ぽりeん

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  • 近代短歌

    近大短歌の主要歌人の代表歌を引用し、その語注から季語につなげ、俳句を引用した記事です。

最近の記事

思えばずっと寝不足だった と 鳶が言った ああ あなたに休める場所などなく ずっと飛んでいたのだと ずっと揺れていたのだと 鳶 遠くの海は広かったか 大きな国はあったか わたしはそれを知らない わたしはそれを知らないから わたしの知らない寝床を あなたは夕立として教えてほしい ゆれ て ひとりと思い出した夜 落ちたあなたは早くなって あなた を忘れてしまう そこに そこにわたしはいるだろう そこにわたしは広がっているだろう 思えばずっと寝不足だった と わたしはいう あ

    • もくもくする

      みちのそこに おちるおとを ひろうような ひびのなかで たいようがむり してひかっていて 目をとじるとすべて 死んでしまったのだと 側溝にいる人もいる 道端には木がある 国の味くらいは知りたい 算数は苦手だから海だ 船はさかさまに進みだす 僕はそれを希望のように知って ジップロックをひらきはじめた 世界は小さくてかわいい

      • 詩を中心に、中野重治について

        中野重治年譜(一九〇二~一九七九)一九一九 旧制第四高等学校文化乙類に入学 一九一九~二一 校友会雑誌『北辰会雑誌』  短歌、「塵労鈔」(四編) 一九二三 関東大震災のために疎開していた室生犀星を訪ね、以後関わりを持つ 一九二四 東京帝国大学文学部独文科に入学 一九二五 文芸雑誌『裸像』…大間知らと創刊  「浦島太郎」~「浪」(二〇編)   ※「大道の人々」は一九二三年に新聞に投稿か 一九二六~二七 文芸雑誌『驢馬』…窪川鶴次郎、堀辰雄らと創刊  「たばこ屋」~「彼が

        • 風が見ている

          春休みになって冬眠をはじめたように寝る時間が遅くなった。今までは朝から大学に向かい、口元を隠しながら授業を受ける蝉のメスの生活をしていたから、産後というか死後というか、とにかく今は手に入れた時間を独りじめしたくて、夜に縫われながらぼそぼそと読書やら何やらをしていたのだ。オレンジの照明に照らされて熟れた右手を見ると空腹を感じてしばしばキッチンに向かったが、炊飯器を開けても黒黒とした球体が見えるばかりで、仕方なくコップに水をくんで自室に戻った。 ある日ベッドの上で些末な動画を見

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        • 近代短歌
          12本

        記事

          まだみていないかた

          さかさまのしたいがうえをむいてあるく きのうのはちうえにはえがたかっている そらがあわにみちていてきもちわるい くじらのうらにわすれぐさをそなえる がいこつのついこないだのてぶくろ しろぼしのためにあかとあおはある じうかぞえるあいだにそくらてす はんがあらっくなとうめいのきみ ひだりてにてほどきされてしぬ してないからあげものにする ほねにひろわれているゆうげ ぼおだあれすのすとらいぷ いっしょういっしょいしょ さいたさいたいたいたいた たがいちがいにもやす はなむけにうみ

          まだみていないかた

          前途多難という話

          だれにも伝わらないようなツイートをしてしまう。たとえば。 これはMETEORというラッパーの曲「4800日後」から採ったものだ。採った、と言ってもサビに特徴的な語尾を抜き出しただけで。 このパッセージは反復され、二度目は二行目が「君も変じゃないしね」に変わる。なんだか環境に流される自分たちを簡単に擁護しているようだ。 しかし、それまでの歌詞はもっと熱いものだ。「俺とお前」は夢を追いかけていて、互いをリスペクトしている。「ばあさん」が「数珠」を握るように、自分は「マイク」

          前途多難という話

          自由律短歌集『十一人 : 第一歌集』を読む(二)

          はじめに書誌情報、執筆の動機などは(一)を参照してください。 吉川夏子「菊の感覚」「菊の感覚」もただごと歌に近いものが多い。 しかし、感情と実景(映像)の組み合わせはとても短歌的で、あまり自由な表現ではないように感じた。 松田稔「富士が見える」「富士が見える」の主体は患者だ。既に入院しなければならない病を負う身にとっては、「手」の傷さえもまじまじと見つめざるをえない。 「富士」を楽しんで「あるいて」いても、「青空」に痛みを感じながら「歩みつづけてゐる」。病は喜びの隙間

          自由律短歌集『十一人 : 第一歌集』を読む(二)

          自由律短歌集『十一人 : 第一歌集』を読む(一)

          はじめに小関茂という歌人が話題になりはじめている。 これからも名前を聞くことがあるだろう。彼の歌をまとまった形で読める本を探していたら、『十一人 : 第一歌集』(白日社、1930)という歌集を見つけた。「覚え書」を見ると、機関誌「十一人」の合同歌集であるらしい。分かりにくいが、「十一人」の同人は十三名で、歌集には十二名の作品が収録されている。編者は中野嘉一。自由律短歌を実作・評論の両面で支えた歌人である。 特徴的なのは、多くの歌人が短歌のあとに小文を載せている点である。近

