silver story#22

#22
ズキズキと疼く足の痛みで目が覚めた。 三人が三人とも泣き疲れてそのまま寝てしまっていた。
 ただ私だけは、怪我してるからかカウチに横に寝かされていた。二人で運んでくれたみたいだ。

まだ日が登ってないせいか少しだけ吹く風が気持ちよく、随分しのぎやすい朝だった。

それにしても、昨日はスゴい夜、いや1日だった。 この人たちとの出会いから今のこの状況が、まだ頭の中で整理がつかず頭が痛いくらい混乱していた。

ユキさんもお母様もテーブルから顔を上げて朝の仕度にかかろうとしていた。

あんなことがあっても日常に戻るのだ。

「スラマット パギ。」
「オハヨウゴザイマス。」

基本の挨拶だけは覚えていたからついつい言ってみた。日本語が通じるのに、案の定日本語が返ってきた。

みんな笑顔だった。
清々しい顔だった。ただみんな目が真っ赤で腫れぼったくなっていたのでお互いにばつが悪そうに笑ってしまっていた。

 ユキさんは仕事があるので普段通りの身支度をしていたし、お母様は私やサリナちゃんたちの朝食の仕度にかかっていた。 

暫くしてキッチンから日本ではない香りが漂ってきた。

身支度を終えたユキさんとまだ眠たそうなサリナちゃんが来て、バリの家庭の朝食が始まった。

テーブルに運ばれてきたのは、ロントンというご飯代わりのお餅と茹でた空心菜にチリソースをからめたプレチン・カンクンという料理だった。

みんなで食べながらも昨日のことは誰も口にせず、サリナちゃんの可愛らしいおしゃべりがその場の空気を和ませてくれた。

お父様はどうしたんだろう?ふと思ったが、聞くことをやめた。たぶんお母様となにかしら話し合ってのこの朝食なのだろう。

バリの普通の家庭の日常。
バリの普通の家庭の朝食。

これから起こるあらゆる変化の前の、静かな儀式のようだった。

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