19歳の小文、いち

18歳の僕にしか書けない文があるのなら、19歳の、朝6時10分まで起きている僕にしか書けない文があるはずだ。あいまいな気分でいたらこんな時間になってしまった、もうすぐ20歳になる、なにか書き残さないといけない、小さく身震いした。

窓の向こうから車の往来する音が聞こえる、と書いて、いつの間に車の音を聞き分けられるようになったのかと呻吟する。それほどまでに僕は夜とともにいたらしい。

PCの音が聞こえる。なんて言えばいいかな、数百億人に踏みつけられて粉々になった閻魔さまの宮殿前の砂利道、を通る一人の未就学児の足音だろうか。指先が冷えている。両手を恋人のように合わせた。まだ夜は深い。

読書灯は本棚の方を照らしている。それは至極正しい。読書灯のライトは明るすぎるので、いつも僕ではない方を向いている。くりかえすが、それは正しい。並んだ本の背の文字の光を受ける。吉野弘詩集、谷崎潤一郎詩集、一握の砂……眼を背けたくなるが、決して眩しいからじゃない。ただしい。

6時20分になった。窓を見返すと、網戸を拭い去るようにして、微かな光が差していた。だれかがトイレのドアを開ける音が聞こえる。それはいま、ここに初めて鳴った音だった。

18歳の僕にしか書けない文があった。19歳の僕がいなくなろうとしている。それが何だろうか?でも、1が2になってしまうことが、何故だか妙にさみしいのだ。

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