silver story#26

#26
 バリの時間はゆったりと流れていく。何もしなくても、光の流れ方を開放された部屋から見ているだけでも飽きずにそこに居られる。
 足を怪我している私だからこそ味わえる贅沢な時間。

 そばには人生のとても深いものを抱いているお母様が居て、彼女の深いものを考えるだけでも、言い方は悪いがワクワクしてしまう。

 家事の合間に一息つきながら少しだけ話してくれる彼女の思い出は、とても温かくて、あの光一さんだからこそ感じられる出来事だなあ、と思った。意外に情熱的な面もあったのには驚いた。

 村長さんが話し合いに行っているという村の祀りのことがふと気になってきた。
 もしかしたら私が探し求めていたものかもしれない。

 あまりにも衝撃的な1日で私は、本来の目的を忘れていたのに気づいた。
 ここ、バリに来た目的を今の今まで忘れていた。
 
バリでは観光客相手のケチャではなく本物のケチャを撮りにはるばるやって来たのだ。

もしかしたらここで、出会えるかも知れない。

「ねぇ おかあさま。もうすぐあるんでしょ?この村のお祀り。どんなお祀りなの?」

お母様はキッチンの作業の傍ら話だした。

 「毎年この時期に作物の豊作と災いから逃れるように祈願をするんだけど、別の意味もあると言われているのよ。」

「別の意味って何ですか?」

「それはね、めったにないことらしいけど、そこに降りたった精霊に見出だされたものだけが感じる、見えたりもするらしいんだけど、その人へのメッセージが送られるらしいのよ。

 私はまだ、感じたこともないし聞いたこともないんだけどね。」

「その時にはケチャ。わかりますか?それもやるんですか?」

「ケチャ?ああ。観光用のアレね。たぶんあなたが知ってる物とはちょっと違うことはするわよ。

男の人達が、祈りを捧げることはするわよ。
それとね、その時、あの子が踊るわよ。
この祀りには、汚れなき少女が欠かせないのね。
今年はうちのサリナがその役を受けてるのよ。」

「へぇ。すごく楽しみです。もうすぐでしたよね。」

「明後日の夜よ。」

どんなお祀りなんだろう。それに、別の意味っていうのがすごく気になる。
何かが起こるのを期待させるような風が舞い込んでいた。

 昼前のまだ熱を帯びてない爽やかな風だった。

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