silver story#16
#16
夜も更けてきて、テラスからくる風が汗ばんだ体に、心地よかった。
テラスのブランコが揺れて奏でる規則的なリズムが、その場を繋いでいた。
何を言っていいのかわからなかっから、彼女からの言葉を待った。
「ユキ。大丈夫よ。ありがとう。ママ、うれしいです。彼が生きていることがわかりました。たぶん、生きている。
私のパパやあなたのパパのしたこと、仕方ないですね。今、ママは幸せだから、パパにも感謝しています。」
その時また、テラスから村長さんが入って来た。手に何か持っていた。
ずいぶん古い封筒で大きなものだった。
「はい。君に。
これ預かっていたけどどうしても、渡せなかった。
彼が日本に帰る時君にいつか渡してくれと頼まれていた。ずっと後ろめたかったがやっとこの日が来たね。」
そう言ってテーブルの上に封筒を置いて、また部屋を出ていった。
たぶん、彼女の反応が怖かったのだろう。本当に愛した人に心を向ける彼女の姿を見たくなかったのだろう。
お母様は、目を細めて中から出てくるいにしえの恋人との思いでを、いや、もっと重いもの。
自分の生きてきた証を手にとろうとしていた。
私とユキさんも、すでに緊張していた。
お母様のいにしえの恋を目の前にしているからだ。
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