          自由律短歌集『十一人 : 第一歌集』を読む(一)

          工場腸切先

          ブックカバーが愛情だけで出来て いるとしたら、人の死んだ街を歩 くのは君だろうね。観測者を失っ た星は転がってレジの引き出しに 入る。下水には砂糖が満ちていて 、でも誰も寄りつかないから、時 折クジラのように波打っている。 私を後ろから抱きしめ るものがいたら、まず は両手を左右に開いて 、菜の花畑のふりをし てください。そうした ら私は銃を下ろして君 と同じ色の服を着ます。 本は二百年前 に滅びました 。あれから言 葉は全て声に なりました。 硝子の 罅の鼠 の産毛

          工場腸切先

          過去

          針をひとつ右足からいれて 膀胱からつきぬけたとき 猫は永遠に欠伸していて そこに飴が満ちていた 足元にも傘が必要だと思いませんか? ほら、骨があって、皮があって 私をあまり見ないでください 太陽は風を吹いて とっておいたカウンターの臓器を ひとつずつ朝のように開いて 琥珀の渚にとうめいが 鍵の向こうに手を振った すこしひとしくなってきた はい。これまでを つまんで 棚のうえに置いておきます

          19歳の小文、さいご。

           何だか急に感傷的な言葉を書けなくなってしまった。比喩を凝らしてみたがどうにも据わりが悪くて消した。  次の文章を書くことさえおぼつかない。書き残さなければならないことなどない。では、今なぜ言葉を打ち込んでいるのだろうか。  成長の証として重ねられる年はこれが最後で、これからは一年一年喪失を感じなけらばならないのだとしたら、盛大に祝福すべきこの瞬間に不安を覚えていることが面白く、そのズレを愛撫しながら一時間十分ほど過ごしてみようかと思った。  先に、少し前につくった短歌

          19歳の小文、さいご。

          橘曙覧メモ

          「独楽吟」抄(『志濃夫廼舎歌集』橘曙覧、井手今滋編、一八七八) 【引用】Wikisource「独楽吟」より十五首選 https://ja.wikisource.org/wiki/%E7%8B%AC%E6%A5%BD%E5%90%9F (閲覧2022-12-19) 橘曙覧(一八一二~六八年(文化九~慶応四年)) 橘曙覧略歴橘曙覧は一九一二年、現在の福井県に生まれる。二歳のときに実母が没し、母の生家である府中の山本家に引き取られて養育を受ける。十歳のときに継母、十五歳のときに

          橘曙覧メモ

          19歳の小文、いち

          18歳の僕にしか書けない文があるのなら、19歳の、朝6時10分まで起きている僕にしか書けない文があるはずだ。あいまいな気分でいたらこんな時間になってしまった、もうすぐ20歳になる、なにか書き残さないといけない、小さく身震いした。 窓の向こうから車の往来する音が聞こえる、と書いて、いつの間に車の音を聞き分けられるようになったのかと呻吟する。それほどまでに僕は夜とともにいたらしい。 PCの音が聞こえる。なんて言えばいいかな、数百億人に踏みつけられて粉々になった閻魔さまの宮殿前

          19歳の小文、いち

          からたち

          わたしのかかと は まあるい から つまさきは後ろを剥く わたしのかかと は ゆうるくて つまさきは俺曲がる くうるるるるりりりりりりりん 眼球はくつがへつても真実は見れません 眼球はくつがへつても後ろは見れません 死ねませんよ それは味蕾です がしゃがしゃの頸椎はじぇんがです 胸骨はまうすぴーすです 死ねませんよ バかリ 取り外しができます くうるるるるりりりりりりりん ゆーうつーとやーらがーばるるるるーんに穴をあけましたー 回腸があふれふれふりまあす 裏側はコバンザメでえ

          からたち

          短歌しりとりアーカイブ

          歌一覧1~50 僂麻質斯病みをる媼等にあひ交り日ねもす多く言ふこともなし 斎藤茂吉『つゆじも』 視野のはしに子は摑りて望みおり瞳にうつりつつ夜の航跡 石本隆一『木馬騎士』 きみの手とまだ温かいバケットをやさしく握って歩く陽だまり 丘光生『塔』2022年4月号 林檎むく音伝ひつつ暮れがたはひとの芯なる骨も冷ゆらむ 横山未来子『とく来りませ』 胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし 前川佐美雄『植物祭』 しのぶれど色に出でにけり我が恋は物や思ふと人の

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          ボードレール「通りかかったその女」試訳

          ボードレール 通りかかったその女 耳を聾する往来は、私の周りで吠えたてる。 すらりと伸びた身に喪服、愁いをたたえ厳かに、 女はひとり過ぎ去った。飾りつけた片方の手で、 裳裾の縁を摘まみあげ、花の飾りを揺すりつつ。 いと貴やかに軽やかに、石刻の脚あゆませて、 私は錯乱したように、おののき震え飲みこんだ。 彼女の眼から――それは空、嵐を孕む藍色の 心を溶かす優しさと、死に至らせる悦びを。 閃光……次に夜の底。――美しき人は失われ、 投げかけられた眼差しが、わたしを蘇ら

          ボードレール「通りかかったその女」試訳