芥川龍之介歌集

 月並みな表現だが、芥川龍之介の言葉選びが好きだ。彼の書く熟語やカタカナ語の表現がかっこいいから。村上春樹も、ジェイ・ルービン選『芥川龍之介短編集』の序文で「芥川龍之介の文章はヴィジュアルもよい」というようなことを言っていた(たぶん)。
 彼の生い立ちを知り、作品とは別にそちらにも惹かれた。下町に住む庶民の「共同幻想」と都市のインテリの「共同幻想」に板挟みになる芥川、という図を最近見かけた(100分de名著の教材らしい)けど、そういうやさしさがいいなと思った。やさしさだけではなく、どちらにも馴染めない、違和感を抱えていたのかもしれないけど、それも含めて。
 青空文庫を眺めていたら歌集があったので読んだ。彼の扱う言葉のうち、熟語やカタカナ語だけではなく、ひらがなの表現も好きだと気づいた。やさしさだ、と思った。

やはらかく深紫の天鵞絨をなづる心地か春の暮れゆく

 最初に載っていた歌からもう、既にだった。

片恋のわが世さみしくヒヤシンスうすむらさきににほひそめけり

ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり

かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき

 聴覚や嗅覚、色彩に依る歌と、「恋のかなしみ」の歌が目立った。
「砂上遅日」という最後の章には、好きだと感じる歌が多かった、それはたぶん、「光」についてだったからだ。

うつゝなきまひるのうみは砂のむた雲母のごとくまばゆくもあるか

八百日ゆく遠の渚は銀泥の水ぬるませて日にかゞやくも

いさゝ波生れも出でねと天高ゆ光はちゞにふれり光は

「光はちゞにふれり光は」

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