silver story#25

#25
西側にある建物は解放的で広いテラスがありそこに連れていかれた。
カウチに座らされてゆっくりと足を投げ出して寝るように促された。
 
「それはユキが造ったよ。」

「そうなんですか?スゴくキレイですね。」

ユキさんはバリの家具造りの職人で主にウォーターヒヤシンスという水草を材料とする家具を造っているらしい。

初めてあった時、穴からユキさんの手をつかんで思った苦労をしている手というのはそういう訳だったんだ。
 使い込んだ職人さんの手だったんだ。

私が寝ているカウチもそれは美しい仕上がりで、象牙色の編み込みのウォーターヒヤシンスと焦げ茶色のほどよい固さのマットが、上品さをかもし出している。高級ホテルとかに置かれている家具らしい。
そんな立派な仕事をしている自立した女性のユキさんだからこそ、お母さんの昔の行動に理解があるのかなぁと思った。

 足の痛みはまだあるが折れてはないみたいでお母様の手当てで何とかいけそうだった。

ひんやりとした肌触りのいいカウチに触れていると、いつの間にか眠ってしまっていた。

 そして夢を見た。
あたり一面オレンジ色で、遠くの方は強い光、金色だった。
眩しくて目が開けられないくらいの光だった。

その時、声とは違う意識というかテレパシーというか、とにかく頭の中にスーっと言葉が入ってきた。

トキハナテ イヤサレル

光が強くなって私の頭に覆い被さってきたとこで目が覚めた。

一体なんだったんだろう。
 
先に部屋についていたサリナちゃんから炭酸水をもらってスッキリ目が覚めた。

サリナちゃんはお友だちの所にいく準備をしてさっさと飛び跳ねて出ていった。

村長さんは二日後にあるという村のお祀りの話し合いとかでまた出掛けていった。

私とお母様と二人きりの時間になった。

お母様は多分知りたいだろう。かつての恋人の今を。
コウイチさんのことを。

コーヒーを運んできたお母様は私の向かい側に座って静かに微笑んでいた。

「聞かせてちょうだい。あの人のことを 元気なの?」

どう切り出していいかわからなかったからハッキリ言ってもらってよかった。

「はい。光一さんは東京でギャラリーを開いてます。私がまだ学生だった時に知り合いました。
そこは、まだ売れてない写真家や画家たちの作品を展示してくれたり アドバイスしてくれたりして、色んな話もしてくれて 田舎から出てきた私にはお父さんみたいな存在です。
 まさかこんな巡り合わせがあるなんて、未だに信じられないんですよ。」

「ほんとよね。まさかあなたがコウイチを知ってるなんて、しかもあの時と同じような出会い方をあなたともしたなんてね。
 おかげで、主人の気持ちや、コウイチが、あの時、なぜいなくなったのかもわかったから、どこか空っぽだった私の心が埋まった気がします。」

「それで、お母様は光一さんに会いたいですか?会いに行きますか?」

「……まだ、わからないわ。」

 当たり前のことだと思った。あの時のままではないから、怖いのもあるのかも。
 光一さんの気持ちが変わってしまってるとか、村長さんに申し訳ないとか、今の家庭が変わってしまうとか色々考えてしまうよね。
 自分だったらどうするだろうか?
 
難しい選択だ。

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