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おなじ光について

 川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』を久しぶりに読み返した、おそらく10年ぶりくらいだった。  ほとんど内容を憶えていなかった。それは単純に年月のせいもあるだ…

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1年前

海辺のエトランゼ

 空いた時間に何か映画を観ようと思ってアマプラを開いたら、ちょうど1時間弱のアニメ映画が目についた。サムネイルのやわらかい絵柄にも、男性同士の恋愛を描いていると…

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2年前

芥川龍之介歌集

 月並みな表現だが、芥川龍之介の言葉選びが好きだ。彼の書く熟語やカタカナ語の表現がかっこいいから。村上春樹も、ジェイ・ルービン選『芥川龍之介短編集』の序文で「芥…

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2年前
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地獄の黙示録

 昨日「傷ついた退役軍人の息子」が出てくる映画を観て、奇しくも今日は戦場にいる(いた)軍人の物語を観た。まえに『闇の奥』を読んで、やはり「何かを探す」物語が観た…

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2年前

スタンド・バイ・ミー

 何日間かひとりで遠くに来ることになったので、できるだけ多くのものを観たり読んだりして、感じたことをなるべく言葉に残しておきたい、の第一日目。  「死体探し」の…

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胸の炎は消えず

 メイ・シンクレア『胸の火は消えず』は10年間くらいずっと気になっていて、5年間くらいずっとAmazonの「あとで買う」リストに入っているけれど、再版はしないし中古も高…

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2年前

『善の研究』研究準備

 自分の考えていることや感じていることを言葉にすることは、それを外の世界へひらくことであり、同時に、自分の心の内奥へと潜っていくことでもある。暗くて底の見えない…

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2年前
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すばらしいこの世界

 ひとのを借りて、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(ハヤカワ文庫、大森望訳)を読んだ。  最近はすこし肉体的・精神的(おなじ意味だ)余裕ができて、また…

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2年前
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おなじ光について

 川上未映子の『すべて真夜中の恋人たち』を久しぶりに読み返した、おそらく10年ぶりくらいだった。

 ほとんど内容を憶えていなかった。それは単純に年月のせいもあるだろうけど、読んだ当時はあまりピンとくる話ではなかったからではないか、とも思った。女性の生き方についてであったり、労働についてであったり、社会に出てからの孤独についてなどは、最近やっと知識や実感を得たものばかりで、学生生活を享受しそれ以外

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海辺のエトランゼ

 空いた時間に何か映画を観ようと思ってアマプラを開いたら、ちょうど1時間弱のアニメ映画が目についた。サムネイルのやわらかい絵柄にも、男性同士の恋愛を描いていると説明するあらすじにも興味を惹かれたから、あまりためらわずに再生をはじめることができた。

 でもやっぱり、私にとって恋愛、とくに恋愛の嫉妬し嫉妬されという側面は、共感が難しいという意味で苦手だな、とあらためて気づかされた。そこに恋愛特有の痛

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芥川龍之介歌集

 月並みな表現だが、芥川龍之介の言葉選びが好きだ。彼の書く熟語やカタカナ語の表現がかっこいいから。村上春樹も、ジェイ・ルービン選『芥川龍之介短編集』の序文で「芥川龍之介の文章はヴィジュアルもよい」というようなことを言っていた(たぶん)。
 彼の生い立ちを知り、作品とは別にそちらにも惹かれた。下町に住む庶民の「共同幻想」と都市のインテリの「共同幻想」に板挟みになる芥川、という図を最近見かけた(100

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地獄の黙示録

 昨日「傷ついた退役軍人の息子」が出てくる映画を観て、奇しくも今日は戦場にいる(いた)軍人の物語を観た。まえに『闇の奥』を読んで、やはり「何かを探す」物語が観たかったというのがはじめの動機だった。筋書きがほぼ同じだった。『羊をめぐる冒険』よりも『虐殺器官』をより思い浮かべた、主人公が染まっていくという要素をより強く感じたからかもしれない。主人公は最初から狂っていた、でも俯瞰的な目を持ちあわせていた

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スタンド・バイ・ミー

 何日間かひとりで遠くに来ることになったので、できるだけ多くのものを観たり読んだりして、感じたことをなるべく言葉に残しておきたい、の第一日目。

 「死体探し」の物語が観たくて思い出した映画。十数年ぶり。小さい頃に観て以来だったから、印象に残っている画面はあったけれどその内容はほとんど忘れていた。冒頭の新聞記事とか、焚き火のそばで彼が泣いていた理由とか。
 四人とも傷を抱えていた。それは誰か個人の

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胸の炎は消えず

 メイ・シンクレア『胸の火は消えず』は10年間くらいずっと気になっていて、5年間くらいずっとAmazonの「あとで買う」リストに入っているけれど、再版はしないし中古も高額なままなので、いまだに読めていない。一生読めない気がする。

 たぶんNHKでやっていた、宇多田ヒカルのドキュメンタリー番組のある場面をよく頭のなかで反芻することがある。そういうときはたいてい悲しいときだけれど。何気なく見始めた番

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『善の研究』研究準備

 自分の考えていることや感じていることを言葉にすることは、それを外の世界へひらくことであり、同時に、自分の心の内奥へと潜っていくことでもある。暗くて底の見えない竪穴(そこには霧もかかっている)の、もろい外壁にそっと梯子をかけながら降りていくように。だから(だから?)『メイド・イン・アビス』のような、「底へ降りていく」物語の、その構造が好きだ。あるいは『少女終末旅行』のような物語が(これは「昇って」

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すばらしいこの世界

 ひとのを借りて、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(ハヤカワ文庫、大森望訳)を読んだ。
 最近はすこし肉体的・精神的(おなじ意味だ)余裕ができて、またちゃんと本を読む時間をとることができるようになったから、純粋にうれしい。雪が積もって、労働がなくなって、しんとした窓辺でずっと本を読めたらなおのことよかったけど、そううまくはいかない。それでも悪くはなかった。あまり贅沢を言うものではないし。

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