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短歌

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短歌六首*秘密の呪文

短歌六首*秘密の呪文

いつだっていっぱいいっぱいなんだけど仲間といるとき楽になれる

スピードや強さではなく丁寧さを大切にする一つ一つに

楽しいと思う心で満たされておだやかに手を動かしている

足りなさを足してくれてる人がいる要らないところ削られてゆく

どうしても避けられぬとき唱えるは秘密の呪文五回念じよ

セーターの毛玉取り器を取り出して秋を刈り取る少しだけ青

草のかんむり*短歌七首

ひとりきり国王だけの王国の王のかんむり草のかんむり

曇天にレモンを一つ投げ上げる君からもらった野球帽ごと

コンビニのレジであわててしまうとき好きな音楽流れてきたら

キッチンは31.3℃カレー煮ているデリーかここは

盤面を見ても何にも分からぬが好きな駒はまっすぐの香車

夏草の匂いの記憶七月は私の中にあるはずのもの

野葡萄のまだ小さくて青い実を小鳥はいつかついばみに来る

綿菓子*短歌五首

綿菓子*短歌五首

綿菓子のように甘くてすぐ消えると思っていたけど苦く残った

忘れてはいけないことがきっとあるあなただけしか見えないときも

青と黄のクレヨン買い占め街中のシャッターに描くひまわり畑

不誠実なわたしのメッセージあの人の病に障るなど自惚れだけど

もし君と会えなくなっても会えてても地球は回るし太陽は燃える

四月を滑る*短歌八首

春がきてさみどりいろのけやきの葉ねむの葉のように風にそよいだ

ひこうき雲消えゆくときも真っすぐに君の中に見た春のはじまり

この春のいちばん大きな満月に向かってフリースローの真似を

新しいメモリスティック挿しこんで今日までのこと上書きしていく

自販機の新商品の涼し気なパインソーダをいつも見ている

花に名があってよかったきみに歌があってよかったもう少し歩ける

十月の辻を今年また歩くだろうよ

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水平線の広がる画面

灰色のクマ胸元に寄せてみるどこでもドアはおはなしの中
ベローチェに音楽のない日曜日クラウド上の別れのことば
さようなら古いノートよさようなら少し傾いたようなやさしさ
壁を向き枕に頭のせたとき枯葉を踏んだような音する
何してもうまくいかない夜がきて何度も読んだ本を手に取る
夜よりも深い手紙を書きたくてインクの黒がかすれていく音
今夜また「夜が明けたら」流れくる泣いているかも知れぬ兄さん
冷蔵庫に調味

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短歌三十首

「気づかないうちに二人」
 
 
離陸する飛行機にキミ見とれてる「ディパーチャー!ディパーチャー!」いずこへ
キミからの春のハガキに描かれたサクラは少し憂鬱に見ゆ
七月のあぜ道ホタルの飛び交って一度だけキミと見られて良かった
泳いでたキミの匂いのような歌うたう調子っぱずれのスピッツ
願いごとは心の中にしまっている銀河は見ない七月七日
屋台見る順番もキミが決めていた今年の七夕自由なんだな
さよならは

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短歌十首

短歌十首

「春十色」                   
 
 
春を待つ君にひと枝 沈丁花 香りの中で目覚めますよう
 
ちぎれゆく思い集めてつないでる君の心に春は来ている
 
冬の中に春があるなら凍てついた君に一輪 水仙は咲く
 
あと少し春が来たなら凍えてる君の心も解けゆくだろう
 
虫たちが土から這い出て来るように暗い部屋からきっと出られる
 
バス停で見送る君に手も振らず 春がみじかく呼吸してい

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「オーケストラ」BiSHへ*短歌二十首

「オーケストラ」BiSHへ*短歌二十首

くるしげなブレスで歌う少女たちつながるかなあ手をのばしてる
 
 見上げれば空しかないね この声も涙もすべてオーケストラに
 
つないだ手以上に近くにいたのかな許されていたことさえ知らず
 
 坂道であの子のうそに泣いた夜 二度と会えないから忘れない
 
 いまどこでなにをしてるか分からない あのボタンだけしまっておいて
 
 きみだけに見せてたぼくはもういない一人になってなにを歌うの
 
輝いて

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短歌二十首「観覧車とロフト」

短歌二十首「観覧車とロフト」

「観覧車とロフト」

「凍らせた豆乳をアイスコーヒーに浮かべてみた」と呟いている

夜明け前mixi見るとまたきみもこんな時間に起きているのか

封筒にダンシングくまを描き添えたあの子はきょうも手紙待ってる

雷に怯える猫を抱き上げた ここにおいでよいつでもいいよ

わたしたちしばらく子供のままいよう自然と大人になれないからは

キッチンはわたしの小さな世界です姫ひなげしは散ったけれども

焼き菓

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短歌十首

短歌十首

 
木漏れ日の坂
 
 
ずいぶんと時間かかってたどりつくありがとうって素直な言葉
 
椎の木の坂の途中で一度だけ見た木漏れ日は記憶の中に
 
花だから移る色さえ美しい人は変わらぬ心求める
 
ポケットにパインキャンディー入れて行くひんやりとした貯水池の道
 
寂しくない人生はない失わない人生はないシャガが咲いてる
 
キッチンでニュース見ながら蕪を煮たハルキウに響く無伴奏チェロ組曲
 
此処にい

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春四首+1

春四首+1

あたたかい雨が草木を育んで もう会えないがまた花は咲く

影踏みでつかまえられない春のかげ浜辺に映える白いくるぶし

レジャーシート出せば去年の砂粒が浜辺で洗い流したはずの

春が来る新玉ねぎの形して 歩き始めた子どものもとへ

ホチキスで留まらなかった一枚を小さく追って胸のポッケへ

フリースロー

日焼けした少年たちがバスの中に夏のにおいを持ち込んで来た

思うように生きてゆけない ゆっくりとフリースローを投げるまねする

まっくろな影法師ふたつ歩いてる肩と肩とが重なっていく

短水路に木の葉浮いてる いつまでも泳ぎ続けたおととしの夏

この胸の花に名まえをつけた人ことばと共にあなたは今も

河川敷を自転車で行く分からないことしかなくてあすしかなくて

夕まぐれややうつむくと街の灯が川面に映

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秋の十首*ライムソーダもしくはミッフィーのドウダンツツジ

秋の十首*ライムソーダもしくはミッフィーのドウダンツツジ

にがうりが黄色くなってわれているすこしすずしい風が吹いている
生きていくための持ち出し袋には刺繡道具とみすゞ飴しのばせ
目覚めると左手で握りしめているアイフォーン誰ともつながれずいる
ハルシオン花の名まえに似ているねつめたい水とのどをすぎゆく
そんなにはたやすく変われないでしょうライムたらしたソーダの香り
アマゾンで買った左川ちか全集 目で見えるものを見ているわたし
「しあわせになってほしいと思わ

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冬五首

冬五首

街道に木枯らしが吹くパーカーのフードを被る根の国どこに
夜の道しめった土の匂いして目を凝らしても静寂の音
寂しさを愛そうとした深い夜あの歌が胸を刺し貫いた
過ぎていく貨物列車の屋根の上あの日が笑って手を振っている
老犬は夢に見るのか飼い主の幼い頃を冬のひだまり