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2015年4月の記事一覧
silver story #28
#28
そこは、限られた空間のようだった。そう、洞窟のような感じで、でも息苦しさはないがやはり肌にまとわりつくようなねっとりとした空気だった。
遠くに見える灯りを頼りに歩いて行った。途中に何ひとつ障害になるものはなくまるで歩く歩道のように、スーっと前へ進んで行った。
だんだん明るい丸が大きくなり出口か入り口かわからないがとにかく灯りに近づいて行った。
瞬きした瞬間だった。
silver story 【祀りの日】#27
#27
祀りの日までは、だらだらとバリの時間が過ぎるのを楽しんだ。何年もここにいるかのようにバリの日常を過ごした。
そして、いよいよ今夜はお祀りの日だ。
サリナちゃんは朝からそわそわして部屋中をいつものように飛びはねる様に歩いたり、くるくる回ったりしている。
今日はユキさんも休みで、忙しく今夜の準備をしていた。
祀りは昼過ぎから始まるようだ。村の奥にある祠から神様を迎え入れ
silver story#26
#26
バリの時間はゆったりと流れていく。何もしなくても、光の流れ方を開放された部屋から見ているだけでも飽きずにそこに居られる。
足を怪我している私だからこそ味わえる贅沢な時間。
そばには人生のとても深いものを抱いているお母様が居て、彼女の深いものを考えるだけでも、言い方は悪いがワクワクしてしまう。
家事の合間に一息つきながら少しだけ話してくれる彼女の思い出は、とても温かくて、
silver story#25
#25
西側にある建物は解放的で広いテラスがありそこに連れていかれた。
カウチに座らされてゆっくりと足を投げ出して寝るように促された。
「それはユキが造ったよ。」
「そうなんですか?スゴくキレイですね。」
ユキさんはバリの家具造りの職人で主にウォーターヒヤシンスという水草を材料とする家具を造っているらしい。
初めてあった時、穴からユキさんの手をつかんで思った苦労をしている手
silver story【お母様の家】#24
#24
近づいてくる神様の化身に少しだけ緊張しているとだんだんと太陽の光に照らされてきたその顔は優しい微笑みだった。
その微笑みを見た一瞬で気持ちが楽になり、腹をくくるなんて思っていた私がなんておろかなんだろうと恥ずかしくなった。
村長さんの心の広さ、あのお母様とユキさんを受け止めた寛容さを改めて感じてしまった。
結果はどうなるかわかない。もしかしたらお母様はここを離れるかもしれない
silver story#23
#23
ユキさんが出かけるので私とサリナちゃんはお母様の家に行くことになり、すなわち村長さんと過ごすことになる。
とても気まずいのではないかと思ったがこの状況では仕方なく何を言われようと何が起ころうと腹を括るしかないと覚悟を決めた。
ユキさんはサリナちゃんにお祖母ちゃんの家での約束を言って仕事に出かけていった。たぶん、複雑な気持ちのまま仕事に行ってしまったのだろう。
少し離れた
silver story#22
#22
ズキズキと疼く足の痛みで目が覚めた。 三人が三人とも泣き疲れてそのまま寝てしまっていた。
ただ私だけは、怪我してるからかカウチに横に寝かされていた。二人で運んでくれたみたいだ。
まだ日が登ってないせいか少しだけ吹く風が気持ちよく、随分しのぎやすい朝だった。
それにしても、昨日はスゴい夜、いや1日だった。 この人たちとの出会いから今のこの状況が、まだ頭の中で整理がつかず頭が痛
silver story 【バリの神様】#21
#21
静かな時間が流れていった。
二人の涙は、二人のそれぞれの心の隙間をふさぐまで止めどなく流れているようだった。
私も彼女らの心にシンクロしてしまい涙が止まらなかった。
長い長い時間を行ったり来たりしたみたいで、この夜は深くて濃いものになっていた。
バリのシヴァ神にお母様は見いだされたのがもしれない。
破壊と再生の神様シヴァに。
今、長い年月を経て本当の心、本当の親
silver story#20
#20
私はカメラを取ってもらい
光一さんの画面を探した。
ここに来る前の日にギャラリーに寄った時、なんだか不意に光一さんを撮りたくなって1枚だけ撮ったのだった。
ギャラリーの表で ギャラリーのシンボルである一面ヒマワリの咲いている絵の前で、優しくはにかむ光一さんの姿が写っていた。
「ユキさん、どうぞ。これが光一さんです。たぶんあなたのお父さんです。」
ユキさんはカメラを手に取
silver story#19
#19
光一さんにそんな過去があるなんて。
そういえば、光一さんの写真があるはずだ。ここに来る前に、二人で写したやつがあるはずだ。
でも、それをお母様に見せるべきか、どうなんだろうか、ためらいながら聞いてみた。
「光一さんの今の姿、見ますか?お母様の想いを考えるとお伝えするか迷ったんですが、こんな奇跡ありませんよね。どうしますか?」
「ミセテクダサイ。ミタイデス。ワタシノホントノ
silver story#18
#18
「彼が街に行く前の日に撮った写真です。
彼は私のこの目が好きで、いつもキレイだと言ってくれた。日本に来たらその瞳をもっと輝かせてあげるよ。と言って私を日本に連れていく約束をしてくれたのです。
その時、見ていた星空です。」
なんてステキな、それでいてなんて切ない星空なんだろう。
でも、こんな美しい星の写真を撮るなんて、カメラの腕前もかなりのものだと、この作品を目の前にして、冷
silver story#17
#17
お母様は、瞳を閉じてフーッと深いため息をつくと、いとおしいそうにテーブルの上の封筒を手に取り、私の写真集と同じ様に胸に抱いた。
中から出てくるいにしえの恋人との思いでと自分の生きてきた証と対面しようとしていた。
私とユキさんは固唾を飲んで見守った。中からどんな物語が出てくるのか興味津々だった。
彼女は、封筒を胸からテーブルに戻し中の物を大事そうに取り出した。
「あぁ
silver story#16
#16
夜も更けてきて、テラスからくる風が汗ばんだ体に、心地よかった。
テラスのブランコが揺れて奏でる規則的なリズムが、その場を繋いでいた。
何を言っていいのかわからなかっから、彼女からの言葉を待った。
「ユキ。大丈夫よ。ありがとう。ママ、うれしいです。彼が生きていることがわかりました。たぶん、生きている。
私のパパやあなたのパパのしたこと、仕方ないですね。今、ママは幸せだから、パ
silver story#15
#15
「君には黙っていたけど、あの頃、前の村長つまり、君のお父さんから 頼まれたんだ。元々僕たちは親が決めた許嫁どうしで、僕は君のことが好きだったから、いっしょになるのが当然と思っていたし、待ち遠しかったよ。
なのにあの男が来て君が夢中になっていくのを見ていて辛かった。とても辛かった。
村長も自分ガ連れてきたものだから困り果て、ある日、彼に話したんだ。僕もいっしょにね。
僕たちが許