短歌三十首

「気づかないうちに二人」
 
 
離陸する飛行機にキミ見とれてる「ディパーチャー!ディパーチャー!」いずこへ
キミからの春のハガキに描かれたサクラは少し憂鬱に見ゆ
七月のあぜ道ホタルの飛び交って一度だけキミと見られて良かった
泳いでたキミの匂いのような歌うたう調子っぱずれのスピッツ
願いごとは心の中にしまっている銀河は見ない七月七日
屋台見る順番もキミが決めていた今年の七夕自由なんだな
さよならは季節終わりのくちなしの茶色のようだ憎しみ合えば
人生は寂しいものとキミは言った暗い木陰にシャガが咲いている
夕日受け少し傾き立っている気づいても袖も掴めなかった
イニシャルの入った栞ちぎれてる 夜が怖くはなかったはずだ
六月が行くのをバスを待ちながら見ていた去年は気づかなかった
キミがつけたしるしはすぐに消え失せた背中の痛み夏のひきしお
道連れになってもいいと一度だけ口にした同じこと考えていた
枯れかけたあじさいを切る古い池香りのない花は夢と同じだ
生きる事つらくなっても生きるのは傷つけてしまった人がいるから
つらいのは悲しさよりも悔しさが勝ってしまうということなのだ
夏の朝おでこにムヒを塗っている大抵のこと不平等だな
暗くなり雨が降り出し閉じる夏至来年こそは花を食べよう
板張りの古いキッチン真裸でぬるいチェリオを瓶のまま飲む
今日はただ炭酸水が弾けてる音を聞いてたシャツも洗わず
「いま雨が降っているから季節には花が咲くんだ」静かに父は
種を蒔き水を絶やさずホウセンカ こんな風にすれば良かった
あじさいが父の不在の訳を訊くつぼみがやっとついたばかりの
今朝やっとホウセンカ一つ白く咲きわたしの夏が報われていく
行先は絶望だったと知っていても 駅にはキミが赤く待っている
いま声を出せば悲鳴になるだろうカモミールティーをゆっくりと飲む
赤黒き心臓のごと温室のバナナの花を食べたのはキミ
やや苦いゼロカルピスの甘やかさ嘘は一つもなかったと言い
バゲットを切って半分とっておく信じてるのか明日があること
あすが来る きょうの思いは刻まずに時計の針は重なるままに

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