silver story #28

#28
 そこは、限られた空間のようだった。そう、洞窟のような感じで、でも息苦しさはないがやはり肌にまとわりつくようなねっとりとした空気だった。

 遠くに見える灯りを頼りに歩いて行った。途中に何ひとつ障害になるものはなくまるで歩く歩道のように、スーっと前へ進んで行った。

 だんだん明るい丸が大きくなり出口か入り口かわからないがとにかく灯りに近づいて行った。 
 
 瞬きした瞬間だった。真っ白い閃光で思わず強く目をつぶってしまった。 

 
 恐る恐るやっとの思いで目を開けた。

 
 
 物が見えるまでしばらくかかったが、ぼんやりと見えてきたのはモノクロの世界だった。

 うっそうと茂った木々が拡がっていて、中央に祠があった。バリの独特の型でかなり古いもののようだった。だけど、そこは色がなくシロとクロの世界だった。 

耳鳴りはやまなかった。むしろ酷くなってきたがだんだん慣れてきて、その音に神経を向けていくと、それは何かの信号のようなリズムになってきた。

モノクロの森の中を進んで行きながらその信号に意識を集中していると信号が言葉のように聞こえてきた。

何か聞こえる。いや、何か言っている。何か繰り返し言っている。

ト……ナ……トキ…テ……
トキ……サレ………トキハナタテ。

トキハナタテ。……サレバ
ムクワレル。

トキハナテ! サレバ ムクワレル‼︎

ああ‼︎
前に聞いたことのあるフレーズだ。
そう思った時誰かに腕を掴まれて目が覚めた。

「大丈夫ですか?」
それは、ユキさんだった。

「サヤ、ダイジョウブ?スゴクツラソウデシタ。」

「大丈夫ですよ。不思議な夢を見ました。本当に不思議な夢を見ました。なんだか、今からのことのような……え!足が!足が、痛くない。」

「ホントデスカ?サヤ」

「本当に痛くないです。なんで、だろう。」

「ホントデスカ?」

「ほら、ほんとに痛くないですよ。」

私は、カウチから立ち上がって自分でも確かめてみた。ほんとに痛みがなくなっている。

あの夢のせいなのか?

すでに、祀りの不思議な力が私にまで及んで来たのか?

やはり、バリの神様は私を、私に何かを成し遂げるように働きかけているんだ。

あの時、穴に落ちたのも、こうしてこの家族に出会うためのは必然的なことだったんだ。

確かな確信と、何かしら不思議な熱いものが身体中を巡りまくっている。

早く、早くその場所に行きたい。早く、早くその時を感じたい。
バリに来た意味。バリで成し遂げるであろう事。

今の私に与えられた大切な役割を、思う存分やり遂げたい。

いや、知りたいのだ。

台所から漂う、バリ独特の香辛料の香りが部屋中を包みこんできた。
こんな時でも、お腹はすくもので、熱いものがますます込み上げてくるのを感じながら、お母様の手料理を存分に味わっていた。

バリの伝統を体に宿すように、私の細胞に染み込ませるようにしっかり味わった。

それは、私がやるべき、祀りの前の儀式のようなつもりで。

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