としても受け入れられやすいと考えられます。そのうえ、菜種のタンパク質には必須アミノ酸が理想的な比率で含有されており、今後Plant-based proteinとして大きな可能性を秘めています。」

選択する原料について
博士「現状、市場に出回っている多くのPlant-based foodは原料に小麦か大豆、またはその両方を使用しています。しかし、小麦のグルテンと大豆のGMOはいずれも消費者からの抵抗があり、また、いずれも大量生産が行われている国からの輸入に依存している傾向です。従って、Plant-based foodを開発するときは地産のものなど、サステナブルな原料をベースにすることが求められます。」

②「食」のイノベーション・カルチャー形成のための産学官共同プラットフォーム

博士:「フィンランドの世界的に評価された研究機関、国による強力な起業家支援体制、民間と研究機関による実績豊富な協力関係など、フィンランドにおけるイノベーション・カルチャーは研究機関*と大学機関*、そして民間企業との強固な連携により醸成されています。これらステークホルダー間の強い信頼関係により、フィンランドは「食」に関するイノベーションにも様々な専門知識を出し合って取り組むことができます。」

*研究機関:VTTおよびフィンランド自然資源研究所
*大学機関:ヘルシンキ大学、東フィンランド大学、ヴァーサ大学、トゥルク大学、アールト大学 等

博士:「実際本ホワイトペーパーの取り組みも、(上記のような)研究機関や大学機関、民間ではApetit Group, Compass Group, Fazer, Foodwest, Gold&Green, Lihel, Raisio, UltimaやWestMillsに加え、Buisiness Finland*が予算を拠出し、フィンランド産の原料を用いたPlant-based foodの開発・発展に向けたネットワーク強化のために産学官が一体となってイノベーションを推進しました。」

*Business Finland:フィンランドのイノベーション資金調達、 貿易、投資、旅行を促進する、フィンランド雇用経済省傘下の公社

③消費者による新しい食べ物への高い受け入れ度合い

博士:「消費者による新しい食べ物への受け入れ度合い("Consumer acceptance")はPlant-based foodが一般消費者に広く普及する上でとても重要です。フィンランド人は新しい食べ物を試すことにとてもオープンです。実際フィンランドは今まで驚くような食べ物を多く市場に出しています。数年前のFazer社による「昆虫パン」もその一つです 。フィンランドで当時結構流行りましたよ 笑」
博士:「消費者のこのオープンさが新しいPlant-based foodを試す上での実証実験場として最適と言えます。提供するチャネルとしては、スーパーマーケットでの販売に限らず、レストランやフードデリバリーも美味しいPlant-based foodを消費者に紹介する上では重要な役割を担っており、実際フィンランドではPlant-based foodをメニューの一つとして提供するレストランも増えつつあります。」

フィンランド発の成功事例

博士:「フィンランドの企業でPlant-based foodの先駆者としてすでに成功している事例を、フィンランドで取れる自然由来の原料ベースでご紹介します」

オーツ麦(Oats)を活かした事例

博士:「チョコレートで有名なFazer社、フィンランド最大のオーツ麦生産者のRaisio社、フィンランドの乳製品最大手Valio社など、フィンランドにおける大手食品企業の多くがすでにオーツ麦を活かしたPlant-based foodを手掛けています。」
博士:「Fazer社はオーツ麦ではもともと主にパンの原料として利用していましたが、他にもAuroraという、オーツ麦を様々な原料として使用できる製品を開発しています。Raisio社のOat Bran Concentrateは、グルテンフリーのオートグローツ(外皮のみを取り除いたもの。米でいう玄米の状態)から製造してオーツ麦の最高の部分をすべて残しているため、タンパク質と繊維が豊富です。また、世界中から愛されている、シリアルバーなどで有名なElovena(エロヴェナ)もRaisio社の製品の一つです。Valio社はGold&Greenというオーツ麦をベースとした代替肉ですでに米国やオーストラリアにも展開している企業を2022年3月に買収しています。」

そら豆(Faba beans)を活かした事例

博士:「Raisio社のBeanitはそら豆を原料とした代替肉です。北欧で育ったそら豆を使ってフィンランドで作られ、小売りやレストランなどのチャネルを通して販売されており、国外ではすでにポーランドやスウェーデンなどでも販売を開始しています。」

菜種(Rapeseed)を活かした事例

博士:「フィンランドのAvena Nordic Grains社*は先ほど言ったような菜種の構造的な問題を解決し、様々な食品用途向けにデザインされた成分としてパウダー上で生産し、BlackGrain from Yellow Fieldsというブランドで販売しています。この菜種パウダーは3-in-1、タンパク質・繊維・油の完璧なコンビネーションで作られており、EUにおける新規食品(Novel food)*としても認められているため、EU圏のマーケットで販売可能です。」

*2022年12月現在、社名をApetit Kasviöljy Oyに変更済み
*EUにおける新規食品(Novel Food)規制

今後Plant-based foodは「発酵」が中心

博士「現在、Plant-bsed foodの開発は「発酵」が中心となっています。具体的には伝統的な発酵(Traditional fermentation)の方であり、精密発酵(Precision fermentation)ではありません。私は最近伝統的な固体発酵にフォーカスした研究プロジェクトに参画しまして、食事をよりPlant-based foodにシフトするために発酵をどのように利用できるか、栄養上の利点、味、食感を改善するために発酵はどのように役立てることができるかの研究を始めています。」

博士「ただ、発酵に限らずPlant-based foodの研究で難しいのは原料の性質を十分に理解し、加工や製品の品質を一定のレベルまで上げることです。本ホワイトペーパーの基となったEXPROの研究プロジェクトでも様々な原料に対して予測ツールなどを用いてその性質の理解を進めましたが、例えば魚や鶏でもその構造は完全に異なります。タンパク質の構造や筋肉量に限らず、味や脂身なども十分に理解した上で似た形状・食感を作り、それをヘルシーに、さらにもっと一般消費者でも手の届く値段に。。。とてもチャレンジなことです。」

日々の研究でご多忙の中、本インタビューに笑顔でご対応くださった博士

博士「伝統的な発酵において、フィンランドは他国、例えば日本からも学べることが多いかと思います。そういう意味でも今後フィンランドと日本が知恵を出し合い、国を跨いでイノベーションを起こしていければいいですね。」

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