味の記憶2_001

味の記憶#2『ビーツと豆腐と葱のサラダ・檸檬の香り』

野菜と旅するさんのカラフル大豆と種取り野菜SET(2019.1.19発送)に合わせて書いたコラムです。

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大学卒業後の2008年7月から1年7ヶ月、私はオーストラリアにいた。

最初の7ヶ月のシドニーでの都会暮らしの後はずっとオーストラリアの東海岸を、北はケアンズから南はタスマニアまで、National Parkをひたすらめぐって山歩きをしまくる車旅生活2ヶ月と、旅の最後の、時に気温が44度になるような砂漠地域でのぶどう狩りバイト2ヶ月(洗濯物は一瞬で乾く)以外は、WWOOF(=Willing Workers On Organic Farms)という、住み込み型ボランティアのシステムを利用しながら5箇所のお家にそれぞれだいたい1ヶ月ずつくらい滞在して、畑を手伝ったり、チーズをつくったり、薪ストーブでお菓子をつくったり、森にブラックベリーやカレンツを摘みに行ったり、生みたての卵でパスタを作ったり、名前も知らないような田舎で自給自足的な暮らしを体験していた。ある場所では電気・ガス・水道がないから川で体を洗うついでに料理用の水を汲みに行ったり、またある場所ではシャワーから皿洗いから(しかも太陽の熱(そして薪火)で温められている!)料理まですべて雨水だったりもした。


(電気ガス水道なしの暮らしだった頃は、川で体を洗ったらそのまま同じ石鹸(手作り)で服も洗っていた。そして、料理もこの川から20リットルタンクに水を汲んで一輪車で運ぶ暮らし。)



当時のWWOOFは各地のホストの情報が載ている本がメンバーシップの代わりになっていて、そこに載っている情報をもとに気になったところに直接ホストに連絡をとるシステム。
車旅生活にいい加減飽きた頃、次なる滞在先として選んだのがNew South Walesの北部、ヒッピーやサーファーが多いことで有名なByron Bayからほど近いMurwillumbahにあるNeil&Kittyの家だった。

Neil&Kittyの敷地はとっても広い。
端から端まで歩いたら、山道というのもあってかなりいい運動になる。しかも、ここでの主な仕事が植林と外来植物ランタナの駆除だったので、それぞれの作業に使う道具(どうやって木を運んでいたのだろう、覚えていない)を持って移動すればなおさらだ。


こんな感じでひたすら植林。


敷地内別の場所からこんな感じ。広い。遠い。
他にもたくさんの植林スポットがある。



しかもちょうどこの年2008年は深刻な水不足で、普段空になることはまずない雨水タンクがいつ空っぽになってもおかしくない状況で、Neil&Kittyの家はトイレがコンポストではなくて、水洗だったので外で用を足すのを積極的に促されていた。敷地は広いがトイレは家にしかない。それでも午前中はずっと家から離れたところで作業でしている。そうなるとまぁ茂みで・・・というのも日常だったりするそんな暮らしだった。(隠れるところはいっぱいある)


(隠れ放題。)



ここでの暮らしで印象的だったのは、二人がたまにいろんなところに植物を植える”Guerilla Gardening”に行っていたこと、敷地内にアボカドの木が生えていて取り放題だったこと、そして元看護師でありヨガのインストラクターでもあるKittyによる畑の野菜をメインに使った美味しいご飯と、週に2回のヨガだった。

Kittyのヨガは、彼女の師匠に倣ってヨガをしている時はおならもげっぷもあくびもなんでも好きな時にウェルカム!体を解放しよう!という思想。
食物繊維が多くておならやげっぷが出やすいヴィーガン(たぶんだけど)生活には、これは本当にありがたくて、ヨガをしながら、ヒーリングミュージックの中にげっぷとおならの音が混ざっていたのは最高だった。初めてがっつりヨガをした経験がKittyでよかった、と今でも思っている。

そして美味しいご飯。

自給自足がベースで、私は当時ヴィーガン寄りのベジタリアンだったので、WWOOFホストを選ぶ時もヴィーガンやベジタリアンのホストを選んでいたのだけど、ヴィーガン・ベジタリアンの人は料理好きが多いようでどのWWOOF先に行ってもおいしくておもしろいものを食べていた。
Neil&Kittyも料理好きのベジタリアンで、ここでもおいしいものを本当にたくさん食べた。

その中でも特に印象に残っている食べ物のが3つある。

1つ目がローラザニア。
私にとってのローフードとの出会いがこれで、本当に衝撃だった。
ズッキーニとローのトマトソースと、確かほうれん草とが層になっている。しかも加熱一切なし。この時受けた衝撃は忘れられない。

2つ目が、ライスプディング。
お米を炊いて余った時に登場して衝撃的だったデザート。
炊いて余ったお米にコンデンスミルク、レモンの皮、ローストしたサンフラワーシードと胡桃を混ぜただけ。これがあまりにも美味しくて、お米の登場を、そしてそれが余るのを心待ちにしていた記憶がある。

そして3つ目は、ビーツのサラダ。

茹でたビーツに、小さなキューブ状に切った固い豆腐(オーストラリアのスーパーで売っている豆腐は基本的に木綿よりもずっと固くて日持ちもして、ヴィーガン料理にはかなり重宝していた。)、細かく切ったネギと、レモンの皮、そしてマヨネーズを合わせたもの。

サラダにキューブ状に切った豆腐を入れることがなんだかおもしろく感じて、しかも後を引く美味しさだったんだと思う。

”思う”というのは、正直に言うと味をまったく覚えていないからだ。
でも、私は帰国後にこのビーツのサラダをどうしても再現したくて、でもビーツを育てている農家さんが周りにいなくて(最近ちらほら見るようになったからありがたい!)、でもやっぱりどうしてもあのビーツのサラダを再現したくて、そこで手に入る冬の定番野菜をつかってオマージュ版のレシピで作ることになったのである。

それが、今回紹介する大根とネギのサラダ・檸檬の香りである。

今ではすっかり自分にとっての大根の季節が来れば必ず作る定番おかずになっていて、アレンジにアレンジを加えてもはやレシピは原形を留めていない。しかし、このサラダを作る度に思い出すのである、あの頃の景色を。あの頃もがいていた自分自身を。

そんなわけで、ここにいろんな大根があるんだから作るしかないではないか。



大根とネギのサラダ・檸檬の香り

初期の頃は「おしゃれな大根のサラダ」と呼んでいたくらいに、いつもの大根の印象がガラッと変わっておもしろい。いろんな大根を使って、ビーツが手に入ればビーツも少し忍ばせると大根がほんのりピンク色に染まってうっとり食卓が華やぐのでおすすめです。

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