silver story#19

#19
 光一さんにそんな過去があるなんて。
 そういえば、光一さんの写真があるはずだ。ここに来る前に、二人で写したやつがあるはずだ。
 でも、それをお母様に見せるべきか、どうなんだろうか、ためらいながら聞いてみた。

「光一さんの今の姿、見ますか?お母様の想いを考えるとお伝えするか迷ったんですが、こんな奇跡ありませんよね。どうしますか?」

「ミセテクダサイ。ミタイデス。ワタシノホントノ パパ ミタイデス。」とユキさんは、私に懇願してきた。

当然のことだ。ユキさんはずっと知りたかったこと、会いたかった人だろうから。

お母様の方を見ると、目を閉じて静かにこの状況を噛み締めているようだった。
 あまりにも唐突で、あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、私だったらどんな風になっていただろうか。

取り乱して、村長さんにひどい言葉を浴びせていたかもしれない。
 ユキさんのお母様は、ほんとに静かに向き合っている。さっき呟いた一言が彼女の想いの全てなんだろう。

「生きていてくれた。」その一言。

愛した人が生きていたという事実を知った喜び、それだけに彼女は向き合っているような気がする。

私もユキさんも待った。お母様の言葉を待った。

 通りすぎる風の感覚、揺れ動く木々の音、虫たちの声、テラスのブランコのリズム、全てがお母様の言葉を待っていた。

「沙弥、ユキに見せてください。私は、いいです。」

「ママ、アリガトウ。ママハ ミナイノ?」

「ママは、いいです。」

「そうですか。わかりました。ユキさんだけに、見せますね。」

なんとなく分かる気がする。
どうして彼女が見ないのか。
 何十年もの間、忘れていたかもしれない、昔の自分を、愛していた人を、そんな自分が見ていいのか。それから今まで幸せをくれていた村長さんに対する裏切りになるのではないかという思い。

 勝手に私は思い込んで、彼女にはそれ以上聞くことは、やめた。 

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